115 魂の宝石

「簡単に言うとこれが大司教の本体」

「本体って?」

「この中に初代大司教の魂が入っていたのよ」

「初代ってなに?」

あかりの言っていることがよくわからない。初代っていつのことだよ。


「この教会の初代の大司教は、死ぬときに自分の魂を宝石に移し替えたのよ……」

アカシック・アクセスで過去の物語を見たあかりが語る。

「……体は滅びても魂は永遠に生きられるように」


 ずいぶんと業の深い坊主だな。それとも即身仏みたいなものなのか?

「それで?」

「宝石になった大司教の魂は、他の人と入れ替わる能力を持ったの」

「それってどういうこと?」


「簡単に言うと、代々の大司教は初代大司教に乗っ取られていたということよ」

あかりが説明する。


「じゃあ、いまメイの中に大司教が入ってるってわけ?」


 改めて、大司教、というかメイを見る。胸以外をぐるぐるに縛られている状態。太腿に食い込んだロープがちょっとエロいな、じゃなくて、聞いてみるか、


「ちょっと大司教、メイを返して欲しいんだけど」

「その箱に触るな!」

メイ、というか大司教がわめく。


 あかりが無視して小箱を開けると、赤い宝石が入っている。

「なるほど。これが魂の宝石ね」

「触るなと言っておるだろう!」


 大司教、どうも状況が分かっていないようだ。ぼそっとつぶやいてみる。


「ところで、その宝石を割るとどうなるんだろうね?」

「それを割ったらこの女は死ぬぞ」

大司教が驚いたように言う。まあそう言うよね。


「それだったらメイを返してよ」

「返したらそれを割るであろう」

「いや、割らないけど。関心ないし別に」


「割っちゃだめよ。この中にメイが閉じ込められている」

宝石を鑑定していたあかりが言う。


「だから言ったであろう。今はこの女の中に私の魂が、その宝石の中にこの女の魂が入っているのだ」

「だったら元に戻ってよ」

「そもそもお前たちは何をしに来たのだ?」

そうだったね。


「僕たちは元いた世界につながるダンジョンの情報を探してるだけなんだ。それが分かればすぐに帰るから」


 大司教はメイの体を乗っ取ってはみたものの、メイは生産系だから戦えなかったということみたいだ。残念でした。

 結局メイの中の大司教を説得した結果、宝石を隠し部屋に戻して、帰る直前にメイを返してもらうということになった。

 そもそも大司教側には選択肢がない。落ち着きどころはこうなるわけで、こっちだって宝石を割る必然性はない。というか僕らはこの教会そのものには関心はないんだよ。


・・


「帰還しました!」


 パウル司教が厄介者を見るような目でこっちを見ている。一応この人には大司教の話をしたほうがいいのかな?

 ちらっと目を合わせる。司教はぐるぐるに縛られたメイを見て一言。


「さっさと帰れ!」


 説明しないでいいみたい。とりあえずはメイを縛ってあるロープを解くんだけど、太腿に縄の跡がくっきり。うん、ちょっとヤバい感じするね。


「シャリ、この跡ってヒールで消えるのかな?」



 メイの家に戻って、大司教から聞いた情報とあかりが集めた情報を合わせて整理することになった。メイは自分がしゃべったにもかかわらず聞けていなかったので情報共有だね。ちなみに縄の跡は消えた。


「ダンジョンなんだけど、どうやら奥が行き止まりのものと、どこか別の世界にに通じているものの二種類があるみたいなんだ」

「そうなんですね」

「にゃー」

メイは子猫シャリを膝に抱えてうなずいている。


「それでね、例の”夢を編むもの”がもともと居たダンジョンも場所は分かった」

「連れてきちゃえるものなんですか」

「どうもボスの他に管理者っていうのがいるみたいで、そいつから譲り受けたみたい」

「管理者って、資格試験とかありそうですね」

「ファンタジー感ないね」

まあボスのボスみたいなものかも。


「それで、そこのダンジョンが私たちのいた世界に繋がってる?」

「可能性はあるかも。陰陽師の本がドロップしたわけだし」

「なるほどですね」

メイが子猫の両脇に両手を差し込んで持ち上げながら考えている。


「ってことは、土蜘蛛のダンジョンかもですね!」

「にゃー」

メイってなんかそういうの詳しいね。


「実は話はもう一つあって」

「なんでしょう?」

「天使バーニヤなんだけど、あれの話も聞いてきた」

「にゃ?」

メイは子猫をぎゅっと抱きしめる。胸に挟まれて子猫が潰れそう。


「ダンジョンのボスにあんなの出てきたらみんな死んじゃいますよ」

「いや、天使は別にダンジョン産ってわけじゃない」

「じゃあどこから来たんですか?」


「やっぱりあれは神の使いらしい」

新情報を披露。


「えー本当ですかー?」

「何その反応」

メイはなにか胡散臭いものを見るような目つき。


「神とか、非科学的じゃありません?」

「今までの話に科学の要素あった?」


・・


「その土蜘蛛のダンジョンってどこにあるんですか?

「土蜘蛛って決まったわけじゃないんだけど……」


 僕はその場所を説明する。西の方で国境となっている山脈の近く。


「そこ、私も行きたいと思ってたんですよ!」

メイが興奮したように言う。ここまで興奮してるのは珍しいな。


「じゃあ、次はそこにしようか」


――

挿絵はぐるぐる巻きメイちゃん

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330653320106908


――

次回より新章


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