第二部第十章 沼地の主

84 パウル司教

「僕たちがここに出てきても驚かないんですね」

「向こうのダンジョンと繋がってるのは知っているからな。それよりも」

パウル司教は僕らの顔を見渡す。


「封印の魔獣を倒したのは君たちだったのかい?」

「何ですかそれ?」

「王都ダンジョンの三階にいた悪夢の魔獣だよ」

「夢を編むもの?」

あかりが口をはさむ。


「よく知ってるね。さすがエルフは長命なだけある」

「私は若いんですけどね」

年寄り扱いされてちょっと拗ねるあかり。

「封印ってことは意図的に置かれたんですか?」

「まあそんなところかな」

「なんのために?」

「私が置いたわけではないから」

司教はお茶に口をつける。えっと、どうしよう。


 メイが司教に話し掛けた。

「司教様、私たちをお部屋に入れていただいてありがとうございます」

「君たちが勝手に来たんだけどね」

「厚かましいですが家に帰れるようにしていただけませんか」

「意外と厚かましかったんだね君」

司教がメイを見て、そして僕とあかりを見る。


「意外でもないか。転生者は大体強引だな」

あかりが口をはさんだ。

「あなたもそうですよね。パウル司教」

「君も鑑定持ちか。なるほど。鑑定は転生者だけの特別な恩恵だからね」

何そのレア確定みたいなやつ。僕のも転生特典だったの?


「ところで、帰る前に聞きたいのですが」

僕が割って入った。司教はお茶を飲みながら僕を見やる。

「四階のリザードマンは何ですか?」


 司教はお茶を飲みほした。

「転生者ならわかると思うが、この世界以外にも様々な世界がある」

僕はうなずく。

「そして、時々世界がぶつかってしまうことがある。するとダンジョンができる」

「はあ」

「というのは仮説にすぎないのだがね。私はそう考えていてね。あのリザードマンは他の世界の住人なんだよ」


「この間はダンジョンはゲップと言ってませんでした?」

「ダンジョンは自然現象だ。しかし神が意図したものかはわからないが神の御業であることは間違いないだろう。我々にとっては試練でもあり福音でもある」

「ちょっと聞きたいんですけど」

あかりが割り込む。

「神って、なんですか?」


「宗教者にストレートな物言いだな」

「あいにく無宗教なもので」

あかりはさらっと答える。

「私の理解では、神とは世界の法則だよ。人によって理解は違うだろうが」

司教は立ち上がった。


「それでは君たちは送らせよう。そうだ一つプレゼントがある。君たちの中で癒し手は誰かね?」

「このシャリですけど」

「なるほど。ではお嬢さん、この巻物をあげよう」

「ありがとうございます。何ですかこれ」

「これを読むと高レベルの癒しの恩恵が使えるようになる。必要なレベルは足りているようだから次の恩恵を授かる時だね」

恩恵の本みたいなもんかな。


「ありがとうございます」

シャリはバックパックを実体化して巻物をしまうと、またメイがアイテム化して髪留めにしてシャリの髪につける。パウル司教は興味深げに見ている。


「ところで、フィン君」

「はい!」

もう帰ると思ってたのでいきなり呼びかけられてびっくりした。


「君はレベル3みたいだが、ちょっとこれを触ってみてくれないか」

集中線の入った星が掘りこまれた彫刻が出てきた。どうしようと思ったがプレゼントももらっちゃったしなので手で触れる。


 僕の周りを囲むように24個の光が浮かび上がった。


「なるほど」



「いやー、今回は疲れたな」

帰るやいなやベッドに転がる。最後でどっと疲れた。


「お兄ちゃんだらしないわよ」

「クリーンならさっき掛けたじゃない」

四階で泥だらけになったのでみんな念入りにクリーンはしてある。


「おにいちゃん、シャリは巻物読んでみるね」

「わかったよー」

プレゼントなんだからあの司教も嘘はついてないだろう。

 シャリがバックパックから巻物を取り出すと広げて読みだした。例によって文字が光って消える。やはり本と一緒みたい。


「次にレベル上がったらすごい癒しが使えるみたい」

「それって私の順番が後になるって意味?」

僕の横に寝転がってあかりが絡んできた。だらしないんじゃなかったの?


「疲れたからその時考えようよ」

今日はもうそういうの勘弁してほしいんだけど。


「うふ。お兄ちゃんやるのも大変ですね」

いつの間にかあかりの反対側にいたメイが耳元で囁く。

「お姉ちゃんが癒してあげますからね」

僕の頭を抱えてぎゅっと胸に押し当てる。柔らかくてそれでいて弾力が。


「ちょっと、私のお兄ちゃんなんだからね!」

あかりが反対側に胸を押し付けてきた。柔らかくてなんか。


「おにいちゃん何デレデレしてるのよ!」

仰向けで左右をはさまれた状態で、足元のほうからシャリが四つん這いで伸し掛かってきた。僕の胸に顔をスリスリさせている。

「おにいちゃんはシャリのだから!」

君たち、どうして僕が疲れてる時ほど元気なの?


 夕食後。


「そういえば、幽霊のところで指輪出ましたよね」

「そういえばって何にも言ってないけどね。あかり、鑑定してよ」

あかりが鑑定を使ってじっと見る。


「これは加速の指輪ね。念じると速度が上がるの」

前衛向きかな。僕には縮地があるしシャリのほうがいいだろう。


「これはシャリに持たせよう」

シャリに指輪を渡す。

「おにいちゃん、この指に嵌めて」

嵌めると指輪はきゅっと変形してぴったりのサイズになる。さすが魔法の指輪。


「シャリさん、その指は結婚指輪ですよ」

「もう嵌めちゃったもん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る