第七章 ダンジョンの定義をめぐり
第25話 金貨
トロールの宝については、お金は4人で等分に分けた。もめ事をなくすための慣習としてそういうものらしい。シャリはおまけとして小さな宝石をもらったがお金よりもうれしそうにしている。謎の木の棒はあかりがパクった。
この世界の金貨の値段を現代と一概に比較することは難しい。モノの値段が違いすぎるからだ。人件費が安く工業製品は高い。金属は高く、木は安い。金貨の重さは10g程度。10円玉二枚の重さ。もっとも金の純度は低いのだが。
僕は槍が砕けてしまったので、お金も入ったことだしオーダーすることにした。ウェンさんが見繕ってくれるそうだ。いい人だな。
シャリのメイスはどうするか聞いてみたが今のがいいみたい。まあ鈍器だから壊れるものでもないしな。
◇
「兄妹会議を開催します!」
シャリの説明によると、恩恵が発動してレベルが下がってしまったとのこと。覚えはないのだが現実的にレベルが下がっていると否定できない。そういえばあの時は変だと思わなかったのだが記憶を辿るとシャリのレベルは5でないとおかしい。
「僕のせいでレベル下がってしまってごめん」
「ドンマイよ!」
ドンマイなのか。
っていうかちょっと思ったんだけど、僕がレベル3になるたびにシャリをレベル5にしてシャリの恩恵が発動してがレベル下がったらまた僕がレベル3になるたびにシャリをレベル5にってのを繰り返したら恩恵の永久機関なのでは。いや、毎回死ぬのやだけど。
あかりが僕を上目遣いに見る。
「次は私よね?お兄ちゃん」
順番的にはそうなのかもだけど……
僕はシャリの目を見る。
シャリは僕を見て静かにほほ笑む。
「人間、レベルじゃないですから」
「ほら、シャリもああいってるし!」
「目の前のレベルに一喜一憂しないんじゃなかったの?」
◇
ウェンは手元にある金貨を眺めていた。多くは王国で流通している金貨であり、森を通る不運な旅人や夢破れた冒険者のものだったのだろう。一部はかなり古い年代のものもあり、長年あの洞窟に眠っていたのか、他の魔物からトロールが入手したのか。
問題はその中に三枚のローヌの金貨があったことだ。はるかな昔にこの地を勢力下にしていた古代帝国のもの。流通しているものではない。金の純度が高いため鋳つぶされてしまうのだ。戦利品を分配するとき、さりげなく自分の手に置いた。
『報告すべきか……』
上司である男爵家長男ケンプ団長にはゴブリンの巣のありかを探せと命じられている。その目的は古代ローヌの財宝を探すためだ。このコインは重要な手掛かりとなる。少なくともケンプの覚えはめでたくなるだろう。
思案する。カトリーヌの顔が頭に浮かぶ。そしてフィン少年とあの妹。
『さっさとゴブリンの巣を探さないとな』
自分が命じられたのはゴブリンの巣を探すことであってローヌの財宝を探すことではない。
◇
「おにいちゃん、レベルアップおめでとー!」
「お兄ちゃん、今日は無礼講よ」
「これ毎回やるの?」
「ちょっとデジャビュよね」
いやまあ、普通に上がった時はいいんだけどね。
「二回目のレベル3のパーティーとか、再婚した友達の披露宴みたいなもんじゃない?」
「しかも新郎新婦とも同じ人だったりとか」
「それってご祝儀払うの?」
「そういえば恩恵は?」
えっと。
「スタミナアップ?みたいな」
「なんで?」
「最近、体力の限界を感じて」
「中年っぽいセリフね」
そういえば……
「シャリ、それって?」
「うん、このあいだの」
シャリが首にチョーカーを巻いていた。黒の細い布が横一文字に首を巻いている。中央のさりげない金色の金具から長さ二センチほどの涙型の青い宝石が下がっている。
「えー、いいなー」
「えへ」
シャリがうれしそうにしている。僕も微笑んでしまう。
「なんかチョーカーっていいよね」
「ロリキャラの定番よね」
「微妙にいけない感じがそそるよね」
そういえばなにがそういえばだったんだっけ。
◇
夜。家族で並んで眠る。今日はあかりの方を向いて寝る。寒いのでみんなくっついている。背中にシャリの胸が当たっている。子供体型なのに押し付けてくると柔らかい存在を感じられるのが不思議だ。
上を向いて目を閉じたあかりの顔が月明かりに照らされている。僕の目の前、数センチのところにあかりの耳がある。エルフの尖った耳。人間では見ない形なのに美しい。
あかりが寝ながら頭を動かした。エルフの耳が僕の顔に当たる。頭を引いてちょっと避けると、さらに近づいてきた。耳が僕の口に当たる。後ろにシャリがいるのでこれ以上は下がれない。
僕は舌を出してあかりの耳をちょっと舐めてみた。尖ったところがどうなってるか好奇心が沸いたのだ。軟骨があるのかな?
ちょっと舐めただけでは感触がわからない。舌を押し付けてみる。
結局よくわからないので軽く咥えてみた。やっぱり軟骨が入ってるのかな。咥えたまま舌で舐めてみる。
他の部分と比較しないとわからないな。
耳の他の部分も舐めて耳の形を舌で感じとってみる。
なるほどよくわからない。
耳の穴はどうなんだろう。舌を突っ込んで舐めてみる。
「あ、」
あかりが声を出した。
起こしちゃったかな?
しばらく様子をみる。
あかりの頭が向こうに戻っていった。
結論として舐めてもよくわからなかった。
・・
朝、あかりの両耳が赤い。
「ねえねえ、あかり」
「なによ」
「その耳、触らせてくれない?」
あかりは顔まで真っ赤にして答える。
「レベル上がったらね」
――
シャリちゃんチョーカー挿絵です
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652766395596
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