第三部第一章 三人目
102 賢者の石
錬金術師が追い求めた賢者の石。それは水銀を金に変えることができると言われている。もっともこれは概念的な話であって、多分にパトロンから研究資金を出してもらうための言い訳だったわけだが。
そして賢者の石と呼ばれるものも、そういう石があるわけではない。物質を別の物質に変換する仕組みを、一般人に分かりやすく、賢者の石と称したに過ぎない。
◇(メイ)
「これも違うか……」
メイはサンプルの岩石を実験室の廃棄箱に放り込んだ。
これでもう何回目か。王都で手に入る様々な鉱石、石、砂を買い求めては分析を繰り返す日々。なかなかメイの求めているものは見つからない。
「鑑定が欲しいところなんだけどな……」
あかりに手伝ってもらおうかとも考えたのだが、そもそも説明が難しい。岩の中に含まれる成分を鑑定の恩恵で探してしてもらうには、少なくともその成分の見本を見せる必要がある。問題はその見本すらないことなのだ。
「メイちゃん!」
シャリが実験室にやってきた。メイの実験室は王宮近くの倉庫街にある。というか家の倉庫を勝手に使っている。
シャリが袋から肉まんを取り出す。
「食べる?」
「ありがとう。シャリさん」
メイは肉まんを食べながら部屋を見回す。最初は整然としていたのにずいぶんと散らかってきた。ちょっと片づけよう。あと破損した器具も補充しないと。
「シャリさんはこの辺によく来てますよね」
「うん。友達に会いに来てるんだけど……今日は会えなかったの」
「そう。残念ですね」
倉庫街にいる友達なんて変わってるな。
「そうだ。あとでガラス屋さんに一緒に行きましょう」
「うん。メイちゃん」
・・
実験器具に使うガラスの原材料を買っていると、シャリが飾ってあった大きなガラス皿に見惚れていた。
「きれい」
シャリを見ているとなんか微笑ましくなる。
やはり微笑ましくなったのか、微笑を浮かべた店員さんが説明してくれる。
「あのガラス器は特別なんですよ」
「そうなんですか?」
たしかにきれいだけど普通のガラスの大皿に見える。
「夜明け前の空の光を受けると緑色に光るガラスなんです」
なるほど。それは特別だ。これは前世の記憶にある。
「それじゃそのお皿もお願いします」
値段も聞かずに購入してしまった。
「ところで、これはどこの産地のものなんですか?」
◇(フィン)
メイの家。メイとシャリが実験室から帰ってきたところに、あかりが一人の女性を連れて来た。とりあえずみんなで近所の茶店に行くことに。
年のころは30代かな。腰に長剣を下げ、制服を着用している。鎧こそ来ていないものの公的な所属の人間みたいだ。レベルは4。なかなかだな。しかしなんだろう。あかりの知り合い?
あかりが僕らを紹介した後、彼女が紹介される。
「こちら、王室騎士団のエリーさん」
「どうも初めまして」とりあえず答える。
「この人がウェンさんの言ってた王都の知り合いよ」
あ、すっかり忘れてた。
「どうもウェンさんにはいろいろお世話になりました」
「彼、元気でやってた?」
「そうですねぇまぁ(元気というよりなんか死に急いでる感じなんだよねあの人。でも死んでないし元気と言ってもいいかな)元気ですね」
「その感じだと、どうやら変わらないみたいね」
「たぶんそうだと思います」
「それで君がこの子たちのお兄ちゃんなのかな」
「えっと、(シャリは正確に言うと同い年の親戚の子であかりは本当は年上のエルフでメイは年下だけど中身は年上の女子大生で)そんな感じですね」
「そっかそっか」
エリーさんはニコニコしている。この人、年代的に母親の歳なんだよな。ちょっと話しにくい。
ところで、なんであかりはこの人連れてきたんだろう、そう思ったらあかりが僕に話を振ってきた。
「お兄ちゃん、あの件を聞いてみたら?」
「あー、あの件ね(ていうかストレートに聞いていいもんなの?)」
僕とあかりが視線を何度か交差させる。
「エリーさん、妖精の子って知ってますか?」
メイがド・ストレートに聞いた。
「噂としては知ってるわよ」
「私たち、そういう子がいたら助けてあげたいんですよ」
メイがエリーに向かって言うんだけど。
「どうやって?」
ですよね。
とりあえず僕が返答をする。
「なんていうか、同じ世代として支えになってあげたいというか寄り添ってあげたいというか」
「優しいのね君たち」
でもここで「僕の恩恵でレベル上げます」とは言えないしな。
――
メイとシャリの買い物の挿絵はこちら
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652752129560
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