後日談5 あかりとメイと秋葉原

 レベルブーストが切れてもあかり(29)の記憶は消えなかったが、魔法は使えなくなった。どうも恩恵はレベルがないと使えないらしい。


 夕食後、あかりの部屋でベッドの上にメイ(エルフ)が寝転んでいる。あかりも同じベッドに入り込むと、そのほっそりとしたエルフの隣に横たわる。

 ちなみにシャルロットは隣の部屋で兄妹と一緒に寝ることになった。


「1000年生きなくてもいいって思ってたけどそのお肌の若さはうらやましいわね」

間近でエルフの美形な顔を見ながらあかりがつぶやく。


「レベルを上げてアンチエイジングの恩恵を取ればいいんじゃないですか。フィンのお母さんみたいに」

「うーん、この世界だとレベルってどうやって上げたらいいんだろう」

「フィンがいるじゃないですか」

「まあ、やっぱりそれかな」


 あかりは納得しかけたが、問題はそういうことではないよね。


「っていうか、なんでメイが私の体に入ってるの?」

「これはあかりちゃんをモデルにしたホムンクルスなので正確に言うとちょっと違うんですけどね」

「なにそれ」

「錬金術で作ったクローンみたいなもんですかね」

「なんで私なのよ」

「だってもう向こうの世界にはあかりちゃんいないじゃないですか。著作権とか切れてると思うんですよ」


 著作権とかあるのか。


「いやいや、いつものロリ巨乳でいいじゃない」

「どうも同じ人は同じ世界に同時に二人存在できないみたいなんですよ。パウリの排他律とかそういうやつですかね」

「転生したんだから違う体なんじゃないの」

「どうも転生しても元の体とは量子もつれ的な関係があるみたいで……っていうかもう遅いから寝ましょう。明日は秋葉原ですよ」


 隣のエルフが目を閉じる。


「うーん、まあいいけど。夏休みだから一緒に行ってあげるわよ」

「ありがとうあかりちゃん」

「なんか自分と一緒にいるみたいで落ち着かないわね」





 翌朝、あかりはメイと一緒に秋葉原に向かうことになった。メイはベレー帽でエルフ耳を隠しているが、それでも端々から人間離れした美しさが垣間見える。


 電車の中で、あかりは気になっていたことをメイに訊ねることにした。


「もしいま中国に行くと元のメイがいるの?」

「そういうことになりますね」

「なんか不思議ね」

「でも私と王女がここにいるのは不確定性原理の揺らぎみたいなものなので長くはいられないんですよ。あと二日です」

「ふーん、ところでなんだけど」


 あかりが少しいいよどむが、また口を開く。


「いまのシャリの体にはもともと私が入っていたとしたら、それまで私が二人いたのかしら」

「それはないと思いますよ」

「っていうことは、お兄ちゃんもシャリも突然この世界に現れたってこと?」

「その可能性が高いですが、ひょっとしたら逆であかりちゃんのほうが突然現れたのかも」

「私、子供のころからの記憶あるわよ!」


 エルフが変なことを言ってきた。そんなわけがない……と思うんだけど。


「世界五分前仮説って知ってますか」

「えー」

「そもそもこの世界自体がつい最近できた可能性もありますし、あんまり考えてもしょうがないですよ」

「それって、昨日言ってたこの世界はコンピューターの中かもってこと?」

「そうですね。その可能性はありますね」

「えー」


・・


「あきはばーら、あきはばーら、でっかいな」

秋葉原の歩道を歩くメイが口ずさむ。


「それ何かの歌?」

「気にしないでください。とりあえず今日の予定はメイド喫茶を三軒と同人誌の大人買いですよ」

「まあいいけどお金は持ってるの?」

あかりが訊ねるとエルフがドヤ顔でうなずく。


「王女が付けてた金のアクセサリーをもらってくすねてきたのでそこの大黒屋で売りましょう」

「手馴れすぎなのでは」

「昨日調べたんですよ。売るのはあかりちゃんの名義でお願いしますね」


・・


「さすが本場のメイド喫茶は違いますね」

メイド喫茶でうれしそうにオムライスを食べるエルフ。その美形は店内でも若干注目を浴びている。


「違うって何が?」

不思議に思ったあかりがエルフに質問する。


「メニューが日本語です」

「なるほど」


 そういえばメイは転生前は中国のメイドカフェでバイトしてたんだっけな。


「それでこの後なんですけど」

「同人誌だっけ」

「できたらおねショタのショタ受けで、でもリバも捨てがたいかな、いい感じでおすすめ選んで欲しいんですけど」

「それなら任せて」

「お願いします!あかり先生!」

「没問題よ!」





 一方、家の近く、都内の駅前の路上。


「レベル上がった!」

「おめでとうおにいちゃん」

「ようやくですね」


 王女に何度かブーストしてもらいながら真夏の駅前で延々とレベルを計測し続け、1000人目でついにレベルが上がった。体の中からこみあげる感触がなんか懐かしい。


「いやー疲れた。二人ともお腹減ってない?」

今日はずっとこれをやっていたので空腹だ。そういえば今日の夕ご飯どうしよう。

『そういえば恩恵どうするか忘れてた!』


「あ、お兄ちゃんだ!」

「フィン!」

レベルが上がった時にちょうど駅からあかり(29)とメイ(エルフ)が出てきた。


「秋葉原は楽しかった?」

「はい!」

エルフが目を輝かせて両手に下げた紙袋戦利品を見せてくる。あかりも目をそらしているが両手に紙袋を下げている。


「僕もレベル上がったし、それじゃ夕食の買い物行こうよ」

「今日はパーティーだねおにいちゃん」

「シャリは何食べたい?」

「唐揚げ!」


フィン:レベル1(up)(人間)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎、クリーン、テイム(妖精)、言語理解、耐熱、隠ぺい、盾術、力持ち、覚醒、突撃、予知、解錠、反射、恩恵奪取、メッセージ、ライト、騎乗、スイッチ、疾走、跳躍、水、氷、毒無効、毒消し、巨大化、縮小化、風、土、クリティカルヒット、環境耐性、タイムストップ、召喚、レベル預かり、恩恵譲渡、料理(new)



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カクヨムコン9には作者新作の妹ラブコメを公開中です。ぜひどうぞ!


双子の義妹のどちらかがベッドにもぐりこんでくる

https://kakuyomu.jp/works/16817330667406755788

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