第33話 王の帰還
「困ったときはだいたいこれで何とかなるってあかりに教わったんだよ」
「さすが、あかりおねえちゃんね!」
シャリは感心したようにあかりを見つめる。
あかりのパラライズはまだ解けていない。
・・
「やっぱりのけ者じゃない!」
「のけ者なんかにしてないって!」
「じゃあ……」
あかりの顔が僕の顔の目の前に来る。迫力がある。
「次は絶対、私だからね!」
僕はあかりにちゅっとキスをした。
◇
「なんか誤魔化されてる気がする……」
ぶつぶつ言いながら歩くあかり。
「おにいちゃんそういうとこあるよね」
「なんかごめん」
っていうか。
シャリは誰かに操られてたわけ?
・・
「そういうトラップなんじゃないかな」
そういうとはどういう?
「仲たがいを起こさせるみたいな」
なるほど。僕は精神耐性あるから掛からなかったのかな。
「なんであかりは掛からなかったの?」
「いつから掛かってないと思ってた?」
「え?」
「え?」
「冗談よ」
なんだよ。
「エルフはチャームに耐性があるってD&Dのころから決まってるのよ」
前から不思議だったんだけどその知識どこから?
◇
「シャリのメイス、特殊攻撃あったんだ」
「一日一回みたい」
シャリと話してたら先を行くあかりの声。
「着いたわ!」
通路の突き当りに左右開きの大きな扉があった。その前に三人の姿。騎士と従者たちである。
「待ってたぞ」
「僕らが来るってわかってた?」
「シャリが連絡しといたの」
なるほど。
大扉の前にあかりが立つ。両手を腰に当て、こっちを向いて胸を張る。今日のあかりは服がボロボロになっているのでうっかり見えちゃうんじゃないかとちょっとドキドキした。
「ボス部屋よ!」
やっぱり、ダンジョンには必ずボスがいるんだな。
◇
シャリが傷を癒やす。攻撃力付与は僕とシャリと騎士達三人にした。
騎士の二人の従者が両開きの扉を蹴破る。
ドガーン!
攻撃力付与で蹴られた扉が奥に飛んでいく。中は広い。百メートル角以上あるか。学校の校庭ぐらいありそう。そして、いっぱいのゴブリン、ゴブリン、ゴブリン…………。その数は果てしない。そして遥か奥の方に玉座のようなものがあるが遠すぎてよく見えない。
「五百はいるな」
「削るわ!」
あかりが呪文の詠唱を開始する。
ᛁ ᛍᚮᛘᛘᛆᚿᛑ ᛑᛂᛋᛐᚱᚮᛦ ᛘᛦ ᛂᚿᛂᛘᛁᛂᛋ ᚥᛁᛐᚼ ᚵᚱᛂᛆᛐ ᛔᚮᚥᛂᚱ ᛒᛂᛐᚥᛂᛂᚿ ᛚᛁᚵᚼᛐ ᛆᚿᛑ ᛑᛆᚱᚴᚿᛂᛋᛋ.・・
前衛に騎士団の3人、その後ろにシャリと僕。僕らは鎧を着ていないし、僕にいたってはレベル2だ。攻撃力はあるが囲まれてタコ殴りにされると弱い。
「エンゲージ!」
前衛がゴブリンに接敵した。抜けてくるゴブリンは僕とシャリで殴る。あかりが手を挙げる。呪文が発動する。
「マジックストーム!」
部屋の中央付近を光の刃が荒れ狂い、ゴブリンの群れをきりきざむ。空間が緑色の血しぶきで染まっていくが、黒い煙となって消える。
・・
「二割ぐらい削ったかな」
あかりが感想を述べる。二割って百だよね。魔法ってやばい。
「前進!」
騎士が指示を出す。前衛の三人がゴブリンを押し込んでいく。
・・
状況は厳しかった。あかりの魔法が百匹以上削ったが眼の前の戦況には影響がない。六人に対して五百も四百も一緒なのだ。
ゴブリンに押し負けているわけではないが、押し込むことができない。数が多すぎる。
「なんか手はないかな」
「うーん、使いたくはなかったんだけど……」
あかりは木の棒を取り出す。たぶんトロールの宝からパクったやつだ。
あかりはウェンの横に並ぶ。
「ウェン殿」
「カトリーヌ様!」
「外れだったらごめんね」
あかりは木の棒をゴブリンの群れに向け、コマンドワードを唱える。
「ワンダー!」
棒の先端から蝶の群れが噴き出した。カラフルで大きな蝶によって部屋が充填されていく。蝶の大群が視界を遮りゴブリンも見えなくなる。
「なにこれ?」
「こういう予感はしてたのよね」
「なんなの?」
「昔からこういうアイテムなのよ」
「昔?」
『これは当たりのほうかな』
とりあえずゴブリンは混乱している。視界は通らない。目の前のゴブリンを倒して進めばよい。
「前進しましょう!ウェン殿!」
「拝承!」
・・
蝶の群れがいなくなった。効果期限切れかな。僕らは部屋の真ん中へんまで来ている。
ここは最初にあかりの魔法が炸裂したあたりだ。ゴブリンが妖精でよかった。生き物だったら床が死体と血でスプラッターになっているところだ。
玉座まであと半分だ。王冠をかぶったゴブリンの姿がゴブリン越しにちらちら見える。
「ゴブリンキングだわ」
まあそうだろうね。
前衛達はゴブリンの分厚い群れと押し合いをしている。
『もうちょっと削らないとだめね』
あかりは再度呪文の詠唱を始める。僕らはあかりの護衛に入る。妹は僕が守るのだ。シャリもおねえちゃんを守っている。今度の呪文はさっきよりかなり長いな。
ᚠᚱᚮᛘ ᛒᛂᛐᚥᛂᛂᚿ ᛐᚼᛂ ᛚᛁᚵᚼᛐ ᛆᚿᛑ ᛐᚼᛂ ᛑᛆᚱᚴᚿᛂᛋᛋ, ᚠᚱᚮᛘ ᛐᚼᛂ ᚡᚮᛁᛑ ᚮᚠ ᛐᚼᛂ ᚢᚿᛁᚡᛂᚱᛋᛂ, ᛒᛂᛐᚥᛂᛂᚿ ᛐᚼᛂ ᛐᛁᛘᛂ ᛆᚿᛑ ᛐᚼᛂ ᛋᛔᛆᛍᛂ, ᛐᚼᛂ ᚠᛁᚠᛐᚼ ᚵᚱᛂᛆᛐ ᛔᚮᚥᛂᚱ ᛋᛔᚱᛁᚿᚵ ᚢᛔ ᛐᚮ ᛐᚼᛂ ᛔᛚᛆᛍᛂ ᚥᚼᛂᚱᛂ ᛁ ᛍᚮᛘᛘᛆᚿᛑ・・
詠唱が終わる。あかりが手を挙げる。
「マジックボム!」
僕らと玉座の中間辺りで激しい白い光が爆発した。光は大きく膨れ上がり周りのゴブリンたちを飲み込みゴブリン達は影となって溶け…………
「ドガーーーン!」
爆風が僕らを襲う。ゴブリンの破片がペシペシと当たる。直径十メートルほどのゴブリンは蒸発し、まわりのゴブリンも爆風でなぎ倒されている。瞬間的に玉座までの間がぽっかりと空いた。玉座にはローブを着て王冠を冠ったゴブリンの姿。あれか!
「突撃!」
騎士たちは突入する。僕は槍を構える。
『縮地!』
僕の槍はゴブリンキングに突き刺さった。
・・
「抜けない!」
ゴブリンキングに突き刺さったのはいいが、深く刺さりすぎだ。ゴブリンキングは槍が刺さったまま何か怒っている。いやまあ怒る理由はわかるんだけど。そして左右からホブゴブリンの衛兵たちが来ている。
ちらっと背後を見るが、騎士達は……まだ間に合わない。しかし、騎士の間を二人のレベル5が追い抜いてくる。
「おにいちゃん!」
「お兄ちゃん!」
メイスを掲げてシャリがゴブリンキングに突撃する。あかりがカバーに入って衛兵の足止めをする。僕は腰の手斧を抜いてゴブリンキングに殴りかかった。
・・
乱戦となった。攻撃力付与はあるものの恩恵がないので手斧の攻撃力では大ダメージを与えられない。そこにホブゴブリンの衛兵が殺到してゴブリンキングの壁になる。騎士たちとシャリとあかりも一緒になって衛兵を倒しているもののなにせ数が多い。
僕の槍が刺さったままのゴブリンキングが衛兵に囲まれて離れていく。あかりがマジックミサイルをキングに撃ちまくるが倒れない。僕も手斧をキングに投擲するが衛兵に阻まれる。あかりが嫌そうにさっきの木の棒を取り出だしている。
『いやそれはちょっと』
僕は背中からスコップを取り出した。もうこれしか武器がない。
スコップの先を向ける。水平に構える。高さを合わせる。
『縮地!』
スコップがゴブリンキングの首に食い込み、切断する。王冠の付いた首が飛ぶ。
ゴブリンキングが黒い煙になって消える。僕の槍が床に落ちた。
ゴブリンたちはびっくりしたように立ち止まり、一斉に走り出した。部屋のあちこちから逃げていく。ゴキブリっぽいな。
僕の体に力が沸き上がってくる。レベルアップだ。いつもより大きい。ゴブリンキングの魔物としてのレベルはかなり高いのだろう。そして僕はレベル2だからレベル3の時の4倍が加算される。6人で割るにしてもとどめを刺したのは僕だ。そしてその前に倒した大量のゴブリン。いろいろ加味した結果2レベルアップした。
「いつの間にお兄ちゃんレベル4になってるのよ」
「ゴブリンキングが強かったからじゃない?」
――
フィン:レベル4(2 up)(人間:転生者)
・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い(new)、スコップ(new)
シャリ:レベル5(人間)
・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性
あかり:レベル5(エルフ:転生者)
・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒
――
★★★で評価をお願いします!
★で評価ページはこちらからどうぞ↓↓TOPページ
https://kakuyomu.jp/works/16817139559030247252#reviews
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます