51 レベリング
翌朝、日の出前に出発。先頭があかりで、シャリとメイが並び、最後尾は僕。メイの服装は昨日のシャリとお揃いのワンピース。腰のポーチにダーツを入れている。手には角棒を持っているけど武器というより杖代わり。
後ろからメイのレベルを見るが、昨日より下がっている。0.2ぐらいしかない。そしてやっぱり昨日よりふらふらしているし、気のせいか存在感が希薄になった気がする。見ていると出発30分ほどでかなりへばってきた。
「大丈夫?」
僕はメイに肩を貸す。メイが寄りかかってくると背中にムニューっと柔らかい弾力が。歩くたびに押しつけられて。えっと。
「私がやるわよ」
あかりがやってきてメイを簡単に背負うとそのまま森を爆走する。さすがはレベル6のエルフだ。ついて行くのが精一杯。と、いきなり立ち止まった。辺りを見ている。僕も気配察知すると、これは最近乱獲で数が減ったゴブリンだな。
僕はあかりに目配せして指を三本立てる。あかりは頷いて。
「マジックミサイル!」
いきなり攻撃。ゴブリンは煙になって消える。
「どう?」
あかりが聞いてくる。僕はメイのレベルを見るがさっきと同じ0.2だ。ついでに自分を見るがやっぱり1.0。
「戦闘に参加しないと駄目みたいだ」
「やっぱりそう。ダンジョン入るしかないわね」
昨日メイに話を聞いた時わかったのだが、メイの親御さんはレベル上げをいろいろ模索した結果、ダンジョンに送り込むことにしたとのこと。王都のダンジョンは子供は入れないので、田舎でいろいろぬるいこのダンジョンに来たらしい。確かに森で魔物狩りだといつになるかわからない。ダンジョンの方が安定はしてるな。危ないけど。
◇
ダンジョンに到着。田舎なので特に年齢チェックはなく入れた。僕とメイはレベル1なのでここからプロテクションを掛けておいてもらう。
一階をどんどん歩く。ゴブリン出ないな。歩いてきたらボス部屋まで来てしまった。しかも二組待っている。
「すいませーん、二階なんで通してくださーい」
最初の組が両開き扉を開けて、やっぱりいないみたい。先に通してくれる。
「お先でーす」
ボス部屋の奥の扉を開けて、階段へ。あかりとシャリもプロテクションを掛ける。一階で待ってたら間に合わない。レベル1だけどバグベア狩りに挑む。
・・
「合図したらダーツ投げてね」
とにかく戦闘に参加してもらう必要がある。しかもフリではなく真剣にだ。バレたらレベルが上がらない。誰にか知らないけど。レベルの神様?
そしてダンジョン通路の扉を蹴り開ける。まだボスじゃないがとりあえずバグベアとご対面かな。と思ったけど空室。
ちょっと焦る。このままダンジョンが枯渇してたらどうしよう。
『気配察知!」』
あ、なんかいる!
通路を急ぐ。先の方に大きな気配。これは待望のバグベアだ。スコップ!を床に打ち付ける。大きな音が響くと聞きつけたバグベアの気配がこちらにやってくる。
ダンジョンの薄暗闇に大きな姿が浮かび上がる。一体だけだ。これは好都合。
「メイ、合図をしたらダーツを投げて。そしてすぐ隠れて」
「あれは……」
メイが僕の隣で立ちすくんでいる。硬直したように動かない。バグベアが迫ってくる。
僕はスコップ!で受ける体制。メイは動かないまま。横であかりが魔法を使う。
「マジックミサイル!」
6本の光の矢がバグベアに突き刺さるが、走ってきたバグベアがそのまま勢いで転がってくる。僕は突っ立ったままのメイを抱えて通路の隅に伏せた。転がるバグベアが通り過ぎて動かなくなる。そして黒い煙になって消える。
僕はメイのレベルを見る。レベルは上がっていない。
「どうしたの?」
「あれに、みんなが、殺されて……」
どうもメイたちが遭遇したのはバグベアだったようだ。すっかり怯えている。やっぱり戦うのは無理か。
「あかり、シャリ」
僕は妹たちの方を見て言う。
「まずは僕のレベルを上げよう」
◇
とりあえず二階を探索する。ボスに突っ込む前にレベルを上げたい。扉を蹴り開けて回っていたところ、森に出くわした。木がいっぱい。
「このダンジョン、こういうのあったっけ?」
「マッピングだとただの部屋よ」
気配察知してみると、何かが隠れている気配。バグベアかな。
「多分バグベアがいる」
「これは幻影ね。下がって!」
あかりが呪文の詠唱を始める。
ᛁ ᛍᚮᛘᛘᛆᚿᛑ ᛑᛂᛋᛐᚱᚮᛦ ᛘᛦ ᛂᚿᛂᛘᛁᛂᛋ ᚥᛁᛐᚼ ᚵᚱᛂᛆᛐ ᛔᚮᚥᛂᚱ ᛒᛂᛐᚥᛂᛂᚿ ᛚᛁᚵᚼᛐ ᛆᚿᛑ ᛑᛆᚱᚴᚿᛂᛋᛋ.・・
僕はスコップ!を構えてシャリと並び、あかりとメイの前に立つ。
『精神耐性』
森に重なって何体ものバグベアが見えてきた。投げ槍を構えている。
『スコップ!』
盾じゃなくてスコップ!で対空迎撃。飛んでくる槍を弾き飛ばして庇う。
「マジックストーム」
あかりの呪文詠唱が発動した。森?の中に光る刃が幾つも現れて空中を飛び交う。森の幻影がちらついて消えると、切り刻まれるバグベア達から緑の血飛沫が舞っている。
やがてバグベアは全て切り刻まれた肉塊となった。それが黒い霧になってダンジョンに吸い込まれる。そして、僕の体の奥から力が湧き上がる感触。久しぶりのレベルアップだ。今のでも戦闘に参加した判定があったみたい。庇うことしかしてなかったのでちょっと心配してたんだけど。あ、しまった。恩恵はえっと。
「お兄ちゃんレベル上がったね」
「まずメイのレベル上げよう」
レベル0でダンジョンにいるのは危なすぎる。落とし穴でも死にかねない。とにかく1秒でも早く。
シャリの後ろに小さくなって隠れていたメイを呼ぶ。やっぱりレベルはまったく上がってないけど今回は問題ないから。
「それじゃそのままじっとして」
僕はメイの正面に立つ。やっぱり僕と同じぐらいの背だな。ちょっとだけ低いかも。メイの頭を抱えるように両手を伸ばすと、その黒髪に包まれた頭をしっかり固定する。そして顔を近づける。
「え?」
「「いいから」」
シャリとあかりが両側から声を掛ける。メイは一瞬フリーズする。
二人は両側からメイの両腕を抱え込む。レベル5とレベル6に抱えられ、メイは身動ぎすらできない。そのままメイの口にぶちゅっと唇を合わせる。
『
メイはびっくりして目を見開いているが、無事僕との間にレベル回路が形成される。
『
メイの頭の上のゲージが伸びて最大長に達すると一瞬光った。
――
フィン:レベル1(人間:転生者)
・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う(new)
シャリ:レベル5(人間)
・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術
あかり:レベル6(エルフ:転生者)
・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング
メイ:レベル1(up)(人間:転生者)
・恩恵:【未確認】(new)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます