第13話 剣

「先日の伐採隊への襲撃を最後にゴブリンの被害は出ておりません」

「そうか」

騎士団長の説明に、男爵はうなずく。今日は顔が明るい。

「やはり街道沿いを伐採したのがよかったのかな」

「そうかもしれません」

正直こんなことで可能性とか因果関係を考えても意味がない。まじないみたいなものだ。やってみて、そのあとよかったらそれをまたやってみるだけ。


「それと、面白いものが出てきました」

「なんだ」

「ムール村からです」

剣が持ってこられる。


「これは?」

「この作りは最近のものではないとのこと。古代ローヌ帝国のものとのことです」

「ふむ」

「遺跡からの出土かもしれません」

「遺跡とな」

「持ってきた鍛冶屋によると、ゴブリンが持っていたドロップを持ち込まれて買い取ったとのこと」

「つまり」

「森の中に古代ローヌ帝国の遺跡があって、そこにゴブリンが巣を作っているのかもしれません。そしてそこには」

「ローヌの財宝か」

「あるやもしれません」


 夢物語である。古代の財宝とか。しかし目の前にローヌ時代の剣がある。これはリアルだ。

「ゴブリンの巣を探せ、ケンプ」

「はい。お父様」



 このところ、領主の騎士の動きが活発だ。週に何度も村にやって来ている。


「フィン!」

村の中で呼び止められる。見ると、鍛冶屋のおじさんだ。

「鍛冶屋のおじさん!」

「フィン、この人がちょっと聞きたいって」

ん?

「ウェンさんじゃないですか。こんにちは」


「あ、フィンってお前か!どうだ元気でやってるか!」手を握られる。

「はい。お陰様で!こないだはゴブリンを退治しました!」

ウェンさんがうなずいている。

「ところで、ちょっとそこに連れて行ってくれないか?」

え、まあ。


 うちの前を通らないように村を出る。妹たちに見つかると話がややこしくなる。ウェンさんは騎士だが今は歩きだ。従卒2名もついてくる。


「えーっと、この辺から奥に入って……たぶんあっちの方に行って……」森っていうのは同じような景色なので正確な場所に行きたいといわれても正直わかんない。まあだいたいでいいだろ。


「この辺にゴブリンがいたんですよ」

「ふむ」

ウェンさんはじっと耳を澄ませる。僕も気配察知をしてみる。森の息遣いだ。ゴブリンとかいなさそう。

「あの剣はどこで」

「ここにいたゴブリンが持ってて、そいつからドロップしたんですよ」

「そうか……」

なにか考えてる。


「わかった。ありがとう坊主」

「あ、はい」

「槍の練習のほうはどうだ」

「父さんには褒められました」

「そうか。こんど見せてくれ」

「はい。こんど!」


 うっかり槍使いの恩恵とかバレると大変なので曖昧な会話をしつつ村に戻る。


「ただいまー」

「おにいちゃんちょっと出かけるってどこ行ってたの!」



「あの子供、何か隠してますね」

「まあ子供だからな。黙って森に入って怒られるとか思ったんだろう」

ウェンは気のない返事をする。


 ゴブリンがあんなに大きな剣を振るわけがない。

 握った手のひらを思い出す。

 子供とは思えない槍タコだったな。



 あかりを連れて村の中を案内する。美少女すぎて目立つので、というかエルフ自体が珍しすぎなので、僕のコートを着てフードをかぶってもらう。あかりのほうが背が高いからそれなりに着れている。


 前を元気に歩くあかりの後姿を眺める。ハーフコートがチュニックを隠してしまい直接白い生足が生えているように見える。太ももの白さにドキッとしてしまい慌てて目を下に逸らす。

 コートなのにサンダルなんだな。ちょっとほほえましい。くるぶしまで巻きあがっているデザインのサンダルだ。結んだ革ひもが揺れる上でふくらはぎが収縮する動きがちょっといい感じだ。膝の裏、ひかがみというんだけど、筋肉の両側にある少しくぼんだ所の動きも見飽きない。そして、もっと細いと思ってた白くて透明感のある太ももは後ろから見ると意外とぷりんと肉感があってそういえば足ってどこからがお尻なんだろうとかいつものチュニックもいいけどこういうのも隠されてる感がいいよね!みたいな!


「どうしたの?」

あかりがぴょんっと跳んで振り返る。僕は13歳だから!じろじろ見てないから!

「いや、寒くないかなと思って」

「こんなの寒いうちに入らないよ」

フードの少女はにっこりと微笑む。

「女子高生は生足が基本だからね!」

ひょっとしてそのために耐寒とったの?


 そうそう、こないだ確認するのを忘れていたことがあった。よく考える前に行動しちゃうのは僕の悪い癖だ。いや、生足のことじゃなくて。


「ところで、レベルってどこまであるの?」


 そう、これを確認してなかったのだ。あかりなら知ってるかもしれない。


「まあ普通にいる人は最大でもレベル4ね」

それは僕も知ってる。


「私もレベル4だからあかりちゃんすごいって褒めてくれていいんだよお兄ちゃん」

「あかりちゃんすごい」

「なのになんでシャリもレベル4なの。私がどれだけ苦労したと」

「あかりは大変だったねーわかるよー」

「ほんとにわかるの?」

「うんうん。わかるよ。お兄ちゃんだもん。あかりは努力したんだよねー。ほんとあかりはえらいよー」

「えへ」

この子ちょろい。


「それで、あかりはレベル5って見たことある?」

「いることはいるよ。エルフの長老とかもっと上だし」

いるのか。

「普通に生きてたらそんなにレベル上がらないけどね。レベル4だってトップ1%に入るための才能や運ももちろん必要だけど一番大事なのは日々の努力でこつこつと積み重ねてそれでようやく」

「あかりちゃんえらいね」

「それをあんなぽっと出の妹が」

まあレベル4が上限でないということがわかったので話題を変えよう。


 いや、もし上限があったら偉そうなこと言ってキスして何も起きなかった可能性があると気が付いたのだ。うまいこと言って妹にキスを迫る兄とか事案じゃない?


「あ、ほらあっちに煙が」遠くを指さす。

「なにかしら、森の中ね」まあどっちの方向も遠くは森なんだけどね。でも、あっちは僕らがホブゴブリンを倒したところの方角だな。

「なんだろう、焚火かな。でもすごい煙の量だな」

「森で火を使っているのを見ると私の中のコンプラがうずくの」

あかりさん、語彙が女子高生じゃなくて29歳OLじゃない?


――

あかりちゃん生足の挿絵はこちら

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652630659132

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