103 姫様
今日も来客。パウル司教がわざわざ会いに来た。でもみんな不在。シャリはメイと買い物。あかりは森でも行ってるのかな。
「今日はメイは不在なんですが」
「いや、君に会いに来たんだ、外に馬車を置いてある。ちょっと付き合ってくれ」
と言われて無理やり連れ出された。
「教会のごたごただったら巻き込まないでくださいよ」
「いや、今回は教会とはあまり関係ない」
「あまり、ってちょっと関係あるんじゃないですか」
「依頼主は教会じゃないんだ」
ってことは……
「つまりその誰かが教会に依頼した案件が回ってきたってことですよね」
そんなのめんどくさい案件に決まってるじゃん。
露骨に嫌な顔をしてみるが、司教は平然としている。
「そういえば、リザードマン達が皆殺し事件についてうるさく言ってきてるんだ」
「死んでいた三人の冒険者のせいという事になったんじゃないんですか?」
なんかそういうことになったと聞いたはずなんだけど……
「どう見ても強力な魔法で吹っ飛ばされているからなぁ」
パウル司教は他人事の様に言う。
「そういえば君の妹さんで魔法使える子いたよね?」
「わかりましたよ。話だけ聞きますよ」
こいつ絶対前世はインテリヤクザだろ。
・・
「国王陛下の娘、第三王女シャルロット姫なんだが」
いきなりめんどくさそうな案件ぶっこんで来てませんこの人?
「僕たち平民だし王族なんて会ったことも見たこともないです」
「シャルロット姫は特に体が弱く、ほとんど王宮から出ないのだよ」
「まさか妖精の子だとか言うんじゃないでしょうね」
「察しがいいな」
えーっと。
「ダンジョンでも行けばいいんじゃないですか?王女なら子供でも入れるでしょ」
「優しい子なんだ」
え?
「優しすぎて、生き物を殺せないんだ」
「オークがかわいそうとか?」
「そう」
なんだよそれ。
「そこで君の出番だ」
「じゃあなんですか、僕が王様の前で、その、シャルロット姫?のレベルをなんかして上げる?とかそういう事ですか?」
ちょっと大声になってしまうが司教は平然とした顔。
「礼はするから」
「だから知りませんって」
「君にはそういう能力があるのではないのかい?」
「いやちょっとよくわからないんで」
司教はちょっと間を置いてまた話し出す。
「リザードマンが」
「わかりましたよ!」
大声で話を打ち切る。
「とにかく秘密にこっそりやれるようにしてくださいよ。顔出しNGですから」
◇
「ということで、そういうことになったから」
「こないだの、もう一人いるっていう件ですよね」
「そうだろうね」
メイの質問に答える。しかし思った以上の大物だったな。
「誰が行くの?」
あかりが聞いてくる。
「メイはこの街の人間だから知り合いに会うかもしれないし、あかりはエルフだから目立つし、僕とシャリがいいんじゃないかな」
「シャリはおにいちゃんとならどこでも行くよ」
「一応、二人ともフードをかぶって顔を見られないようにするから」
◇
翌朝。まだ早い時間。シャリと二人で街の教会に入る。
「とにかく顔は見せませんからね」
二人ともフードをかぶって口も布で覆う。背格好と髪の色ぐらいは分かるがそのぐらいはしょうがないか。
そこから教会の馬車で王宮に。入口までは見たことあるけど初めて入る。パウル司教と最後の打ち合わせ。
「だから僕らは何もしゃべりませんからね」
「それは問題ない」
それから重要事項の確認。
「シャルロット姫と僕らだけで別室に行きますからね。誰かが覗いたり近づいたりしたら失敗しますから。三人だけで密室が必要だと念を押してくださいね」
「それは言ってはみるが、陛下がなんて言うか」
「失敗してもいいのか!で押し切ってください」
パウル司教は目でうなずく。そして馬車が停まった。
・・
「この者たちがシャルロットの命を助けられるというのか?」
王がパウル司教に尋ねる。声には明らかに疑いの色。そりゃフードでマスクの子供たちじゃ胡散臭い以上の何もないよね。
「その力は私も確認いたしました」
パウル司教がそつなく返答する。そして懐から小箱を取り出す。
「この中の印に触った時、恩恵を授かっておれば光を発します。そうなればもはや妖精の子ではありません」
司教は王の前に置かれた机に小箱の中身を置く。小さな彫刻。集中線の入った星が書かれている。
「まずは、どなたか試してみますか?」
「それでは」
王の横にいた騎士が進み出て彫刻に手を触れる。騎士の前に五つの光。
「他の方もいかがですか?」
護衛にいた騎士たちが数人手を触れると三つ、四つの光。そのなかにエリーさんの姿を見つけた。
『やべ』
僕らのこと分からないといいんだけど。まあ、ちょっと会っただけだしマスクしてるし大丈夫だろう。
「ではシャルロット様もお願いいたします」
司教がそう言うと部屋の奥から一人の少女が出てきた。歳は10歳ぐらいに見える。身長は140cmもないだろう。小柄でほっそりとしている。髪の毛は金髪で肌は白く、なんかシャリにそっくりだな。
その時、シャリが僕の腕を強く握った。
(・・ おにいちゃん、あの子、シャルロットだよ ・・)
いや、それは知ってるって。そう言ってたじゃん。目で合図する。
(・・ シャリの友達なんだよ ・・)
え???
シャルロットは彫刻に手を触れる。光は発しない。
パウル司教はうなずいて王に語り掛ける。
「それではこれからこの者たちの力で、シャルロット様が恩恵を授かれるように力を与えます」
「よかろう。それではすぐここで」
「陛下、この者たちの行う秘跡は神の力を借りるもの。人の目に触れさせることはできないのです」
「ふむ。ではどうすればいいのだ?」
「この者たちをシャルロット様のお部屋に一緒に連れて行ってください。そして誰も近寄らぬよう。神の怒りに触れてしまいますから決して覗いてはなりません」
「うーむ……」
国王は胡散臭そうな目で僕らを見ている。
「いや、司教殿を疑っているわけではないのだよ。しかしこの者たちが司教殿にペテンを働いている可能性もなくもない」
「いえそのようなことは」
がんばれ、司教!
「よかろう。ならばもしシャルロットが恩恵を授かれなかった場合、この者たちの命はないからな。その代わり成功したらもちろん褒美は取らせる」
「それでよろしゅうございます。陛下」
よろしいのかよ!
――
シャルロット姫の挿絵はこちら
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652799022376
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