第三部第七章 この世界の豊かさ

129 人類の繁栄

 王都に戻った僕は、有識者に聞いてみることにした。この問題の場合、やっぱり神関係の人かな。


「というわけなんです、パウル司教」

「わけわからない話を持ってこないでくれよ」

パウル司教は頭を振って嫌そうな顔をする。せっかくなのでもっと聞いてみることにしよう。


「転生者がコピーだとすると、元々いた魂はどこに行くんでしょう」

「そもそも魂なんてものがあるのかわからんし、そんなこと気にしてもしょうがないだろ」


 実際気にしてもしょうがないのだが宗教者としてその姿勢はどうなの?


「それでお前は何しに来たんだ?」

「神は何で転生なんてことをやっているのか聞きたくですね」

「それこそ神に聞いてくれよ」

「有識者でしょ」

「誰が?」

黙って司教の顔を見る。司教は僕の顔を見返す。


「俺は教会派閥の専門家であって神は専門外なんだ」

「僕より詳しいでしょ」

「会ったことないからわからん」

「いやまあいいです。今日のお願いは他にあって」

司教は僕の顔を厄介者を見るような顔で見ている。


「大司教の部屋にもう一度入れてほしいんですよ」

「だから封印されてるって言ってるだろ」

「扉は開けないでいいですから」

「貸しだぞ」


・・


 大司教の間再び。メイには例によってグルグル巻きになっていてもらう。


「なんだ、またお前たちか」

メイの口から大司教の声が出てくるのが吹き替えっぽい。

「神について有識者である大司教に聞きたいことがあって」

「どういう風の吹き回しだ?」


「教えてほしいのは、神がなぜ人を転生させているのかなんけど」

「もちろん、人類文明を発達させるためだろう」


「ところで初歩の初歩を聞いてなかったんだけど」

「なんだ」

「この世界に神は何人いるの?」

「5000柱と言われているな」

「多くない?」

「お前たちのいた世界はどうだったのだ?」

「えっと、800万?」

「多いな」


 いろいろ聞いてみた結果、どうも、人類派とかそうじゃないのとか神にもいるようだ。神同士で競っているみたい。ゲームみたいなもんかな。


「転生の神に会いたいのだけどどうしたらいいかな?」

「人類を繁栄させる貢献を積め。その上で祈れ」


 貢献ポイントが溜まるとお願い聞いてくれるのか。やっぱり文明発達シミュレーションゲームみたいだ。


 そうなると疑問なのが、僕らが元々いた世界はどうして人類があんなに力をつけたのだろうということなんだけど。この世界との違いが分かればなんとか攻略できないかな。


・・


「そんなの簡単ですよ」

メイに相談したら即答だった。


「文明は人が作るんだから文明の発展に必要なのは人口です」

「中国っぽいね」

「歴史を見ればそうですよ。人口とそれを支えられる余剰の農業生産性があれば文明は勝手に進歩するんです」

「そのために必要なのは?」

「必要なのはまずは充分な食料。それから物流、そしてエネルギーですね」

メイはあっさりと言い切る。となると。


「この世界はどうして発展しないんだろう?」

知りたいのはこれなんだけどね。


「こんな人々の大半が飢えに苦しんでる世界では発展も何もないですよ」

「まあそれはそうだけど、じゃあどうしてこの世界は食料が足りないんだろう」

別に畑の面積が少ないわけじゃないのに。


「私たちの世界と比べるなら人口密度が低すぎですよね。多分畑の生産性が悪いんでしょう。この国だってこの面積なら10倍の人口を養えるはずです。単純に肥料が足りてないんじゃないですかね」

「そういうもん?」

「そういうもんですよ。コメみたいに収量が多い作物ならさらに肥料が必要です」

そういうもんなのか。となると。


「肥料ってどうやって作るの?」


「そうですね、基本的にはアンモニアさえ合成できれば、後はアンモニアから硝酸を作ってそれをさらにアンモニアと化合させて硝安という肥料ができます」

「そのアンモニアってどうやって合成するの?」

「水素が作れれば後は空気と水で合成できますよ。この世界ならアルケミストの恩恵が使えますし反応させるのは簡単です」

なるほど。


「水素は?」

「私たちの来た世界ではコークスと水で作ってますけど、ここでは石炭がないので水を電気分解ですかね」

「そんな電気足りるかな?」

いや、必要な肥料って継続的に万トン単位なのでは。


「炉が動けばそのぐらいの電力は足ります」

「前から言ってるけどその炉って何?」

「見ます?」


 メイについて行って秘密基地の地下に移動。それはそこにあった。巨大な鉄の塊。そして張り巡らされたパイプ。なんだこれ工場?いつに間にこんなものが。


「これは発電機です」

「いつの間にこんな物を」

「それでこっちが炉ですね」

メイは発電機の隣にある大きな鉄の塊を指差す。鋼鉄で作られた巨大な繭のようなもの。


「熱出力100メガワットの小型モジュール炉です。減速剤として重水を使用したCANDU炉はウラン濃縮が必要ないタイプなので比較的早く作ることが出来ました。これから臨界試験を始めて明日には臨界に……」

「なにこれ?」

「え?」

「え?」


「原子炉ですけど」


 えっとー。


――

挿絵はドヤ顔のメイちゃん

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330653920125948

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