第二章 兄と妹と妹

第4話 槍

 あれからひと悶着あったが、シャリが癒しの恩恵で父さんの傷を治したら両親とも納得したみたいだ。そしてシャリが「お父さん、お母さん」と呼んだのがうれしいみたい。シャリが自分の居場所を見つけたのなら僕もうれしい。


 その日の晩もシャリの恩恵のお祝いということでごちそうだった。夕食はイノシシ肉のポトフ。シャリが自分で作った。野菜に肉の出汁がしみ込んでおいしい。

 そうそう、あちこち擦り傷だらけだった父を見て、改めて狩りって危ないんだと認識したんだけど、癒しの恩恵は本当にすごい。傷がすーっと消えてかさぶたがペロっと取れるとなにも残っていないのだ。


 シャリの恩恵については他の人には内緒ということになった。癒しの恩恵とかバレるとめんどくさいことになるだろう。誘拐でもされるとことだ。それにシャリは11歳ということになってるのだ。


 確認したいことは他にもいくつかあって、シャリは本当にもう大丈夫なのかとか、シャリの今度の誕生日にはさらに恩恵は増えるのかとか、でもこの辺はいま確かめようがないから待つしかない。今はやれることをやろう。


「父さん、僕に槍を教えてよ。僕も槍使いの恩恵が欲しい」

「うーん、まあそうだな。でも狩りはまだ早いぞ」

「ありがとう。父さん」


 それから毎日夕方、父さんに槍を教えてもらうことになった。両親は午前中は畑に行く。お昼は軽く食べて昼寝。夕方にご飯を作って食べたら寝るというのが一日の流れ。僕は家事担当。洗濯とか薪割りとか。料理はシャリも作る。


 練習のためにまず槍が必要だ。森のはずれでまっすぐでよさそうな細い木を探す。丈夫なほうがいいので樫の木にしようと思うのだが硬過ぎてナイフではなかなか切れない。二日かけてちょっとずつナイフで削り出してようやく切り出してきた。よく考えたら薪割りの鉈を使えばよかったよ。

 そのあと一日かけて皮をむいて磨いて2mぐらいの棒にする。僕の槍(仮)だ。穂先がないけど鉄は高いので簡単には買えないから。まあこれには考えがある。


 槍(仮)ができたので、父さんに稽古をしてもらう。まず立ち方。持ち方。素振りというか素突き。いや、これ大変だよ。重いし。といっても父さんの槍はこれより何倍も重いんだけど。毎日父さんと並んで稽古だ。


 とりあえず一か月、なんとか形になってきたような気もしないでもない。



 村の広場で領主の騎士を見かけた。村の外を巡回して魔物がいたら退治するのが領主の騎士の役目だ。他にもいくつか村があるらしい。行ったことないけど。馬に乗った人が何人かと歩きの人が何人かで定期的に村にやってくるのだ。

 チャンスかもしれない。村の広場で休んでいる騎士たちに話しかけてみる。


「こんにちは。ウェンさんっていますか?」

ひとりが答える

「おう、俺がウェンだ」

チェーンメイルを着ている。馬に乗っていた人だな。多分正騎士だ。

「ティップがお世話になったと伺いまして」

「ずいぶん礼儀正しくしゃべる子供だな。ティップの友達か。そういえばあいつは最近見てないな。どうした?」

あ、なんか緊張して子供っぽくしゃべってなかったな。

「いえ、ティップですが……死んじゃいました」

「そうか……」

この世界では子供の死は珍しくない。


 話がしにくい展開になっちゃったな。もっと考えておけばよかった。

「ティップが生きてた時に、一緒に強くなろうって……僕に、強くなる方法を教えてくれませんか」

「そうか。まあでも強いってのもいろいろだからな。坊主はどう強くなりたいんだ?」

「えーっと、魔物を倒せるようになりたいんです。それで他の町に行ったり、冒険したりしたいんです」

子供っぽい夢を語る。


「いやー魔物は危ないぞ。まあ、ちょっと見てやるか」

ウェンさんは従卒に木の棒を持ってこさせる。

「魔物を倒せる素質があるかどうか見てやる。どれを使うか選べ」

何本かある木の棒から慣れ親しんだ2mサイズを選ぶ。ウェンさんは木刀ぐらいの棒を手に取る。

「ほら、かかってこい」


 槍使いのスキルを持った父さんの仕込みだ、完全な素人ではない。僕の突きを受けてウェンさんの顔がちょっとだけ真剣になる。

「練習してるのか?」

「はい、父さんが」

「なるほど」


 ウェンさんが木刀を下げる。

「基本はできてるようだが、坊主の父さんは狩人かな。魔物を相手にしたいのなら対人戦の経験があったほうがいいな」

ウェンさんは従卒達に向かって言う。

「お前ら、ちょっと教えてやってくれ」


 二時間後ぐらい、もうずたぼろになった。体が打ち身だらけだ。

「明日もいるからな。午前は魔物退治だが午後は相手してやるぞ」

「ありが……とうござい……ます……」

やっとの思いで家に帰る。


 その後シャリに癒してもらった。打ち身は一瞬で回復する。癒しの恩恵まじすごい。魔法みたいだ。というか魔法なのかも。


 騎士たちはその後二日ほど居て次の村に向かっていった。僕はと言えばズタボロになりながらも癒しで回復されることを繰り返し、なんか筋肉がついてきた気がする。超回復というやつだろうか。レベルも1.2ぐらいに上がっている。こういうのも経験なんだな。


 稽古の途中でいろいろと話をした。ここは男爵領で、領主はバーバル男爵だそうだ。全部で六つぐらいの村がありこの村は大きい方だとのこと。ちなみにこの村の名前はムール村だ。村の中では”村”としか呼ばないので意識したことがなかったけど。男爵領の人口は全部で千人ぐらいらしい。城壁のある都市みたいなのがあるのかと思っていたらそういうのは伯爵領とか行かないとないらしい。



 寝室の宝箱(僕の)からゴブリンの短剣を取り出す。刃渡り15㎝ぐらいある。刀身はさびてるけど鉄製だ。研げば使えるんじゃないだろうか。

 

 村の鍛冶屋のおじさんのところに持って行ってみる。どうしたんだこれと聞かれて正直にゴブリンが落としたと答える。

「これは人間が作ったものだな。ゴブリンも拾ったんだろう。ちょっと研いでやるよ」

刀身に銀色が戻る。

「使えるけど柄がぼろぼろだな」

「いや、いいです!ありがとうございます!」


 ピカピカになった短剣を持って帰る。柄をナイフで削ってばらす。金属部分だけになったので、柄に差し込まれていた部分を僕の槍(仮)に当てがってみる。木炭で印をつけて、ナイフで削る。木が堅いから大変だけど、二日ぐらいかけて木にくぼみを削る。短剣の柄の部分を当てると大きさはぴったり。こんなもんかな。


 森で見つけてあった松の木から松脂を採ってきて、木炭と混ぜて火であぶる。柔らかくなったら槍(仮)の削ったくぼみに押し当て、そこに短剣を押し込む。接着剤の要領だ。そして麻糸でぐるぐる巻きにする。ちなみにこの知識はフィンが持っていたものだ。松脂が冷めて固まったら槍(本番)の完成だ!立ち木に向かって刺してみるが取れない。大丈夫っぽいかな。


 強度とかどうなんだろう……まあ猪とか熊相手には心配だけどゴブリンならなんとか。

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