後日談4 レベル

「あれなんだろう?」


 秋葉原の路上に人だかりが出来ている。あかり(29)たち四人がかき分けて中に入るとそこではエルフの撮影会が開催されていた。


「こっちに視線お願いしまーす」

「ローアングルは禁止ですよ」

「萌萌~」


「あれってあかりおねえちゃんじゃない?」

「確かにあかりに見えるけど、メイが来たって言ってなかった?」

「なにそれ、またあかり?あかりって名前多すぎじゃない?」


 兄妹が会話しているところにあかり(29)が割り込む。


「ちょっと呼んでみよう」

大学生が言う。


「あかりー」

エルフは気が付かないようだ。


「メイ!」

エルフが振り向いた。金髪の少女に目を止める。


「シャルロット!」

エルフが手を振りながら走ってくる。


「やっぱりメイちゃん?みたいよ」

「なんでエルフになってるの?」


・・


「シャルロット王女、無事でよかったです!」

あかり(29)の隣でさっきのエルフの少女が金髪の少女と話している。なぜか言葉は通じるようだ。日本語に聞こえる。そして大学生がエルフに話しかける。


「なんでメイがあかりになってるの?」

「えっと、ていうことはフィンね!会いたかった!」

エルフが大学生に抱きつく。その隣の妹が不満そう。


「おにいちゃんはシャリのだから」

「えっと、それじゃシャリさん?無事だったのね!よかった!」


 あかりは何がなんだか意味が分からない。というか自分が書いている小説のキャラクターが勢ぞろいだ。思わずつぶやく。

「誰かどういうことか説明してよ……」


 露出の多いエルフがあかりの方を向いてニッコリする。


「ってことはあなたがあかりちゃん?」

「私の名前はあかりだけど……」

「ちゃんと来てくれたのね!」

「誰か説明してよ!」


・・


「とりあえずドリンクバー五つ」


 ファミレスの席にちょっと狭いけど5人で座る。29歳OL、大学生男、女子高生、金髪でドレスの王女様、そして露出の多いエルフ。謎の光景だが東京のファミレスではある意味ありふれた景色なので誰も注目しない。


「どうもあかりだけ記憶がないみたいなんだ」

大学生がおもむろに話し出した。他の三人があかりを見る。あかりはびっくりして叫ぶ。


「そんな、私が記憶喪失みたいなこと言わないでよ。私はちゃんと記憶ありますよ、っていうかあなたたちは何なのよ」

「山峰あかりさんですよね」

「そうだけど」

大学生が話しかけてくる。


「あなたのお兄さんはどこですか?」

「私のお兄ちゃんは……もう10年以上前に行方不明で……っていうか、なんでそれを?」

「あなたのお兄さんはとある神社の祠に入ったまま行方不明になったんですよね」

「何で知ってるの?」

「あかりちゃん、私に見覚えない?」

エルフが話に割り込んできた。


「見覚えなんて私はエルフに知り合いなんか……いや、なんか、頭が……」

あかりは頭を抱えてファミレスのテーブルにうずくまる。


「シャリはドリンクバー取ってくる。シャルロットも行こうよ」

「私も行く」

エルフも一緒に立ち上がった。

「僕コーラお願い」


「ふっふっふ、ドリンクバーから新しい生命の誕生ですよ」

下が黒くて緑に泡立ち上が白い液体を持ったエルフが帰ってきた。あかりに手渡す。


「これ、あかりちゃんにですよ」

「自分で飲みなさいよ!」


・・


「こっちの生活はどうなんですか?」

自分はアイスコーヒーを飲みながらエルフ少女が大学生に聞いている。


「まあ夏休みだし、妹も来てるからごろごろしてるけど」

「こっちの世界の記憶はあるんです?」

「ある程度戻ってるから困ることはないかな」

大学生が答えるとエルフが畳みかける。


「ところで恩恵は使えます?」

「それは使えないみたい。転移しちゃったからかな」

「レベル上げれば使えるかも?」

「それはちょっと思ったんだけど、どうやったらレベル上がるかわからないんだよね」

「ゴブリンを倒すとかですかね?」

「ゴブリンいないし」


 なんだかゲームみたいな話をしている。


「あかりちゃんの記憶もレベルを上げたら思い出すかもですね」

「でもどうやって?」

「一時的にでもレベル上げればなんとかならないですかね」

「えっと」


 大学生とエルフはシャルロットという名の金髪少女のほうを見た。


・・


 あかりの部屋。1Kの居室に五人が集まるとちょっと狭い。


「あかりちゃん、そこでちょと屈んで。うんそのぐらい」

エルフが細かく指図する。


「それじゃシャルロット、レベルブーストお願い」


 金髪の少女があかりに近寄ると頬にキスをした。え?っとびっくり顔をしたあかりの目が大きく見開かれ、何度かぱちくりしている。


「思い出したー!」


 あかり(29)が大声で叫ぶ。


「ていうか、なんでメイが私の体に入ってるのよ!」

「あかりちゃん思い出したのね!よかった!」

「あかりおねえちゃん、わかる?」

横から女子高生があかりに声をかける。


「え、じゃあこれがシャリ?ということは……」


 あかりは隣の部屋に住んでいる大学生の顔をまじまじと見つめる。そして。


「お兄ちゃん!」


 ぎゅうっと抱きしめた。


「感動の再開やねー」

「メイちゃん何で関西弁?」


・・


「ところで記憶が戻ったということは恩恵も使えるんですかね?」

「あかり、やってみてよ」

「えーっと、マジックミサイル!」

あかり(29)の指から光の矢が一本飛び出し、指している先のゴミ箱に穴をあけた。


「使えた……」

「こっちの世界でもレベルさえ上げれば魔法が使えるんですね!」

「びっくり。なんでだろう」

「多分ですけど……」

エルフの恰好をしたメイが首をちょっとかしげる。


「この世界も実はコンピューターの中なんじゃないですかね」

「mjd!」

「シャリはおにいちゃんと一緒ならここがどこでもいいよ」

「おにいさんもやってみます?」

シャルロットが大学生に訊ねる。


「やってみる!」

「ちょっと屈んで、はいじゃそこで」

シャルロットが彼の頬にキスをする。そして。


「炎!」

手から炎が出た。


「ていうことは……」

びっくりして自分の手を見つめている大学生を、あかりがじっと見てなにか考えている。


「お兄ちゃん、急いで外の人のレベルを見て回ろう!」


・・


「0,0,0,0,0,0、……」

 駅前に立って、通る人をせっせとレベルを計測する。当然のようにみんなレベル0だった。計測の途中でレベルブーストが切れたけど、シャルロットに再度ブーストしてもらったらそのまま継続できた。最終的にこの日はレベル1.5まで上がったところで終了。夜も遅くなって来たし。ブーストが切れると0.5になってるはず。


「これ明日もやればレベル上がりそう」

「じゃあフィンとシャルロットはそれで頑張ってください。私は明日は秋葉原です」

エルフ姿のメイが言う。


「その恰好で?」

「シャリさん服貸して」



~~~

カクヨムコン9には作者新作の妹ラブコメを公開中です。ぜひどうぞ!


双子の義妹のどちらかがベッドにもぐりこんでくる

https://kakuyomu.jp/works/16817330667406755788

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