104 身代わり

「なんで勝手に約束するんだよ!」

「成功すれば問題ないだろ!」

小声で司教とやりとり。


「君らは死ぬだけかもしれんが、私まで地位を剥奪されて追放される可能性だってあるんだぞ」

「死ぬより良くない?」

「死んだほうがましだろ」

価値観が相いれない。


「とにかく僕らが終わるまで扉の前で見張ってて」

「そうだな。お祈りでもしているよ」

この司教どんどん口調が雑になってるな。


・・


 シャルロットのお部屋。豪華な天蓋付きベッドがお姫様っぽい。


「シャルロット!」

「シャリ!」


 二人で抱き合っている。どうやら本当に友達らしい。どこで知り合ったのか謎。ていうか本当によく似てるな。知らない人だったら間違えるぞ。僕はおにいちゃんだから間違えないけど。しかしこの二人が抱き合ってると尊いんですけど。


「シャリ、それで私はどうしたらいいの?」

「大丈夫シャルロット。おにいちゃんに任せて!」

なぜかシャリがどや顔で僕に話をぶん投げる。


「それじゃ王女殿下」

「シャルロットって呼んで」

まあなんでもいいけど。


「じゃあシャルロット、ここに立って動かないでね。何があっても驚かないように」

「わかった!」

シャルロットの期待に満ちた目。シャリがうなずく。僕はシャルロットの前に立つ。


 右手をシャルロットの頭の後ろに沿わせる。左手はそっと腰を抱いて。ゆっくりと顔を近づける。

「僕の方を見て」

身長の低いシャルロットはちょっと上向き加減。僕は上から顔を近づける。右手を頭の後ろに動かないように固定。そして、僕の口をシャルロットの口に合わせる。


レベル接続コンタクト!』

シャルロットがびっくりしたように目を見開くがその後そっと目を閉じる。シャルロットが僕を受け入れ、僕との間にレベル回路が形成される。では。


レベル譲渡トランスファー……』


 なんで駄目なの?


・・


 そのあと三回ぐらい試してみたけどだめだった。舌突っ込んだりしてみたけどどうも違うっぽい。


「おにいちゃん今レベル4だよね」

「そうだけど」

「シャルロットは0でしょ。差が大きすぎるんじゃない?」


 え?レベル差は下方向にも制限があったの?


 確かに、シャリもメイも僕がレベル2のときレベル0だったな。今までレベル4差という例はなかったかもしれない。もっと検証しておけばよかった。


「どうしましょう」

シャルロットが心配そう。


 そうだ。隠蔽を使って!


 シャルロットに隠蔽を使ってみるがレベルは上がって見えない。そういえば偽装するんじゃなくて隠すだけだもんなこの恩恵スキル


 どうしよう……ここはシャリを連れて逃げて……でもパウル司教が捕まれば身元はすぐバレるな。うーん。


 シャリとシャルロットを交互に見る。ほんとこの二人そっくりだな。そうだ!


「とりあえず入れ替わって!」

「「え!」」


 服を交換してもらう。髪型も整えて。

「シャリ、チョーカーは外して隠しといて」


 ひょっとしたらうまくいくんじゃないかという気がしてきたぞ。シャリに隠蔽を掛けてレベル1に見えるようにしておく。これでどうだ。


「パウル司教ちょっと」

扉をちょっとだけ開けて司教を部屋に入れる。


「成功したか!」

司教はシャルロット(に見えるシャリ)を見てほっとした表情。しかし目つきが険しくなる。

「っていうか、この子シャリ」

「やっぱわかる?」

「こっちがシャルロット姫だろ。レベル0だし」

「でも鑑定なければわからなくない?」


「っていうか駄目だったのかよ」

最悪!って顔をする司教。そう言われても勝手に約束したのはあんただろ。

 

「どうも条件が合ってないらしいんだ。なんとかこれで時間を稼げないかな」

「大方の連中はわからないかもしれんが、家族はどうだろう、うーん」


 司教のポケットからもう一個マスクが出てきた。

「これ付けてくれ」

「なんでマスクしてるのって聞かれないかな?」

「そこはうまく言っておく。あんまり時間かけてると怪しまれるぞ」


 司教は扉を開けて大声で叫ぶ。


「みなのもの、シャルロット姫は無事に恩恵を授かったぞ!」


・・


 シャルロット(の恰好をしたシャリ)が彫刻に手を触れると一つの光が空中に浮かぶ。


「おお!」

一斉に声が漏れる。


 司教が厳かに語る。

「秘儀はうまくいきました。ただし三日は声を出さないようにお願いします」

「なぜじゃ」

国王が尋ねた。

「そういうものなのです。まだ恩恵が安定化しておらぬゆえ、力が口から漏れてしまうかもしれませぬ。安定するまでは目の色が変わったりなど影響があるかもしれませぬがご心配は無用です」


こいつ絶対前世は詐欺師だよな。


 国王は納得したようにうなずく。

「そういうものであれば仕方がない。それでは三日待つとするか。そこの者たちも大儀であった。褒美を与えるからまた三日後に来るといい」


 僕たちはお辞儀をしてそそくさと王宮を去る。


・・


 っていうか、これからどうしたらいいんだよ!!


(・・ おにいちゃん ・・)

『シャリ!』

っていうかこっちの声は聞こえないんだな。


(・・ こっちは大丈夫だから、おにいちゃんシャルロットのレベルを上げてあげて ・・)


 シャリは優しいなあ、っていうかどうするかな。


――

挿絵はシャリとシャルロットです

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652841967177

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