第三部第四章 高速レベリング

116 レベルデポジット

 そうは言っても簡単に出発はできない。


 メイの例の”本拠地”もまだ工事中だ。それでもおおよその土木工事は終わったみたいでこれから内装とのこと。


「フィンに試してほしいことがあるの」

「僕?」


「前に、塩水から塩だけ残すのを見せてくれたじゃない」

「そうだったね」

「あれの発展形なんだけど……」

メイが説明する。

「水の分子の中に数千分の一で重い水があるんですけど、それだけ集められます?」


 メイと色々実験して、重い水でも水素が重いものだけを集めるとか割と難しいことを言われたんだけど、やってみたら出来た。


「すごいですね」

尊敬のまなざしで見つめられた。ちょっと照れる。これも妖精にテイムしてそういう装置を作ってあげた。


・・


「フィン様、お客様ですよ」

お昼ご飯を食べたところで来客。えー、またですか。


 入口まで行ってみたらエリーさんだった。

「姫様がお呼びです」

「僕だけ?」

「みなさんも。城壁まで来てください」


 ということで、四人とエリーさんで城壁まで来た。ちょうどいい機会だから新しい恩恵を使ってみよう。

「( シャルロット、来たよ )」

メッセージを送ってみる。しばらくすると城壁の床が開いてシャルロットが出てきた。


「ひさしぶり!あ、シャリも。あかりさんに、メイも。元気だった?」

なんか姫様やたら元気になってない?


「みんなと一度に会うの初めてね!」

「シャルロットは元気なようで何よりだけど、何か用?」

「用がないと会っちゃだめなの?」

「そういうわけじゃないけど……」

だいたい、こういう呼び出しってその後なにかあるじゃんねえ。


「私はこの国、いやこの世界の将来を憂いているのです」

大きく出たね。


「それで?」

「けれど、私の手にはまだ世界は余ります」

「そうだね」

まだ13歳だもんね。日本で言ったら11歳だし。


「なので、まずレベルを上げようと思うんですよ!」

あかりみたいなことを言い出したぞ。

「一応聞いてみるけど、目標レベルは?」

姫様はきっぱりと言う。


「私もレベル7まで上げたいです」

「まじで?」

「もちろん、あなたたちのレベル上げも手伝いますよ」


・・


 あかりのレベル上げも手伝ってもらった関係上断りにくい。と言っても城壁の上では何なのでメイの実験室に移動。僕はレベル3だし一回ぐらいはまあいいか。


「なんかすごいですね!」

フラスコだのなんだのが並ぶ様子を見て姫様興味津々。メイもどや顔。


「エリー」

「なんでしょう、姫様」

「誰か来ないか外で見張ってて」

「やっぱりですか?」

エリーさんが出て行ったところでメイが実験テーブルを片付けている。ちょうど学校の理科室のテーブルぐらい。


「それで、この間のシャリやあかりさんみたいなことをやればいいんですか?」

「あれは上級だから。いまからやるのは中級ぐらいかな」

「わかりました」


 メイが片づけた実験テーブルにシャルロットがごろんと仰向けになる。

「どうぞ!」

なんかマニアックなシチュエーションだな。


・・


レベル接続コンタクト!』

シャルロットが僕を受け入れ、レベル回路が形成される。

レベル譲渡トランスファー


「はぁ」

顔を離す目の前で、シャルロットが大きく息をついた。興奮で赤くなった顔。その小さな口と僕の口とが涎の糸で繋がったまま。しばらく放心状態。


「おにいさん、私のお付きにならない?」

王女が突然言い出した。


「おにいちゃんはシャリのだから」

「シャリも一緒でいいわよ」

そう言われてもねえ。


「僕たちは元の世界に帰りたいんだ」

「それってどんな世界なの?」

「シャルロットは驚かないんだね」

「あなたたちが普通じゃないってことは分かってたから」

正確に言うとシャリは違うんだけどね、まあいいか。


「ここと比べると、平和で、豊かだな」

「なにが違うんでしょうね」

「うーん」

どうしてなんだろう?あんまり考えたことがなかったけど。この世界には魔物がいるから?でも王都の周りではダンジョン以外ではあまり魔物は見てない。


「あと千年ぐらいしたら豊かになるんじゃない?」

「そんなに待てません」

そうだろうけど……


「知ってる?人間の生息地域は次第に狭くなっているのよ。このままだと千年も持たないかもしれない」

「シャルロットやけに詳しいね」

「この間、そういう恩恵を授かったの」


「とにかく私はレベルを上げて人々を導くことにしたの」

「なんか偉いね」

頑張って欲しいものだ。


・・


「そうそう、いま役に立ちそうな恩恵を授かったわ」

「教えてくれるの?」

シャルロットはにっこり微笑む。


「今度の恩恵は、レベル預かりデポジットよ」

「なにそれ」


 聞いたら、他の人からレベルを一つ借りることができるそうだ。レベル1以下の人は対象外ね。有効期間は一日。貸したほうはその間レベルが一つ下がる。


「つまり、例えばここで四人からレベルを借りることができるの?」

「そうよ」

「恩恵も増えるの?」

「それはないけど、効き目は強くなるかな」

一般論としては使えるのか使えないのかよくわからない恩恵だけど……


「これは来たわね」

あかりがぼそっとつぶやいた。目がキラキラしている。


「お兄ちゃん、いまレベル2よね」


――


フィン:レベル2(down)(人間:転生者)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎、クリーン、テイム(妖精)、言語理解、耐熱、隠ぺい、盾術、力持ち、覚醒、突撃、予知、解錠、反射、恩恵奪取、メッセージ、ライト、騎乗、スイッチ


シャリ:レベル7(人間)

・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術、盾術、完全回復、変身


あかり:レベル7(エルフ:転生者)

・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング、詠唱破棄、空間転移、アカシック・アクセス


メイ:レベル7(人間:転生者)

・恩恵:衣装製作、アイテム化、投げナイフ/ダーツ使い、エンチャント、形状加工、紙の神、上級錬金術


シャルロット:レベル5(up)(人間)

・恩恵:レベルブースト、[?]、[?]、[?]、レベル預かり(new)


――

挿絵はシャルロット王女です

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330653363716523

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