136 ラグナロック
世界には端があった。
「地球平面教徒が見たら泣いて喜びそう」
「世界っていうか、ダンジョンだし」
「下になんかいますね」
ダンジョンのこのフロアは世界樹を中心として直径が10kmほど。大きいといえば大きいけど、世界というほどではない。角度を計算すると世界樹の高さも5kmぐらいだろう。木にしては高いか。
そして、直径10kmの世界の端から下をのぞき込むと、そこには巨大な蛇の胴体があった。見渡すと、ぐるっと世界を取り巻いている。っていうことは一周で31.4kmだね。太さも100m以上ありそう。うろこがなかったら蛇に見えなかっただろう。
「これはヨルムンガンド?」
フロアを一周取り巻いているので縁に沿って歩いてみる。やがて巨大蛇の頭が見えてきた。それと尻尾も。つまりここが一周の始まりと終わり。
「これがシャリの言っていた竜かな?」
「わかんない」
ところでこんなの倒せるの?
「ミミズの時と同じ作戦でやってみましょう!」
メイが提案する。
「ミミズの時は350kgの爆薬を使いました。あれが太さ3mでヨルムンガルドの太さがざっと40倍。爆発のエネルギーは距離の二乗で減衰するから余裕を見てあの時の3000倍ぐらいの爆薬を用意すれば」
「そんなにいっぱい爆薬どこにあるの?」
「知ってます?核以外で人類が起こした爆発で一番大きいものは肥料の爆発なんですよ。2020年のベイルートの爆発は倉庫に積んであった硝酸アンモニウム肥料が原因でした」
「なにそれ」
「肥料ならいっぱいあります!」
・・
僕が土の恩恵で穴を堀り、そこからあかりとメイが転送ゲートでメイの本拠地、というか秘密基地に飛んだ。一時間ほどで二人が帰ってくると穴が白い肥料で埋まる。
「今回350トン持ってこれたから、あと2往復で合計1050トンの肥料を持ってこれます」
「まじで?350トンって35万キログラムだよね?」
「転送ゲートは体積基準で重さは関係ないんですよ。だって半径5mの球の体積は4/3π・r^3だから500立法メートルでしょ。水でも500トンですよ」
「意外と入るんだな」
「すでに硝酸アンモニウムには油を混ぜ込んでANFO火薬にしてあります」
「はあ」
「お兄ちゃん、次の穴掘って」
「はいはい」
・・
1050トンの爆薬を三カ所に分けて設置を完了した。それぞれ起爆用にメイの爆弾を埋めてある。
「あとはここにヨルムンガンドをトレインすれば……」
あかりをちらっと見る。
「私?」
「トレイン得意じゃない?」
「相手にされないかも」
それはそうかも。そもそもあの蛇が起きるのかどうか。
「まあいいや、僕がやるよ」
グングニールもあるしね。
最後にメイが聞いてくる
「作戦名はどうします?」
「もちろん、ラグナロック」
中二病心がうなる。
◇
「オペレーション・ラグナロック、開始します!」
メイの掛け声で作戦開始。まずグングニルをヨルムンガルドの頭に向かってぶん投げる!
グングニルは空中で加速し、衝撃波を伴って目標に命中。そしてひとりでに帰ってくる。
『さすがに、最強の槍だけのことはあるな』
合成用素材にしないでよかったよ。
ヨルムンガルドが身じろぎをした。大地が揺れる。
「もういっちょ!」
オーディンの槍が大地を取り巻く巨蛇の頭部に再度命中した。ヨルムンガルドが目を開く。
「ターゲットが起きた。第二段階準備」
ヨルムンガルドと目が合った。
『なんかヤバそう』
巨蛇はその大きさに似合わない速度で鎌首を持ち上げ、僕の方を向くと口を開く。
「
間一髪シャリの
「これは予想してなかった展開だな、いやドラゴンならブレスもするか」
「おにいちゃん大丈夫?」
「大丈夫だよ。おにいちゃんだから」
シャリに軽く答える。
「あかりはみんなを連れて出口まで下がって。僕はトレインをするから」
「気をつけてお兄ちゃん」
「大丈夫だよ」
「フィン!」
メイが僕の名前を呼んだ。
「死なないでね」
軽く頷く。
「第二段階、開始!」
三人があかりの転移魔法で消える。そしてシャリの
マントを羽ばたかせ、空中に浮く。
「来いよ!蛇野郎!」
・・
ヨルムンガルドは真っ直ぐやって来るのでトレイン自体は難しくない。ブレスさえなければ。
問題は、ブレスを避けるとトレインがずれるのだ。真っ直ぐ下がる以外で避けられない。縮地を使うが回数にも限度がある。すでに何回かブレスの毒気を浴びている。毒無効の恩恵がなかったら死んでいたかも。もっとも毒が効かないと言ってもダメージは受けているわけだけど。
(・・ おにいちゃん左にずれてる。右に修正15m ・・)
「( 了解。シャリ )」
シャリから連絡が入るたびに逃げる方向を細かく修正。
(・・ おにいちゃんあと500m ・・)
そろそろか。
疾走の恩恵を使って全速力で逃げる。ヨルムンガンドが首を伸ばしてくると、その頭部はものすごい勢いで迫ってくる。横幅100mを超える頭だ。ちょっとした山ぐらいある。それが口を開けて覆いかぶさってきて……
「おにいちゃん!」
シャリを肉眼で確認。もう100mもない。
『縮地!』
シャリの足元に倒れこんだ。
「お帰り、お兄ちゃん」
シャリは黙って僕を抱きしめる。
「それじゃ行きますよ」
四人でヨルムンガルドに向き合う。
「3,2,1」あかりがカウントをする。
「ゼロ!」
「イグニッション!」
「
空気はバリアが遮断しているものの、地を揺する轟音が地面を通して聞こえてくる。
「やったか!?」
――
挿絵は爆薬を準備するあかりちゃんとメイちゃん
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330654224244870
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