50 大人になれない子供

「兄妹会議の続きだけど」

納屋に集まり、今日二回目の開催。


「いろいろ端折って言うと、メイは3日以内にレベルを上げないと死んでしまう」

「どうして?!」

僕の隣でシャリがびっくりした声を出す。


「メイはこのままだと大人になれない。レベルが低すぎる」


「そうか、妖精の子か……」

「妖精の子?」

あかりのつぶやきをシャリが拾う。なにか考えているよう。


「……妖精……えっと……大人になれない……」

シャリの手を握ると、手が震えている。

「思い出した!」

シャリが僕の顔を見る。


「おにいちゃん……」

「僕がレベル1でなければ一発だったんだけど」

ちょうど使い切っちゃったんだよな。タイミング悪い。



  家に戻ると話し声が戸の前で聞こえてきた。気配察知すると居室にメイと何かの気配。何か小さい存在。

 そっと戸を開ける。メイが居て、他には誰もいない。もう一度気配察知しようとするが、その発動自体を妨害される。精神耐性で無理矢理跳ね除ける。


「妖精さん!」

シャリが呼びかけるととんがり帽子の小人が現れた。20cmぐらいの男の子が机の角に暢気そうに腰かけている。


「やあシャリ。久しぶり」

「知り合い!?」

ちょっとびっくり。


「で、こいつはなんなの?」

「えっと、友達……だったよ」


 僕は妖精さんをじっと見る。なんかこういうの子供のころに見たような気もするけど。


「それで、君らが妖精の子の根源?」

「僕らは何もしないよ」

「本当に?」

妖精ってなんかうさんくさいんだよね。


「ところで、私はいつ妖精になるの?」

メイが妖精さんに聞く。


「三日後かな」


 妹たちの目を見る。二人ともうなずいている。

「明日ダンジョンに行ってメイのレベルを上げよう」

タイミングは悪いけど最悪ではない。


 しかし、異世界転生があるってことはこの世界の中でも転生があるんだよな。ゴブリンに生まれ変わるとか嫌なんだけど。


「僕たちみたいな転生者がゴブリンに転生したとかあるのかな」

「私が見た限りではないわね」

なんでだろう。何かの法則か意志が働いているのか。


「ところでさっきのってなんて妖精?」

「ブラウニーね。日本だと座敷童かな」

あかりが答える。


「それっていい妖精なの?」

「妖精にいいも悪いもないわ。私たちとは根本的に違うのよ」

「ゴブリンとの違いはなんなの?」

「敵対するかしないかね」



 あかりがメイを寝室に連れて行って着替えさせている。今まで着ていた冒険者服は泥だらけなのだ。

 やがて着替えたメイが寝室から出てきた。シャリとおそろいのグレーのワンピースなんだけど……


 身長に合ったワンピースなのに、子供服の想定を超える胸が丸い形状にはみ出している。その下は伸縮性の高い素材がぴっちりと細く締め付けている一方で、やはり子供なのかお腹はちょっとぽっこり気味。それでもヒップの曲線はむちっとした凸曲面だ。


 あかりも胸は大きいけど全体的にはスレンダーなんだよね。この子は言うならボリューミーだ。でも足は細いな。


「おにいちゃん?」

シャリがジト目で僕を見る。いや別に僕悪いことしてなくない?


「子供にしてはいいスタイルね」

あかりが寸評を述べる。

「体力つけるために食べて運動させられましたから」

「体弱かったから?」

「私は、妖精の子なんですよ」

「あ、」


 知ってたんだ。



 雨が降ってきたが、メイと冒険の準備に買い物に出かけることにした。もう時間がないのだ。僕の恩恵を使えればよかったんだけど。

メイは逃げる時に装備を全部置きざりにしたらしく何も持っていない。


「まずは武器かな」

メイに話しかける。

「何使ってた?」

「えっと、ダーツです」

「ダーツ?」


 なるほど。初心者でも戦闘に参加できて、軽くて、投擲武器だから危険は少ない。でもあんなので魔物にダメージ入るのかな?

「武器を見に行こう」

「はい!」


・・


 この間作った傘が役に立った。こんなこともあろうかなってやつだな。一本しかないのでメイと二人で入る。試作品だからちょっと重い。傘を持った右腕がだんだん落ちてくると、肘が何かに触れる。


 ポヨンとした感触。肘がメイの胸に当たってしまった。慌てて腕をちょっと上げる。でもだんだん下がってくる。

 感触があるたびに腕を上げる。重力で下がる。ポヨン。

「重いですよね」

メイが僕の傘を持った右腕全体をグッと抱え込んできた。いやちょっとやばいかも。


「うちは王都で服屋やってるんですよ」

歩きながらメイの話を聞く。歩くたびに柔らかい圧力が右腕に掛かる。さっきより距離が近いのでメイの腰の辺りも僕に当たっている。相合傘ってすごくない?


「私は昔から見える子で、家の中でよく妖精とお話してたんですよ」

「シャリと一緒だな」

「でも私は一人っ子だったから。シャリさんが羨ましい」

厳密にいうとシャリも一人っ子だけどまあいいや。半分上の空。


「ある時、祈祷師に妖精の子だって言われて」

「ふんふん」

「それで教会に連れていかれたんですよ」

教会ってあったんだ。村にないからこの世界は宗教ないんだと思ってた。


「教会ってなんの神様?」

「人と恩恵の神です」

なるほど。そういうのはあるんだな。


 結局、メイは教会で「体力つけて魔物を倒せ」的な事を言われたらしい。つまりレベルアップしろって事だろう。なんか実践的な宗教だ。


 話しながら歩いていると残念ながら武器屋、というか鍛冶屋に着いてしまった。名残惜しく傘を畳むが、メイはそのまま僕の右腕を抱き抱えている。


 正直、武器になるようなダーツって見たことないんだけどね。

「このぐらいの長さで、重さは、、、」

メイが説明する。

「クロスボウの矢を大きく重くした感じかな。一個作ってみるよ」

工房に案内される。


・・


 何回か試作して一個できた。長さは25cmぐらい。重さは200gぐらいかな。僕が思ってた日本で遊ばれてるようなダーツの10倍ぐらいの重さがある。


 メイが的に向かって投げると、ぐさっと刺さる。確かにこれは武器だな。羽のついた投げナイフだ。

「投げてみます?」

「うん」

投擲スキル発動!


「ドガーン!」

ダーツの矢尻は藁の的に深々とめり込んだ。


「フィンさんってすごいんですね!」

「いやーそれほどでも」なんか照れるな。

ダーツは全部で6本注文した。割増しで急いでもらう。


 家に戻ると妹たちがジト目で見ている。

「短い時間で随分仲良くなったのね」

「おにいちゃん誰でもすぐ仲良くなるね」

「女の子ならっていうのが抜けてるよシャリ」

「見てたの?」

「途中からね」

「どこから?」

「『まずは武器かな』から」

全部だね。


 その後、両親にはメイを「あかりの妹」と紹介したらあっさりうちに住むことになった。前から思ってたけどうちの親かなり雑だな。

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