第26章 お兄ちゃんを譲るわ
結局、あかりに
あかりを納屋に連れ込む。やっぱり連れ込むっていうとなんかあれだな。気が散るからシャリには外にいてもらう。当事者以外がいると恥ずかしいんだよ!
「お兄ちゃん!」
干し草が積んであるところまで来た瞬間、僕は背の高いあかりに押し倒された。仰向けに転がって見上げると、あかりは我慢できないという感じで僕にのしかかって来た。足でがっちりとホールドされれてしまう。これってエルフじゃなくてオークじゃない?
薄暗い納屋の中、僕は干し草にあおむけに横たわっている。そして、その上に少女がのしかっている。僕の腰に跨って、頭の両側に手を突いた姿勢。僕の目の前には少女の白い顔、緑の目。形のいい鼻、口元はわずかに広がって舌がかすかに見える。あいかわらずの美形だ。
「お兄ちゃん……」
あかりの息が僕の顔にかかる。
「早くしようよ……」
あかりの顔がぼくの顔に迫るが、その二つの緑の瞳は距離を詰めながらも僕の目に焦点を合わせ続けている。
僕は少しだけ口を開けた。美しい顔が反時計回りに少しだけ動き、目を合わせたまま最接近する。息がかかる。あかりの口が、僕の口に合わさる。1秒、2秒、3秒。
『
あれ?
あかりは僕の目に困惑を見て取ると、干し草の中に手を突っ込み僕を抱きしめた。柔らかい体が僕の体に覆いかぶさる。体重を感じる。そして胸の弾力と重さを感じる。そして脚までも絡んでくる。
僕が口を開くとあかりが入ってきた。舌が僕の口の中をまさぐる。ぬめっとした舌が僕の舌に巻きつき、なんども舐め取ってくる。そのまま僕の口内を蹂躙する。僕は抵抗しない。やわらかい舌は僕の歯茎を内側から舐める。周到に、味わうように。ここで、もう一回。
『
だめじゃん。
あかりが口を離す。緑の目が僕を見る。僕は目で困惑を伝える。あかりの目から涙がじわっと流れ出す。
あかりは上半身を離すと、僕の頬をひっぱたいた。
◇
あかりはスタスタと納屋から出ていってしまった。
『なんで叩かれるの?』
入れ替わりにシャリが入ってくる。
「おにいちゃん」
シャリは僕のところまで来ると、干し草に寝ころぶ僕に抱きついた。その顔が僕を見つめる。細い金髪に囲まれた子供のあどけない白い顔。首元の黒いチョーカーの大人っぽさがアンバランスだ。ちょっと危うい感じでドキッとする。
『なるほど、これがロリキャラの魅力か』
じゃなくて。
「なんだよ」
「おねえちゃんを泣かせたでしょ」
「僕が泣かせたの?」
「泣いてたよ」
そんなこと言っても……
「仲直りしないと」
えー、僕が悪いの?
◇
「おねえちゃん」
「フン」
あかりは納屋を出てすぐの裏庭にいた。僕の顔を見ると目を合わせない。
「おにいちゃん、仲直りしてよ」
「えっと、ごめんなさい」
とりあえず謝る。
「なにを?」
そうですよね。
「あかりを選ばなかったこと?」
いきなり正解から言ってみた。
「お兄ちゃんが選ばなかったの?」
「いやそういうわけじゃなくて」
しどろもどろになる。正解じゃなかったらしい。方向性を変えよう。
「あかりが怒っているのは人物ですか?」
「そうよ」
「それは男性ですか?」
「いいえ」
「それはシャリですか?」
「違うわよ」
えっと、どうしたらいいんだっけ。抱きしめてちゅー?
「今度こそレベル5になれると思ったの。そう思ったらうれしくて、今までの努力とかいろいろ思い出しちゃって、感極まって、一人で舞い上がって……馬鹿みたい」
あかりは僕たちを見る。
「いいわよ。二人でチューでもなんでもしてさっさとレベル上げなさいよ。私はもういいから」
「あかり……」
「おねえちゃん……」
「私はエルフだから。これから何百年もかけて少しずつレベルを上げていくの。だから…………」
あかりは微笑んだ。美しかった。悲しさを感じるほどの美しさ。
「シャリにお兄ちゃんを譲るわ」
そもそも僕は譲渡可能物なの?
・・
あかりが見つめる前で、僕はシャリに手を伸ばす。シャリの小さいからだが僕の腕の中に納まる。
「シャリ」
「おにいちゃん」
シャリはゆっくりと顔を上げ、目を閉じた。僕はシャリに顔を近づける。息遣いを感じる。そのままやさしく、唇を合わせる。
『
1,2,3,4,5秒。
僕はゆっくりとシャリから唇を放した。シャリの瞳を見る。シャリが見つめ返す。
そして、横にいるあかりの顔を見る。
あかりの目から涙が流れていた。微笑んだまま。
なんて、美しいんだろう……じゃなくて!
「できない」あかりに向かって、僕は言った。
「なんで?」
「わかんない」
「不能?」
「妹がそういう単語使うなよ」
「まあでも……」
あかりはニッコリとほほ笑む。
「私にもチャンスがあるってことね!」
「おねえちゃん」
「なあに、シャリちゃん」あかりは機嫌がいい。
「おにいちゃんを譲ってくれてありがとう」
「それは無効よ」
「そもそも僕の意志はどうなの?」
「まあでも、なんで今回はうまくいかないのかしら」
「おねえちゃん誤魔化した」
「なんか環境の違いかな」
「そうね、だったら」あかりはちょっと考えて、口を開く。
「検証の必要があるわね!」
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