第12話 妖精
母さんに説明を求められて「一緒にゴブリンと戦ったからお母さんは恩恵を授かったんじゃないかな。ほら父さんも大猪と戦って恩恵を授かったわけだし」と苦しい説明をする。
「じゃあ、あれはなんなの?」
「あかりによるとエルフのあいさつらしいよ」
「何のあいさつ?」
「長寿と繁栄?みたいな?」
母さんはいまいち納得していないが、否定する根拠もない。
「あの時なんで癒しの恩恵だってわかったの?」
「恩恵は強く願ったら叶ったって父さんが言ってたよ」
「うーん、確かに私も水汲みが嫌で水の恩恵が欲しいって願ってたけど」
母さんの過去が明らかになる。
あれ以来、うちには毎日怪我人がやってくるようになった。
母さんは無料で応じる。でもみんな何かしら持ってくるのでうちは食生活が豊かになった。ちょっとした傷ぐらいなら回数制限はほぼないみたい。
「いや、やっぱり納得できなくない?」
「母さんは、疲れてるんだよ」
◇
「ていうか、私はまったく納得してないんだけど」とあかり。
ですよねー。そろそろ種明かしをしてもいいかもしれない。
とはいうものの、種明かしと言っても僕は今レベル1だし、やってみせるにしてもまずレベル2にならないと。ちょっとゴブリンでも狩ってくるか。
「今度説明するから、その前にレベル上げしようよ」
「どこ行くの?」
「うーん、いつもの所に行ってみようか」
晴れた冬の朝、食料を調達という名目で僕とあかりとシャリで森に向かう。森に行くというと母さんは心配そうだ。
「私、魔法使えるから大丈夫です」あかりが軽く応じる。
「うーん、彼女さんがいるから大丈夫か」
「まあ私、妹なんですけどね」
「おにいちゃん、シャリもいるよ」
はい、さっさと行くよ。
冬の森を歩く。動物たちの気配もない。冬眠してるのかもしれない。
「ゴブリンって冬眠しないのかな?」
「しないよ」と、あかり。
「なんで」
「妖精だもん」なるほど。わからない。
手には槍を持ち、ベルトポーチには小石をざらざらと入れてある。本当は鉛玉がいいんだけどなー。一応食料調達ということになってるので、できたら鹿かウサギでも持ち帰りたいところ。投擲スキルで鹿は狩れるだろうか。攻撃力付加すれば楽勝だけど鹿が粉砕される可能性もある。
父さんからもらったお古のコートを羽織る。ハーフコートなんだけど、なんかダブダブ。
森に入る。プロテクションしてもらい、妹達には隠れて見ててという。前に何度もゴブリンと戦った例の薬草ポイントに行く。ごろっとうつぶせに転がり顔を伏せる。気配察知を働かせる。
ゴブリンが出ない。
『前はこれで出たんだけどなあ……』ちょっと乱獲しすぎたかな。
うーん、どうしよう。
「なにしてるの?」
お、気配察知に反応。でもゴブリンじゃないな。もっと小さい。
僕は顔をあげる。そこには羽の生えた女の子が。身長は30㎝ぐらい。
「妖精じゃん!」
なるほど。妖精は冬眠しないのか。
「えっとね、ゴブリンを探してたんだよ」
「ゴブリンを探してどうするの?」
「いや、退治しようと思って」
「なんで?」
え?
「ゴブリンは人間を襲うから?」
「それは人間がゴブリンのテリトリーに入ってきたからでは?」
なんか環境保護主義者みたいなこと言い始めたぞ。
「君たちはゴブリンに困ってないの?」
「うーん、私たちもゴブリンも妖精仲間だしー」
話してて思うんだけど、アニメに出てくる妖精っていわゆるティンカーベルみたいな感じで10cmぐらいで光っててもっとふわっとしてるのに、この妖精は30cmと中途半端に大きいので妙にリアルなんだよね。光ってないし。生っぽくてフィギュア感ある。
「お兄ちゃん、なにしてるの?」
「あ、エルフだ」
「そうだよー」
「すごーい」
「いやーそれほどでも」
あかり、なんかコミュ力高くない?
「じゃあ、僕帰るから、そのエルフと話してて」
「じゃねー」
シャリのところに戻る。
「妖精がいた」
「おにいちゃん、ここでなにしてたの?」
「いまあかりが情報を聞き出してるから」
「いいけど。おにいちゃん、寒いよ」
僕はコートの中にシャリを入れて抱きしめる。シャリは「わかってるじゃん」という目で僕を見る。おにいちゃんだもん、わかるよそのぐらい。
30分ぐらいしてあかりが戻ってきた。
「どうだった?」
「あのサイズだとフィギュアっていうかガレキっぽいよね」
「そうじゃなくてゴブリン」
「どこかに集まってるみたい。王を迎えるとかなんとか」
「微妙に物騒な話だけど、どこなんだろう」
「固有名詞だからわからない」
うーん、困った。ゴブリンがいないとレベリングができないじゃないか。
「で、お兄ちゃん、説明っていつするの?」
えーと。
ゴブリン以外になんかいないかなとも思うけど僕はレベル1だから強すぎる相手も困るんだよな。そういえば僕たち食料調達に来たんだっけ。
帰り道はウサギを狩って帰った。あかりのマジックミサイル超便利。レベルは上がらなかった。
――
この話の挿絵はこちら
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652791548049
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます