52 魔法の本

「無事レベル1になったようね。おめでとう!」

あかりが鑑定する。僕が見てもメイのレベルは1になっている。なんとか間に合ってよかった。

「メイちゃんおめでとう!」

シャリもちょっと涙ぐんでいる。自分の体験もオーバーラップしたのだろう。


 まあ傍目に見るといきなり羽交締めにされてキスされた後に囲まれておめでとうと言われてる謎な宗教みたいな状況なんだけどね。


 メイは何が起きたのかわからない様子。そりゃそうだろう。


 しばらくして、きょろきょろと辺りを見渡している。


「メイはもう妖精の子ではなくなったんだよ!」

一応説明はしてみるんだけど理解してるんだろうか。


 メイは僕の顔を見るとうなずいた。


「何か感じる?」


 もう一度うなずく。


「よかった!」


「メイちゃんの恩恵って何だろうね」

「かえったら女子会ね」

妹たちも嬉しそう。


「そういえば、お兄ちゃんのは恩恵はどうなったの?」

「それがー」

説明をするんだけど、近くの味方が攻撃を受けた時にカバーに入る"庇う"という恩恵だったんだよね。

「おにいちゃんそれシャリの役目でしょ」

そうなの?


「……謝……謝」

「なんか言った?」

メイは僕を見て微笑んでいる。


・・


 この部屋には宝箱があった。ボス部屋以外にも時々あるね。

「シャリが開けます!」

「大丈夫?」おにいちゃん心配だよ。


「シャリは状態異常耐性あるから」

シャリが蓋を開けようとするが鍵が掛かってるみたいだ。

「えい!」

メイスでぶっ壊した。

『ピシッ』

壊れた鍵穴の辺りから金属片が飛び出て床に当たる。毒針とかそういうのっぽい。


 宝箱の中身は普通に金貨。


「前から思ってるんだけどこの金貨誰が作ってるんだろう」

「ダンジョンだからね」

そういうものらしい。


「ところで、メイはもう帰りたい?」

「……私は……あれを……倒したい……強くなりたい」

震えているけどはっきりした意志を感じる。


「それじゃ、まずはレベル上げだな」


・・


 通路を進み、うろついていたバグベアはシャリがブン殴る。僕も後ろから槍でチクチク刺すが、いくらレベル1でもこれぐらいじゃレベルは上がらない。


 そして両開きの大扉に到達。あかりが扉の前で決めポーズを取る。両手を腰に当て、胸を張って、一言。


「ボス部屋よ!」



 とりあえず、方針は前と同じで。あかりが魔法をぶち込むまで僕がカバーする。メイはあかりの後ろに隠れててもらう。

「おにいちゃんはレベル1なんだから突っ込んじゃ駄目よ」

シャリに念を押される。しょうがないね。


 プロテクションはまだ効いているから、攻撃力付与をメイ以外に掛けてもらい、準備完了。僕とシャリが両開きの扉の前に並んで、扉を、蹴り飛ばす!


「お邪魔しまーす!」

二階ボス戦スタート。


 部屋の奥には例によってバグベアが並んで槍を構えている。全部投げて来そうな感じ。真ん中辺にいるのはバグベアの親玉だな。ロードだかキングだか。

 あかりが呪文の詠唱を開始する。

ᚠᚱᚮᛘ ᛒᛂᛐᚥᛂᛂᚿ ᛐᚼᛂ ᛚᛁᚵᚼᛐ ᛆᚿᛑ ᛐᚼᛂ ᛑᛆᚱᚴᚿᛂᛋᛋ, ᚠᚱᚮᛘ ᛐᚼᛂ ᚡᚮᛁᛑ ᚮᚠ ᛐᚼᛂ ᚢᚿᛁᚡᛂᚱᛋᛂ, ᛒᛂᛐᚥᛂᛂᚿ ᛐᚼᛂ ᛐᛁᛘᛂ ᛆᚿᛑ ᛐᚼᛂ ᛋᛔᛆᛍᛂ, ᛐᚼᛂ ᚠᛁᚠᛐᚼ ᚵᚱᛂᛆᛐ ᛔᚮᚥᛂᚱ ᛋᛔᚱᛁᚿᚵ ᚢᛔ ᛐᚮ ᛐᚼᛂ ᛔᛚᛆᛍᛂ ᚥᚼᛂᚱᛂ ᛁ ᛍᚮᛘᛘᛆᚿᛑ・・


 6本の投げ槍が一斉に飛んできた。投げ槍と言ってもバグベアサイズだ。人間が両手で扱う槍の大きさがある。それが唸りを上げて飛んでくるわけで。

『スコップ!』

両手でスコップ!を構える。片手でなんとかなるレベルではない。


 ガッ!ガッ!ガッ!


 スコップにバグベアの投げ槍がヒットする。衝撃を両腕で耐える。シャリも槍を弾き落としたようだ。スコップ!を掲げて一歩前進する。


『!』

気配察知に反応。すぐ脇だ。


「シャリ、横!」

シャリに警告を投げつつ、腰に吊るした槍を右手に持つ。

『伸びろ』念じて伸ばしながら振る。何もないところに当たる。

『精神耐性!』

扉の脇にバグベアがいた。幻影に隠れていたのだろう。大きな棍棒を振りかぶっている。避けたいが、あかりを庇わないといけない。むしろ。


『縮め』槍を一瞬で30cmまで縮めながら目の前のバグの顔に向かって構える。そして。

『投擲!』

ダーツのように投げる。槍使いの恩恵と投擲の恩恵が加算されたところに攻撃力付与された槍が顔面にヒットし、バグベアの巨体は後ろにひっくり返った。

『なんかインチキっぽいな……』


「マジックボム!」

あかりの詠唱が終了した。純粋な魔法のエネルギーが部屋の奥に炸裂する。広がる白い光の中にバグベア達が影となって消える。


 衝撃波の後、爆風が来る。スコップ!が吹き飛ばされそうになるのを必死で耐える。ダンジョンで使うような呪文じゃないなこれ。僕もレベル低すぎだな。HPも少なすぎて事故で死にそう。


 辺りを見回す。シャリの側に隠れていたバグベアはメイスで頭をミンチにされていた。部屋の奥のバグベアはあかりの魔法で吹っ飛んでいて残りはボス一体のみ。


 あかりのマジックミサイルが飛ぶ。シャリが駆け寄って殴る。僕も参加したい。回収した魔法の槍を伸ばして。


『縮地!』


 例によって突っ込んだ。バグベアボスが倒れて煙になる。そして僕の体の中から力が湧き上がってくる。レベルアップだ!

『あ、恩恵!』



  メイは戦闘参加の判定はなかったようでレベルは上がってなかったがそれは問題ないというかむしろその方が好都合。


「宝箱ね!」

あかりが忘れずに言う。そうそう、これ忘れたら何してるんだかわからないよ。黒焦げになった宝箱が出てきた。

「開けるよー」

シャリが叫ぶ。みんな遠ざかる。さっきのもトラップあったし。シャリがメイスで鍵のところを叩くと鍵穴から煙が吹き出した。シャリが煙に包まれる。


「シャリ!」


「大丈夫おにいちゃん」

煙の中からシャリが出てくる。

「毒ガス?」

「わかんないけどそういうの」

「結構危ないわね」

これは真剣に罠対策しないとそのうち事故りそう。


 中身は金貨と、本が一冊。あかりが鑑定する。


「魔法の本ね」

「そんなのあるの?」

「これを読んでレベルアップするとこの本の魔法が恩恵になるの」

読んだだけじゃ駄目なんだな。

「へー。なんの魔法?」

「アイテム化って書いてあるわ」

「やっぱり一人が使うと消えちゃう?」

「多分ね」

「使えるかな?」

「生産系かも」

そうだとすると僕ら向きじゃないな。レベルも上がったしアイテムも手に入ったしなのでこの辺で帰ることにした。


――


フィン:レベル2(up)(人間:転生者)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上(new)


シャリ:レベル5(人間)

・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術


あかり:レベル6(エルフ:転生者)

・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング


メイ:レベル1(人間:転生者)

・恩恵:【未確認】


――

次回より新章! トロール攻略

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