105 ヴィーガン

 メイの家に王女を連れ帰ってきた。そそくさと部屋に戻って、あかりとメイに説明がちょうど終わったところだ。


「で、どうするのよこの子?」


 あかりが目の前で聞いてくる。目の前20㎝にエルフの整った顔がアップになる。きれいだなー、じゃなくて。


「しょうがないだろ。他にどうしようもなかったんだから」

「まったく目を離すとすぐ女の子拾ってくるんだから」

「お前がそれ言う?」


「シャルロット姫、初めてお目にかかります。メイと申します」

「今はシャリだと思って、シャリと呼んでください」

この子、乗りはいいな。


 きょうだい会議だかなんだかわからないけど、みんなで方策を考えることになった。シャリの格好をしたシャリでない子がいるとすごく違和感。すごくよく似てるだけ微妙な差が感じられるのだ。シャリは何してるんだろう。すぐ助けるからね!


「問題はまず、なんでお兄ちゃんの恩恵が効かなかったかよね」

「そこは考えたんだけど、一番有力なのはやっぱりレベル差が大きすぎるんじゃないかと思うんだよ」


 あかりの疑問に答える。今まで下に四レベル差は試したことがなかった。

「でも、シャルロット姫がフィンの恩恵を受け付けない体質という可能性もありますよね」

メイがそういうが、まあ可能性がないわけでも。正直よくわからない。なんにせよ僕の恩恵を使わない手も考えないといけないかも……


「ですからシャルロット姫ではなく今はシャリと」

王女が口をはさんできた。


「姫様、話がややこしくなるのでここは王女とか姫様とかシャルロット姫とかのほうが」

「それだとうっかり人前で口にしてしまうかもしれないですよね」

「それはそうかもだけど」

「なのでシャリと呼んで欲しいのですよ」

「もうややこしいから、シャルでお願いします」

とりあえず姫の呼び名はシャル(ロット)になった。人前でうっかり口にしてもシャリだと思ってくれるかもだし。それはともかく。


「で、なんでレベルが上がらないかですよね」

メイが話を再開する。


「レベル差の問題ならお兄ちゃんのレベルを下げればいいわけだけど……」

あかりが他人事っぽくつぶやく。


「でも誰のレベルを上げる?」

「シャリさんがいないから記憶を消せないですよね」

メイもカジュアルに物騒なことを言っている。ちょっと別の手を先に考えよう。


・・


「ところでシャルはどうしてダンジョン行けないの?」

まずここからだな。


「私は生き物を殺せないのです」

「どうして」

「かわいそうじゃないですか……」

どうしようこのお嬢様。いやお姫様か。


「人はみな他の生き物の命を奪って生きているんだよ」

やさしく説明する。


「私は菜食主義ヴィーガンだからそんなことないです」


 えー。魔物にヴィーガン関係あるの?



 悪い子じゃないんだけどね。今もメイの部屋の掃除を手伝ってるし。お高く留まってるわけじゃなくて単にそういうのが駄目みたいだ。魚の目も怖いとか言いそう。田舎で生きた鶏をさばいていたシャリとは大違いな感じだ。


 今もメイが作ったキャンディーをおいしそうに食べている。こういうところは子供なんだけどな。僕にもいくつか分けてくれたし。


 それはともかく、メイが掃除しているのを見てちょっと閃いたことがある。そこにあったモップを持ってみる。試してみると、いい感じかもしれない。


「シャル、ちょっとダンジョン行こうよ」

「私、生き物を殺せないんです」

「それは大丈夫。見るのも経験のうちって言うし」


 言うよね?


・・


「お前たち、どこに行くんだ?」

あかりとメイとシャルロットを連れてメイの家を出たとたん、声を掛けられた。え?っと思って声の主を見るとなんとエリーさん。しかもチェインメイルを着て剣を下げている。


「いやちょっと買い物に」

「ちょっとこっちこい」

無理やり路地裏に連れていかれる。カツアゲ?


 路地裏に入った途端、エリーはシャルロットの前に膝まづいた。

「姫様。ご無事でよかった」


 えっとーー。


「なんで分かったんですかエリーさん」

「あんな茶番が通じるか。私が何年姫様付きの騎士をやっていると思ってるんだ」

まあさすがに無理あったかな。一応聞いてみよう。

「ちなみに、他の皆様は?」

「節穴ぞろいのようだな」

意外と大丈夫だった。


「エリー、この件は内密に願いますよ」

「姫様がそう言うのであれば。しかし何なのですこれは」


 王女とエリーの会話に口を挟みこむ。


「えーっとですね、実はこれからシャルロット姫はダンジョンに行かないとですね」

「ダンジョンだと!」

エリーは立ち上がった。剣に手をかけている。


「これ以上姫様を危険にさらす気か!」

「いえ、ですから」


 んーとどうしようかと考えていると、シャルロットがなにか思いついたよう。


「そうだ、エリーも一緒に行きましょう」

やっぱりそうなるか。


「生き物を殺さなくてよいのであれば、そのダンジョンという所には行ってみたいのです」

「しかし、危ないです姫様」

「エリーがいれば大丈夫でしょ」


 エリーさんは僕たちを見回して考えている。そして僕の目を見る。


「私は姫様しか守らないぞ」

「もちろん無問題」


――

姫様の挿絵はこちら

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652889352917

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