第四章 森とバグベア
第11話 街道
「隊商が一つ行方不明です」
「そうか」
騎士団長である長男の報告を受け、男爵は深刻そうにうなずく。
バーバル男爵領は六つの村からなり、人口は千人程度。大きな町もない。
「やはり、ゴブリンか」
「このところ活発化しているようです」
村々の周りは畑だが、それを抜けると深い森が広がる。男爵領の村は森に点在する小島のようなものだ。そして森はゴブリンの領域だ。
「やはりゴブリンを何とかしないといかんな」
「とはいえ、ゴブリンはカビのようなもの。勝手に湧いてきますから」
「まあそうだが」
ゴブリンは妖精だ。悪さもするがあまり人のところには近づかない。ゴブリンを避けるには森を切り開くしかないのだが人力ではらちが明かない。自然に比べて人は弱い。下手したら村が森に飲み込まれてしまう。
「街道筋だけでももう少し拓くか」
ゴブリンの森も悪いことだけでもない。バーバル男爵領の森には盗賊団などが住みつかない。ゴブリンに退治されてしまうのだ。もっとも盗賊が襲う相手がいないというのもあるだろう。この領地は貧しいのだ。
「村人を徴用せねばいけませんね」
「金がかかるな」
農閑期とはいえ、なにも見返りなしというわけにもいかない。
「では騎士団を使いますか?」
「うーむ」
バーバル男爵領の騎士団は騎馬三名、従卒の歩兵が十名。常備軍はこれだけだ。彼らを伐採に回したら巡回が出来なくなりゴブリンの被害が増える。本末転倒だ。
「国がもう少し税を下げてくれるといいんだがな」苦笑する。領民だって自分にそう思っている。
「少しずつ徴用するしかあるまい」
◇
「父さんは街道の木を切りにいくことになった」
父さんには”力持ち”の恩恵がある。力仕事があると声を掛けられるのだ。農閑期のアルバイトである。
「気を付けてねお父さん」とあかりがニッコリという。
「あ、うむ。ありがとう」なんか照れる父さん。そこ照れるところ?
あかりは家に居ついている。家の中に超美形のエルフがいるのは違和感ありまくりなのだが、なんかいろいろありすぎてこれが普通なのではという気になってきた。しかもいつのまにか僕の彼女ということになっている。
・・
そして数日、季節は冬に入ってきている。シャリの誕生日は過ぎたみたいだ。”みたい”というのは確定的な日付がはっきりしないからだけど。シャリに特に変わりはない。健康なままだし、恩恵も増えていない。とりあえず元気なのでよし。
この間までは収穫で忙しかったから冒険どころではなかったが、冬に入ると畑仕事はほとんどないのでみんな家から出ない。これはこれで冒険とか行きにくい。母さんとシャリとあかりは三人で内職をしている。内職としか言いようがない。藁を編んだり、羊毛からフェルト?みたいな布を作ったり。
「こういうの、恩恵持ってる人がパパッてやっちゃえばよくない?」
母さんが納品に出て行った後、あかりがつぶやく。
「”藁を編んで縄を作る恩恵”とかあったら一生それやらされそうだな」
そういえば僕の最新の恩恵は「投擲」だった。ゴブリンに石を投げてたからだな。
「恩恵といえば……」あかりが続ける「なんでお兄ちゃんレベル1のままなの?」
「経験が足りなかったんじゃないかな」
「じゃあ、なんでシャリちゃんレベル4になってるの?」
「ホブゴブリンが強かったんじゃないかな」
「うーん、そうかなー??」
いや別にあかりにも僕の恩恵を説明してもいいんだけどなんかタイミングを逃した。ちなみにシャリの”メイス使い”の恩恵は、藁をたたいて柔らかくするときにも発揮されている。
「お兄ちゃんのレベリングしないとダンジョン行けないよ」
「そうだけど外は寒くない?」
「私は寒くないよ」
「そんな格好ですごいね」
「女子高生だからね!」
あかりは耐寒の恩恵があるからいつも夏みたいな恰好をしている。具体的に言うとノースリーブでミニスカートのチュニックワンピース。何種類かあるけど今日のは脇が思いっきり開いてる。ブラを付けてないから目の毒だ。特に横から見た時がやばい。妹だからセーフだけど。
その時、母さんが走って戻ってきたのを気配察知した。扉がバタンと開く。
「伐採隊がゴブリンに襲われたって!」
◇
僕らは走って村長のところに行き事情を聴く。どうも伐採隊は村まであとすこしのところまで来てゴブリンに遭遇したらしい。怪我人が出て動けないので、一人が救援を求めてきたとのこと。とはいえ今の村には巡回の騎士は来ていない。誰が助けに行くかという話し合いになっている。
「行こう」僕らは目配せをして家に戻る。各自の武器を掴み家を出る。僕のは”槍(本番:2号)”だ。1号は折れちゃったから鍛冶屋の既製品を買った。
森の中、街道を一時間ほど走ると道の先になにかある。材木を積んだ荷車が斜めに止まっていてその前に牛が倒れている。荷車の陰でなにかがちらちら動いている。人みたいだ。
「お兄ちゃん、森の中!」
あかりが指さす。僕は気配察知を使う。やっぱり荷車の近くにいるのは人だな。森の中にゴブリンらしき気配がする。5,6、いやもっといる。多分10以上いる。だんだんと集まってきている。
「ゴブリンだ」
「どうするおにいちゃん?」
「集まる前にやっつける」
「危ないわよフィン」
「大丈夫だよ母さん」って、え?
なんで母さんついてきたの?
「えーっと」どうしよう。
まずゴブリンの数がわからない。もっと増えるかもしれない。そして要救助者の状況がわからない。母さんを保護しないといけない。そして他の人にばれないようにする必要がある。条件が厳しい。
まず、シャリに言って四人にプロテクションをかけさせる。その間、僕は道端の石を拾い集める。そして僕に「攻撃力付加」をかけてもらう。
「シャリ、母さんを見てて。あかり、遠距離攻撃だ」
「わかった、おにいちゃん」
「了解、兄ちゃん」
僕は投擲を開始する。
投擲の恩恵に攻撃力付加のコンボはすさまじく、命中したゴブリンは倒れるとかじゃなくて吹っ飛ぶ。こないだの投石の比ではない。しかも命中率がすさまじい。
「これが恩恵か……」
撃ち漏らしはあかりがマジックミサイルで仕留める。絶対に外れない魔法の矢がゴブリンを襲う
「母さん、父さんのところに僕の槍を持って行って」
「フィンは大丈夫なの?」
「僕は石を投げるから大丈夫」
母さんは僕の槍を持って荷車のところに走っていく。
「シャリ、行くぞ」声をかける。シャリはもう自分とあかりにも攻撃力付加をかけ終えている。
「いくよ、おにいちゃん!」
メイスを抱えてシャリが突っ込む。僕とあかりが追いかけて三角形の隊列を組む。
先頭のシャリがメイスを振り回し、ゴブリンを蹂躙する。僕にもレベルが加算されていく。僕の目の前にゴブリンが現れた。素手で殴りつける。攻撃力付加が加算されゴブリンの首が変な方向に曲がる。そのまま蹴り飛ばす。体の中から力が湧いてくる。レベル2だ!
「うぉーー」体に力が充満する。僕らはゴブリンの群れに突っ込み、そのまま蹴散らす。
◇
あらかたゴブリンはいなくなった。僕らは荷車のところに歩いていく。あかりは”隠密”で辺りを警戒中だ。
父さんは槍を持って丸太を背に地面に座っていた。腕と足ににけがをしているみたいだ。ちょっと顔色が白い。となりで母さんが心配そう。
「父さん、大丈夫?」
「フィン、それにシャリ。助けに来てくれたんだね」
「僕たちは石を投げて追い払っただけだよ。それより傷は大丈夫?」
「いや、大丈夫……」大丈夫じゃなさそう。そしてあと三人が倒れている。
シャリが僕を横目で見る。うーんどうしよう。ここでシャリが恩恵が使えるのがばれるのはまずい。
僕は母さんのところに行く。耳元でささやく。
「母さん、癒しの恩恵が欲しいと念じて」
「え?」
「いいから」
僕は母さんを抱きしめる。
なんかこっぱずかしいぞ。
「かあさん、無事だった!」ちょっと棒読みで叫ぶ。
「よかった!大好きだよ!かあさん」
母さんの口に僕の口を合わせる。欧米では挨拶みたいなもんだから。
『
母さんと僕の間にレベル回路が形成される。
『
「んえ、え、え、えええええええ、ぁ、ぁ、あん」
「癒しの恩恵を」耳元でささやく
「ん、えっと、癒しの恩恵を!」
赤い顔をしたまま、母さんはまず父さんに触れる。
「ヒール!」
父さんの傷が治っていく。何度見てもすごいなこれ。
それから母さんは倒れている人のところへと近寄る。みんな見てる。
「ヒール!」一人目が息を吹き返す。母さんは二人目に向かい「ヒール」とささやく。二人目の怪我人も息を吹き返した。そして三人目。
怪我人は全員回復した。母さんはみんなから畏怖と尊敬の目で見られている。その隙にこっそりとシャリが荷車を引いていた牛を回復させる。
荷崩れした丸太を父さんが”力持ち”で積みなおしているところに村から救援隊がきた。みんな手に鍬とか鎌を持っている。
母さんが僕の横に並ぶ
「あとで説明してね。フィン」
ですよねー。
――
フィン:レベル1(人間:転生者)
・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘(new)
シャリ:レベル4(人間)
・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い
あかり:レベル4(エルフ:転生者)
・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、隠密、耐寒
父:レベル2
・恩恵:力持ち、槍使い
母:レベル2(up)
・恩恵:水、癒し(new)
――
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