第16話 家族

「なんと、バグベアとな」

「はい」

騎士団長は重々しくうなずく


「ところでバグベアとはなんじゃ?」


 大型のゴブリン種であるバグベア八体による襲撃。危ういところであったと聞く。もし全滅であれば男爵領の常設戦力の半分が消滅するところであった。

 バーバル男爵領の軍備は騎士と従卒合わせて13名である。団長である男爵長男のケンプを合わせても14名。


 重大な事態となるところであった。


「バグベアとは大きなゴブリンにございます」

騎士団長も聞いたばかりだった。

「まあ、よい」男爵は鷹揚にうなずく。

「それで、ゴブリンの巣の在り処はわかったのか?」



 戦術的に言うと、作戦は成功した。ゴブリン(の一種)をおびき寄せ、迎撃に成功した。損害もなかった。

 戦略的に言うと、失敗だ。そもそもこの作戦の戦略目標はゴブリンの巣を探し出すことだ。ゴブリンを倒すことでも焼肉大会でもない。


 ウェンは中間管理職である。次のプランを考えねばならなかった。


 バグベアとの戦いを思い出そうとするが頭に浮かぶのはあのエルフの少女だった。美しい少女だった。森の中で光輝いていた。女神が降臨したのかと思った。そして、強かった。

『名前を聞いてなかったな』

以前にムールの村で見たことはなかったが、親しげに話していたところを見るとどうやら、フィン少年の顔なじみであるらしい。

『ムール村に行ってみることにするか』



「お兄ちゃん!」

あかりが追いかけてくる。

 二部屋しかない家の中だ。逃げ切れるものではない。

「なんでお兄ちゃん逃げるの?」あかりが迫ってくる

「え、だって、ほら」挙動不審な僕は部屋の隅に追い詰められる。


「お兄ーちゃん♡」

四つん這いになった状態であかりが迫ってきた。エルフのきれいな顔が目の前にある。なんか肌がつやつやしてない?あわてて顔から目を逸らすがポッカリと口を開けたチュニックの胸元の空間にうっかり目が止まる。押し下げられたそこには深い谷間とその両側に盛り上がる艶々した白く柔らかいあれはそういえばこないだ抱きしめたときにぐにゅっとあの感触はいやそうじゃなくて。


「え、え、え、ほら、シャリがみてるし」

「見てなければいいの?」

「え?あ、えっと」

え、どうしよう。でもみてなければいいかな。


「おにいちゃんたちさっきから二人で何してるのよ!」

「あ、いや、えっと」


「おにいちゃんキモイ」

えー。


「お兄ちゃん、キョドってってないでそろそろ説明してよ」

ですよね。



「兄妹会議を開催します!」

「いえー、パチパチパチ」

最初からこうすればよかったんだよ。


・・


「細かいところはよくわかんないけど、ざっくり言うと、お兄ちゃんとキスをするとお兄ちゃんのレベルをもらえるってこと?」

「ざっくり言うとそうだね」

ざっくりじゃなくてもそうだね。


「じゃあシャリのレベルが4なのもそれ?」

「まあそうかな」

「そんなに兄妹でキスしまくってたの?」

「欧米ではあいさつみたいなもんだよ」


 あかりがジト目で僕を見る。

「てゆうかなんで隠してたの?」

「聞いてこなかったよね?」

いや、さんざん聞かれたような気もするな……答え直す。

「ほら、説明しようとしたけど、僕がその時はレベル1だったから」

「でも今はレベル2よね」

「そうなのかな」

「じゃあ、お兄ちゃん……もう一回、キスしよ!」



 家の中、あかりと向き合って立つ。横でシャリが見ている。なんか無茶苦茶恥ずかしいんですけどこれ。

「お兄ちゃん♡」

あかりが近寄ってくる。


 あかりは僕より10cmぐらい背が高い。僕が見上げることになる。

 あかりの右手が僕の頭を抱え込む。左手は僕の右手の手のひらを弄り、指を絡めてくる。これが恋人繋ぎか。ラノベで読んだやつだ。そのまま左手も握られる。指を絡めてくる。っていうか腕が三本なくない?いや、この手はシャリだな。


 僕の目の前にあかりの顔がみえる。きれいだなあ。見とれてしまう。あかりは一瞬『しょうがないなー』という表情をして目を閉じると顔を近づけてきた。そのまま僕に唇を合わせる。

レベル接続コンタクト!』


 やっぱり何も起きない?

 あかりの口から、柔らかいのに確かな感触がねっとりと僕に入ってくる。僕の唇をこじ開ける。歯に当たって、歯茎を舐められる。僕はちょっと口を開く。あかりの舌は上下の歯の隙間を抜けて入ってくると僕の舌に絡みついた。そして。


「ストップ!」


シャリが割り込んできた。

「なに雰囲気出してるのよこのエロエルフ」

いま、エロエルフって言った?

「おにいちゃんもなに喜んでるのよ!」

シャリが僕の左手を握った指に思いっきり力を込める。レベル4の全力だ。痛い、いたい。ていうか僕悪くなくない?


「おにいちゃん、キモイ!」

それ流行ってるの?


「いやーちょっと、私の中のショタ属性が発動してしまった」

やっぱり事案じゃない?


「なんでうまくいかないのかしら」

「やっぱりレベルって4までなんじゃない?」

「だからもっと上の人もいるって」


「例えば……家族じゃないと駄目とか?」

「私達兄妹なのに?」

ほら、血がつながってないじゃん。エルフでしょあなた。


「なるほど。わかりました!」

シャリが口を挟む。

「ここはシャリで試してみましょう!」


「ここでシャリがレベル5になったら私死ぬわよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る