82 草地

「ここってダンジョンじゃなかった?」

四階には草地が広がっていた。草地と言っても草原ではなく木や草が高く茂っていてところどころに水たまり。沼沢地という感じかな。上には空があってかなり広そうな雰囲気。


 慌てて振り返ると僕らは小さな祠から出てきたようだ。祠の上は何もないのに奥には上に行く階段が見える。


 沼沢地を見渡す。背丈より高い草が茂っていて見通しはよくない。


「こういうラノベみたいなダンジョンもあるんだな」

「ちょっとファンタジーよね」

またエルフがファンタジーをディスっている。


「道を迷うと戻れなそうですね」

「マッピングは効いてるわよ」

あかり先生まじ頼りになります。


「おにいちゃん」

シャリが僕の左手を握ってきた。ぎゅっと握り返す。

「大丈夫だよ。シャリ」

おにいちゃんがついてるから。


 背よりも高く茂った草地に踏み分け道のようなものがある。ここを行かないと進めなさそう。

『結局、草でできたダンジョンみたいな感じかな』


 歩くと汗が出てくる。気温も高めだし湿気が強い。耐熱の恩恵を意識すると涼しくなったがみんなは暑そう。

「私、着替えていいですか?」

「ここで?」

草地の中のちょっとした広場。といっても大きさは10mもない。


「別に見ててもいいですよ」

メイがワンピースの裾をめくり始めた。慌てて後ろを向く。

「いま下着も脱ぎますよ」

実況しないでいいから。


「終わりましたよ」

振り返るとまだ下着、かと思ったらこれはビキニアーマーだな。あんまり変わらないけど。


その時、ガサガサという音がした。


「きゃ、覗き!」

ビキニアーマーのメイがチャクラムを草地に投げ込んだ。チャクラムの飛行経路で背の高い草が切れ飛んでいく。回転式草刈り機みたいな感じ。

 なぜか戻ってくるチャクラムはメイが平然とキャッチする。そうっと草地を覗き込んでみると。


 草の中に大きなトカゲのような人のような姿が倒れていた。尻尾があるのでトカゲのようだが二足歩行だな。

 手で持っていたのだろう槍が落ちている。そして首も落ちている。皮鎧を着た胴体には首がついていない。

『これは、リザードマン?』


 仮称リザードマンを調べているとふと気が付いた。


「なんでこれ消えないんだろう」

「消えないということはダンジョンの外から来たのね」

あかりが答える。なんと。


「えっと、他の冒険者?」

「私、ひょっとしてやっちゃいました?」

メイが慌てる。

「ドンマイよ」

ドンマイなの?


「獣人もリザードマンもこの世界にはいないから」


「それじゃ、前の犬頭みたいによその世界から?」

「そうかも」

「どうする?」

あかりのことだから次のダンジョンに行くとか言い出すかな。


「とりあえずボスまでは倒しちゃおう」

ちょっと意外って一瞬思ったんだけどね。


「お兄ちゃんのレベルを4まで上げないとね」


・・


 この階はかなりの広さがあってしかも見通しが悪い。空から見ればもうちょっと見当がつくんだけど……。という話をしていたらメイが提案してきた。


「つまりは空からこのトカゲ人間を探せばいいんですね」

「まあそうだけど。トカゲ人間というかリザードマンね」

「任せてください!」

メイはアイテム化したバックパックから紙のお札を取り出した。このバックパックに何でも詰め込んでるみたい。


 メイがお札を投げてなにか唱えると、お札はカラスになった。羽ばたいて飛んでいく。

「それ他にどういう種類があるの?」

「今だと使えるのは一日にレベル6の分ですね。今のカラスが1でさっきのサイは3です」

「なるほど」


 しばらくするとカラスが帰ってきた。カーとか鳴いてる。メイは一つの方向を指す。カラスが戻ってきた方。

「あっちにいるそうです!」


 草原を進むんだけど獣道が真っすぐなわけではないのでいまいち不安。あかりは方向は合ってるというんだけど。

『!』

僕の気配察知が何かを検知した。大きくて長いものが僕らの左前方から近づいてきている。

「左前から何かが近づいてる!」

というものの、ここは細い獣道だ。両脇も背の高い草でびっしり。


 メイがチャクラムを投げて草を刈るとちょっと空間ができた。すると草の間から直径一メートルもある爬虫類の頭が見えた。ちょろちょろと舌が見える。


「へび?」


シャリが一言。ヘビだとしたら長さ20mぐらいになるんだけど。これボスじゃなくて通常エンカウントだよね?でかくない?

 それは鎌首をもたげる。高さ5m以上ある。やっぱりヘビですか。


 巨大ヘビは口を開けて飛び掛かってきた。


「マジックボルト!」

あかりが詠唱破棄で迎撃。あかりの腕から太く白い光が発射され空中の巨大ヘビの頭部に命中した。飛び掛かってきた巨大ヘビは失速して目の前に地響きを立てて落下。


『やったか?』


 僕らの目の前でそれは再び大口を開くと、一番近くにいたシャリを飲み込もうとする。

『庇う!』

恩恵を発動してシャリと入れ替わった。巨大ヘビの大きな口めがけて左腕を突き出す。

「スコップ!」

実体化したスコップ!がヘビの口内に出現。つっかえ棒のように上下に挟まる。


「今だー!」


 僕は両手持ちにした槍で何度も胴体を刺す。メイはダーツで目を攻撃し、鼻面はシャリがメイスで殴り続ける。巨大な胴体が暴れるので何度も潰されそうになるところをなんとか避ける。


 やがて巨大ヘビの動きが止まった。そして煙になって消える。グニャグニャになったスコップ!がごろんと落ちる。


「消えるってことはリポップするのか」

こんなのがウロウロしてるとかこの階って実は危険なのでは。いまさらだけど。

――

メイのビキニアーマー挿絵はこちら

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652743689136

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