後日談6 富士山麓にワイバーン現る

 あかりの部屋は片付いていないため、兄妹の部屋にみんなで集まることになった。


「レベルアップパーティーだにょ」

秋葉原に感化されたメイがひさびさにメイド服を着ている。


「にょって古くない?」

「エルフだからいいんですよ」

「みんな唐揚げできたよー」


 兄妹が台所から山盛りの唐揚げを持ってきた。


「それじゃ、おにいちゃんレベルアップおめでとう!」

「無礼講よ!」

「とりあえずかんぱーいですよ」

「かんぱーい!」


 ジュースやらコーラやらで乾杯。あかり(29)はビールを飲んでいる。


「なにこの唐揚げすごく美味しいんだけど」

「今回の恩恵は料理だから」

「なんで?」

「なんでって美味しい方がよくない?」

「いいけど」


 みんなで唐揚げを食べているとワイバーンの時を思い出す。


「そういえばワイバーンの時は黙ってたけどヴィーガンって唐揚げはいいんだね」

「焼肉もOKです」

王女が手に着いた油を舐めている。そうなんだねと誰もそれ以上突っ込まない。


「ところで明日はどうします?」


 パーティーがひと段落ついたところでメイ(エルフ)が発言した。


「みんなどこか行きたいところある?」

「シャリはおにいちゃんと一緒ならどこでも」

「せっかくだからみんなでダンジョンでも行きたいですね」


 メイは能天気に言う。


「日本にダンジョンなんてないよ」

「そういえばお兄ちゃんが行った例の神社は?」

「あれダンジョンなのかなあ」

あかりに聞かれて思い出すがダンジョンって感じでもなかったような。


「どこにあるんですか」

「富士山の近くだから車ならすぐ行けるけど」

「私運転できるわよ。レンタカー借りよう」

「やったー明日はおにいちゃんとドライブだ!」

「ドライブって何?」

「遠乗りですよ。王女」


・・


「あれ、今日はメイがこっちで寝るの?」

「交代制になったんです」


 パーティーの後、兄妹の部屋にやってきたのはメイ(エルフ)だった。三人でベッドに横になって眠る。

 このぎゅうぎゅう感で記憶がよみがえってくる。向こうの世界を思い出す。


『向こうの世界の父さんと母さんは元気かな……』

目の前で寝ているエルフのきれいな横顔は向こうの世界にいた時の記憶と変わらない。背中に抱きついている妹の感触だけが昔と違うけど。


「こうやって三人で寝てると昔を思い出すな」


 そうつぶやくと、寝ていると思ったらメイ(エルフ)が目を開けてこっちを向いた。


「そういえばお父さんがフィン君はいつ帰るんだって言ってるんですけど」

「えっと」


・・


 中央自動車道から富士山に向かった奥地。湖のほとりにその神社はあった。ドライバーのあかりが車を降りると大きく伸びをする。


「疲れたわねー」

「お疲れ様ですー」

「ドライブって楽しいね」


 山の中の湖のほとりを大学生、女子高生、OL、エルフ、金髪美少女の五人で散策する。灼熱の都内と比べると天国のようだ。


「おにいちゃん、ダンジョンってどこにあるの?」

「ダンジョンと決まったわけでも……」


 グェ―


 大きな鳥の鳴き声がする。いや、鳥にしてはその声の主が大きすぎる感じの響きだ。


「この世界にもワイバーンっているんですね」

王女が感心したように言う。


「変なこと言わないでよシャルロット」

「だってそこに」


 グェ―


「mjd!」


 鬱蒼と茂る木の上からワイバーンが現れた。


「誰か武器持ってる人!」

あかりが叫ぶ。


「メイちゃん爆弾は?」

「体が違うから置いてきちゃった」

『こういう時に備えてこん棒の恩恵でも覚えておくべきだったか……いやまあいいか』

大学生が地面の石を拾ってワイバーンめがけて投擲した。


 グェグェグェ!


「やべ、ワイバーンが怒った」

「ダメージ足りてないわね」

「シャルロット、レベルブーストお願い!」


 シャルロットが女子高生に言われて頬にキスをする。


「おにいちゃん、攻撃力付与!」

「よし今度こそ!」

翼に投石が当たると今度はワイバーンもバランスを失いふらふらと高度を落とす。


「おにいちゃん、プロテクション!」

「いくぞー巨大化」

大学生がむくむくと大きくなる。そして。


「跳躍で突撃!」

巨人となってワイバーンに素手で掴みかかると、翼を引きちぎりにかかった。


 グェ―――


 逃げようとするワイバーンの首を格闘の恩恵で締め上げる。ワイバーンの尾が何度も刺さるが毒は無効化される。といっても痛いものは痛い。


・・


「レベル上がった!」

ワイバーンを一人で倒した結果レベルが上がった。恩恵はいまさらだけど、こん棒。


「おにいちゃんケガしてる。ヒール!」

ワイバーンの尾が刺さって血が出ているところに妹がヒールを掛ける。


「ありがとうシャリ」

「なんでここにワイバーンがいたのかしら」

「えっと、ダンジョンから出てきたとか?」

みんなが目をぱちくりとする。


「大変!」


フィン:レベル2(up)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎、クリーン、テイム(妖精)、言語理解、耐熱、隠ぺい、盾術、力持ち、覚醒、突撃、予知、解錠、反射、恩恵奪取、メッセージ、ライト、騎乗、スイッチ、疾走、跳躍、水、氷、毒無効、毒消し、巨大化、縮小化、風、土、クリティカルヒット、環境耐性、タイムストップ、召喚、レベル預かり、恩恵譲渡、料理、こん棒(new)



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カクヨムコン9には作者新作の妹ラブコメを公開中です。ぜひどうぞ!


双子の義妹のどちらかがベッドにもぐりこんでくる

https://kakuyomu.jp/works/16817330667406755788

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