91 大司教

「おにいちゃんの恩恵はどうだったの?」

翌朝シャリに聞かれた。そういえば言ってなかったな。


「突撃と、あと予知?だった。実はあんまり考えてなくて、勝手に取れちゃったんだよ」

「予知ってなにが出来るの?」

「よくわかんないんだよ」


 そういえば、みんなはどうだったんだろう?


「みんなの新しい恩恵はどんな感じ?」

「おにいちゃん、模擬戦やってみよう!」

昨晩は遅かったのにシャリは朝から元気だ。小盾の防御力にシャリの恩恵が加わりなかなか一撃を加えることができない。そして僕のほうもカメの盾を使うとシャリの攻撃がなかなか通らない。

 紙装甲だった僕たちもずいぶん硬くなったものだとちょっとしみじみ。


「私も新しい魔法が使えるようになったわ」

あかりが何か一言唱える。姿が見えなくなった。

「消えた?」


 部屋の扉が開いて、あかりが部屋に入ってきた。


「あれ?」

「空間転移魔法よ」

数百メートル以内なら自分やモノを転移させられるとのこと。あの強引な方法で習得したやつか。


「次は私ですけど、ここだと危ないので街の外に行きましょう」

メイに連れられて街を出て畑を避けて空き地に移動。木立の中、人から見えないところに行く。


「アイテム化してあるこれをここに掛けます」

スカーフを木の枝に巻きつけると離れる。50メートルほど。


「それじゃいきます。スカーフから戻れ」

木の枝のあたり、空中に樽が出現して、地面に落ちると。


 ドガーーーーン!!


 大爆発した。直径20mぐらいの火球が空に昇る。僕らは爆風で吹き飛ばされそうになった。耳がツーンとしているんだけど、メイはうれしそう。

「実験は成功です!期待してください!」


 とにかく人が来る前に逃げた。


・・


「お兄ちゃんレベル上げしないの?」

「でもダンジョンは行かない方がいいって」

「お兄ちゃんなら街の中でも大丈夫でしょ」

あかりは軽く言うけど、あれ大変なんだよ。


 人口数万の都市と言っても屋外にいる人はそんなに多くない。しかも同じところにいる人は限られる。僕がレベルを2から3に上げるには街中を回って四千人以上のレベルを判定しないといけないわけで。

『絶対ダンジョンのほうが楽だよな』


 交通量調査のアルバイトか野鳥の会の人になった気分でレベルを判定して回る。

「おにいちゃん、調子はどう?」

シャリがいつもの肉まんを買ってきてくれた。どこで売ってんだろう。


・・


 二週間後、この町で一番いろんな人の顔を見た人なんじゃないかという気がしてきた頃にレベルが上がった。


「おにいちゃん、おめでとう!」

シャリが肉まんで祝福してくれる。ちなみに27個目の恩恵は解錠にしておいた。こないだ扉があかなくて困ったし。


 この二週間、街の隅々まで行って回って判ったこと。この街には肉まん屋を含めて数軒の中華料理屋がある。そしてなんとカレー屋も一軒。さすがはインド人、転生者の20%だけのことはある。


 今のところ日本食屋はまだないんだよな。



「今度教会で、年に一度の大司教様のご説法があるんですよ」

レベルが上がったころ、メイが伝えてきた。

「家族で行くのでフィンも一緒ですよ」

「なんで僕も?」

「私たち婚約者でしょ」


 その設定、まだ有効だったのか。


・・


 メイの両親を含めて教会に向かって四人で歩いていく。そんなに大きな都市でもないしメイの家は中心部に近い。


 教会の中はすでに数百人の人々が参列していた。僕らの席は割と真ん中で祭壇に近い。なるべく目立たないようにそっとしていると、メイが手を繋いできた。囁いてくる。

「私たち二人っきりでデートって珍しくないですか」

メイはそういって指を互い違いになるように手を握り直してきた。えっと、両親は人数にカウントしないんだね。


「私いま錬金術の練習しているんですよ」

デートにしては色気のない話題だな。

「なんだろう、ポーションとか?」

「今度見せてあげますね」


 そんなことをしていると儀式が始まった。教会っぽい人が話しているが若いので前座かも。やがて豪華な法衣を着て錫杖を持った老人が出てきた。


「あれが大司教様です」

メイが教えてくれる。


 説法は長く続いたけど、要するに人間は神に選ばれた特別な存在であり、身と心を鍛えることこそが神の国に近づく道、という話。修行僧みたいな宗教だな。


 説法が終わり帰ろうとしたときに、教会の人が話しかけてきた。若い男。

「大司教様がメイさんにお会いしたいと申されてます」

メイが僕の顔を見て手を握ってくる。


「メイの付き添いなんですけど僕も一緒に行きますね」

「ではご両親の方はこちらでお待ちください」

メイと二人だけで連れられて奥に行く。


・・


「大司教様」

メイが頭を下げる。僕も一緒に倣う。


「そなたが妖精の子から大人になったというメイか」

教会ではずいぶん有名になってるんだな。

「メイでございます」

チリチリとした感触がする。鑑定を掛けられている。


 メイと大司教はしばらく会話を交わす。どうやって鍛えたのか的な話。

「そなたは若いながら神の御心にかなう素質を持っておる。今度ゆっくりと話を聞かせておくれ」

「御心のままに。大司教様」



「教会からうちに大量の発注が来たの。お父さん大喜びで」

翌日、ちょっと困った感じでメイが話す。


「目を付けられちゃったわね」

「さっさと逃げるべきだったかな」

「でもメイちゃんを置いていけないよ」

「私は皆さんと駆け落ちでもいいですよ」

そんな妹を引き連れて駆け落ちとか聞いたことないんですけど。


――


フィン:レベル3(up)(人間:転生者)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎、クリーン、テイム(妖精)、言語理解、耐熱、隠ぺい、盾術、力持ち、覚醒、突撃、予知、解錠(new)


シャリ:レベル5(人間)

・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術、盾術


あかり:レベル6(エルフ:転生者)

・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング、詠唱破棄、空間転移


メイ:レベル7(人間:転生者)

・恩恵:衣装製作、アイテム化、投げナイフ/ダーツ使い、エンチャント、形状加工、紙の神、上級錬金術


――

メイの挿絵はこちら

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652296186111

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る