83 リザードマン
目の前に沼が広がっている。その畔に木造の建物がある。小屋ではないが城というほどでもない。建物をリザードマンが出入りしていて、僕らは草地に隠れてそれを見ている。距離は100mほど。そして沼の真ん中に小島があるようだ。
「このダンジョンやたらにでかいけど端ってあるのかな?」
「カラスによると直径5㎞ぐらいあるようです」
メイが地面に丸を書く。
「ここは真ん中で、私たちが出てきたのは端のほうですね」
端をぐるっとまわると15kmぐらいあるのか。
建物から一団のリザードマンが何かを抱えて出てきた。四体で振り子のように勢いをつけるとそれを沼に放り込む。どぼんと水柱。
「なんだろう?」
誰に言うともなくつぶやいた時、沼に大きな水柱が立った。さっきの水柱より何十倍も大きい。そして水柱からぬっと出てきたのは爬虫類の頭と首。
「え、また?」
ヘビかと思ったらその後ろから胴体も浮上してきた。丸くて、甲羅。シャリがつぶやく。
「今度はカメだ!」
サイズがおかしいから距離感が狂うんだけど、甲羅だけで10mはありそう。そして首が妙に長い。中生代の首長竜みたいな感じ。
「カメを飼ってるのかな?」
「そうかも」
シャリに答える。確かに餌をやったようにも見える。
「お兄ちゃん、建物のほう」
カメに気を取られていたが、あかりに促されて視線を戻すと一団の人間が建物に近づいている。リザードマンが振り向く。
『戦闘が起こるのかな?』
様子を見ていると、人間が手を振る。リザードマンも手を振る。
『なんだそれ?』
・・
人間が背中からバックパックをおろしてリザードマンに渡している。全部で五人ほど。リザードマン達は受け取って建物に持っていく。しばらくするとバックパックを持って出てきた。人間達がそれを受け取って背負う。
人間達はリザードマンに手を振り、向こうに去っていく。みんなに言う。
「後を付けよう」
あかりが隠密で先行する。姿は見えないが気配察知で居場所は判る。距離を取って僕とシャリとメイが続く。かなりの距離を歩く。
あかりが止まったので静かに横に近寄った。草の隙間からそっと前を見ると、僕たちが出てきたような祠。そこに五人の人間が入って行った。
「ここって僕たちが出てきたところじゃないよね?」
小声であかりに聞く。
「ちょうど反対側ね」
・・
しばらくして、祠の様子を見に行ったあかりが帰ってきた。
「行っちゃったみたい」
「階段はあった?」
「それが上に行く階段なのよ」
「三階からの階段は二か所あるのかな?」
二階のボスのところには下り階段は一個しかなかったけど。
「来たところまで戻るのもなんだし、ここから戻ってみようよ」
◇
三階の幽霊を無事に蹴散らし、二階と一階は楽勝。ダンジョンの出口まで来たのだが。
「ダンジョンの出口に扉あったっけ?」
「お兄ちゃん、えっと」
あかりがいつもと違う感じ。
「さっきから気になってたんだけど、このダンジョン入ってきたところじゃないのよ」
「え?」
「全体の作りは似てるんだけどあちこち微妙に違うのよ」
「えーと、気が付かなかった」
僕は戻ることに一生懸命だったのであんまりダンジョンの作りには注意を払ってなかった。
「それに王都のダンジョンの出口はこんな扉なかったでしょ」
たしか柵だった。
「私はこの扉に見覚えあるの」
つまりそれって。
「ここは教会のダンジョンよ」
・・
「ここから地下に戻って、ボスを倒しながら四階まで行って横断して入口まで戻る、って、みんなどうかな」
「ボスがリポップしてたら難しいよね」
「だよね」
「それじゃここから出るか」
「また攻撃魔法で吹っ飛ばす?」
「目立ち過ぎだよあれ。教会中に聞こえてた」
扉を調べると中からは押す方向だな。ダンジョンの備品ではなく後から外側に設置したもののようだ。軽く押してみるがびくともしない。向こうにかんぬきでも掛かっているのか。
「攻撃力付加して力持ちの恩恵で一気に、でどうかな」
「やっぱりぶっ壊すんじゃない」
「目立たなきゃいいんだよ」
「あ、その前に。メイ」
「なんでしょう?」
「その服は着替えて」
メイはビキニアーマーのままだ。
「わかりました」
いきなり脱ごうとする。
「ちょっと待って」
「着替えてって言ったじゃないですか」
「上に服着てよ」
「なんか体育の授業の日の小学生みたいじゃないですか?」
「小学生はビキニ着ないから」
・・
「もういいですよ」
メイの方を見ると来た時と同じニットのワンピースに戻っていた。ちょっと気を取り直して。シャリが僕に恩恵を掛ける。それでは。
扉の前に立ってちょっと離れる。助走をつけると肩から体当たりして一気に押し込む。
「うー、くそー、このー」
ちょっとギシギシいってるんだけどな。もうちょっとな気がする。
「もうちょっと」
「加勢します!」
メイがまた紙のお札を取り出すと何かを唱えて投げる。お札がむくむくと大きくなって。
「牛!?」
「牛は由緒正しい陰陽師の式神なんですよ」
なんか詳しくない?
「それじゃ牛が突っ込むので一緒に」
「せーのー」
「モー」
ドカーンという音とともに扉が外れた。
「目立たないって言ったわよね」
「比較の問題だよ」
教会の敷地を牛が走っていく。混乱が広がっていく。
「とにかくここにいちゃまずい」
教会の建物は迷路のようだ。人は気配察知で避けるが、誰にも会わず外まで行くのは無理そうだ。あかりに聞いてみる。
「僕たちがこの間連れていかれた部屋ってわかる?」
「最後まで着いて行ってないけど大体なら」
「そこに連れてって」
「多分この辺」
えーっと。あ、人がいた。女性かな。
「すいませーん。パウル司教のお部屋ってどちらですか」
「この先を右ですけど」
「ありがとうございます」
僕はシャリに目配せをする。
「お姉さん、私の目を見てください」
・・
『あそこだ!』
扉の前に僧兵っぽい人が立っている。シャリが近づく。
「こんにちは」
「こんにちは。お嬢さん」
シャリがにっこり微笑むと相手も微笑む。二言三言会話を交わす。
「おにいちゃん、通っていいって」
・・
「お邪魔しまーす」
「君たち、結構強引だね」
「ほんとすいません」
「なるほど。で今はレベル3,1,1,1というわけだ。朝方ダンジョンに入ったときは全員1だったと聞いているが。ちょっとそれを解除してはもらえんかね」
えーっと。しょうがない。隠ぺいを切る。
「ほう。レベル3、5、5、それにメイさんは6とは。ずいぶん頑張ったね」
パウル司教はお茶器を取り出した。
「そこに座ってくれたまえ。お茶にしようじゃないか」
――
次回より新章「沼地の主」
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