98 続2

「おにいちゃん」

「なんだ、シャリ」

「おにいちゃんにはピンチになるとすぐ自分を犠牲にしてシャリを逃がそうとする悪い癖があります」

それ悪い癖なの?


「それにおにいちゃんは隠し事をする癖があります」

「そうかな」そんなことなくない?

「メイちゃんのお手伝いしてるのなんでシャリに黙ってたの?」

「いやだって内緒で手伝ってと言われたし」

「妹に隠し事はだめです!」

「いや、隠してたわけじゃないから。完成したら見せるってメイも」

シャリはむくれたまま。これもかわいいんだけどね。


「とにかくおにいちゃんは妹に情報共有が足りてないです」

そういう用語は誰に教わるの?


「だから今日は一緒に寝ることにします」

「くじ引きはいいの?」

「おねえちゃん達がレベルアップのご祝儀だって」


 シャリと二人だけでくっついて眠る。なんかものすごく久しぶりな気がするけど一年ぶりぐらいかな。メイとあかりは転移でどこかに出かけて行った。


「おにいちゃんの心臓の音を聞くの好きだったんだ」

シャリがなんか嬉しそう。


「おにいちゃん」

「なんだ」

「シャリも一緒に日本に行くからね」

「わかった」

シャリの顔が近づいてきた。細い金髪の頭をなでると目を閉じる。


 そっと唇を合わせる。


(・・ 約束だからね ・・)


 シャリを胸に抱いて眠る。相変わらずの細い体。僕の心臓の音を聞きながらシャリが話しかけてきた。

「ねえ、おにいちゃん」

「なんだい」

「おにいちゃん達が日本に行ったら、元の体に戻るのかな」

あんまり考えてなかったな。でもあかりの話を聞いた感じではその可能性はあるのかも知れない。


「どうなんだろう。そうかも」

「その時シャリはどうなるのかな」


 僕は妹をぎゅっと抱きしめる。

「おにいちゃんと一緒なら大丈夫だよ」

「うん」



「きょうだい会議を開催します」

議題は?今のところレベルアップの案件ないよね。


「私とシャリがレベル6でしょ。今度お兄ちゃんのレベルが上がった時にどっちのレベルを上げるか今のうちに決めときましょう」


「その時考えればよくない?」

「お兄ちゃんはすぐそうやって先延ばしにするんだから」

えー。


「順番で行くとシャリの次で私でしょ」

「おねえちゃん、前も先にレベル6になったじゃない」

「こういうのは歳の順で順番よ」

エルフが絶対勝つ攻撃に出た。


「若い方が先でしょ」

「子供は黙ってなさい」

「子供じゃないもーんシャリもう大人だもーん。税金払ったもーん」

シャリは年齢を低くサバ読んでいたが、出る前に14歳に修正申告して人頭税を払った。

「おねえちゃんこそ税金払ってないでしょ」

「エルフは非課税なのよ」


「またじゃんけんで決めない?」

一応口をはさんでみる。

「だったら、おにいちゃんが決めてよ」

シャリが答える。でもそういうの苦手なんだよね。


「 しょうがないわね」

あかりがスクッと立ち上がり言い放つ。


「妹妹会議を開催します!」

なんか僕は追い出された。


・・


「メイも追い出されたの?」

「だって妹妹会議だから」

「そういうもん?」


「そういえばこないだあかりちゃんと王宮に忍び込んだんですけど」

「全然話変わってるし大胆なことするね」

「最初は他のダンジョンの情報を探そうと思ったんですよ」

そうね。これ以上リザードマンに会うと気まずいしね。


「何か情報あった?」

「あかりちゃんが書庫を漁ってる間に立ち聞きしたんですけど、どうももう一人いるみたいで」


 その時、扉が開いて妹たちが出てきた。


「どうなったの?」

「妹同士でいがみ合う事はないって気が付いたのよ。お兄ちゃん」

「それはよかった」

やっぱり姉妹は仲良くないとね。


「というわけでおにいちゃんとこれから毎日ダンジョンだよ」

シャリが楽しそうなんだけど。

「しばらく大人しくしてた方が良くない?」

ほら、教会にも目を付けられてるし。

「そこは私が有耶無耶にするから」

なんとかするんじゃないのね。ていうか今、何の話してたっけ。


「それで、もう一人ってなんのこと?」

メイの話に戻る。


「妖精の子、です」


 沈黙。シャリとあかりがメイの顔を見る。



 第二部完。第三部に続く。

――

次回は幕間SS。その後、このまま第三部「完結編」に続きます。

――

挿絵はこちら

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652561200042

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