妹ダン〜転生チートで妹にレベル譲渡してダンジョンを攻略します!
やまもりやもり🦎カクヨムコン乙です
第一章 レベルの恩恵
第1話 転生したこの世界
この世界の子供は、13歳のあたりで恩恵を授かって大人になる。
「この世界は」というのは、つまりは僕はこの世界の人ではない。それが判ったのはつい先週、つまり13歳にして恩恵を認識した時だ。
その日の朝起きて気が付いたのは家族の頭の上に変なものが見えること。普通に見ていても見えないのだが、目をそらした瞬間に見える。棒というか、バーのようなもの。RPGのキャラクターのライフゲージみたいな感じ。
そのとき、僕はいろいろなものを思い出したのだ。
僕は日本の大学生だったはずだ。気が付いたらここにいた。RPGの中みたいな村の子供として。子供の名前はフィンだ。
「おにいちゃん、おはよう」
昨日はずっと寝込んでいた妹のシャリがふわふわっと寝室から出てきた。金髪で細くて色が白くて妖精のような11歳の女の子。神が自分の趣味で作ってしまったような美少女。体が弱くて毎日半分ぐらい寝ている。今日はちょっと調子がいいのかなな。
シャリは隣の椅子に座って僕を見る。水差しから陶器のカップに水を注ぎ、シャリに渡す。ちょっと首を傾けて水を飲む姿は天使のよう。視線を動かすと頭の上に例のバーがほんのちょっとだけ浮かんで見える。
やっぱりこの世界での今までのことは記憶にあるな。シャリのことも覚えている。
この世界は、というか子供のフィンとして知っているのはこの村だけなんだけど、RPG的ないわゆるヨーロッパ中世テイストだった。
本当にヨーロッパ中世がこういう感じだったのかはよく知らないけど、村があって畑があって森があって森の奥にはなんか魔物がいるらしくて、森から魔物が出てこないか領主の兵士が剣を持って巡回している。なんかそういうやつ。
そして僕。日本人だった自分とは違う感じの西洋人っぽい子供。目と髪が砂色だが村の中にもそういう人はいるのでそんなに特異ではない。父さんも同じ感じだし。母さんは茶色の髪で茶色の瞳だけど。まあ家に鏡はないので自分のことをよく見たことはないんだけどね。
◇
この世界の大人は皆なにかしらの”恩恵”という名の特殊能力を持っている。”力が強い”とか”走るのが早い”とか”剣技”みたいなスキルっぽいものもあれば”手から火が出る”みたいな魔法そのもの?もある。というか大人とは恩恵を持った14歳以上のことなのだ。
どうも僕の授かった恩恵はこの”人の頭の上にバーが見える”らしかった。転生に気がついた時は真っ先に「ステータスオープン」は唱えてみたがメニューも出ないし説明も聞こえない。この世界は不親切だ。
ちなみに、僕の父さんは力持ちの恩恵を持っていて人の一人ぐらい軽々と持ち上げられる。母さんは水の恩恵を持っていて水を作り出せる。普通の家では水汲みは子供の仕事なんだけどうちは免除だ。
僕の恩恵のことは両親にはまだ伝えていない。このところ「いい恩恵が授かるといいな」と優しく言ってくれる父さんに「なんか線が見えるだけ」とはちょっと言いにくかった。でもずっと黙っているわけにもいかない。
この世界で記憶を取り戻してから一週間ほど、僕は村の中をうろうろして、村中の人、といっても300人ぐらいだが、の頭の上を見て回った結果、自分の恩恵についてある程度見当がついた。
「これはレベルゲージなのでは」
◇
村中の人を見て回った結果、全ての人の頭上にバーが見えた。長さも本数もまちまちだけど、子供はみな一本に満たない長さだ。とりあえずレベル0と名づけた。
大人になると、つまり恩恵を授かる年ごろからは一本目のバーが埋まり二本目が伸びてくる。この人たちはレベル1だ。村の中の若い大人たちはレベル1が多い。僕の父さんや母さんもそのへん。僕もここ。
そして大人のうち3割ぐらいの人は二本目も埋まっている。つまりレベル2。三本目も埋まっているレベル3は1割ぐらい。かなり強そうな人たちばかり。そしてレベル4なのは村の警備に領主のところから時々やってくる騎士の人たちだけだった。
このレベル、歳と共にずっと増えていくのかというとそうでもないみたい。中年から老人になるとだんだんレベルが下がってくるようで近所のおじいちゃんはレベル1だな。
隣にいる妹の頭の上をそっと見る。そこに浮かぶバーは極端に短い。他の11歳ぐらいの子供はだいたいレベル1にあとちょっとぐらいなのに、シャリはレベルにすると0.2ぐらい。なんか見た目的にも元気がないというか、こんなにも美少女なのに存在感自体がない。透明感がある美少女というよりもうっかりすると透き通りそうという感じだ。
隣の椅子に座ってコクコクと水を飲んでいたシャリの頭をなでる。シャリは気持ちよさそうに目を閉じる。金髪が手の中でさらさらと泳ぐ。本当に天使だ。ずっと髪をなでていたいが、妹の調子がいいうちになにか食べさせる物を買ってこよう。
「ちょっと出かけてくるから」
「気を付けてね、おにいちゃん」
◇
家から出る。僕の家は農村の中にある普通の農家だ。木造の小さな家。土間と繋がった居室、そして寝室が一つ。あとは裏庭で耕作用の牛と羊と鶏を飼っている。
食べ物を買いに行くと言っても村の13歳の子供が現金を持っているわけではない。まず村はずれに住む薬草のおばあちゃんのところに行く。
「おばあちゃん、今日はお使いないですか?」
そう、クエストだ。このおばあちゃんに薬草を持っていくと小銭をくれる。それを使えばパンとか果物を買うことができるのだ。子供の知恵だ。なおこのおばあちゃんはレベル2。
「ああ、フィンか。そうそう、あの妹の調子はどうじゃね?」
「今日はいいみたい。だから食べ物を買ってこようかと思って」
「そうかそうか。そういえばわしも子供のころは体が弱くていろいろと大変だったもんじゃがあのころはわしもかわいくてみんなから天使と」
「それでお使いはないの!?」
「ふむー。では体を強くするこの葉っぱを枝ごと持ってきてくれ。あんまり森の奥に行くんじゃないぞ。ゴブリンが出るじゃて」
「わかった。大丈夫!」
僕は見本の葉っぱを持つと、父さんにもらったナイフが小袋にはいっていることを確認して出発する。
村の外に広がる畑にはジャガイモと小麦と牧草が生えている。ジャガイモがあるということは少なくとも本物の中世ヨーロッパではないし、残念ながらジャガイモチートはできない。
畑を過ぎて森に入る。おばあちゃんによるとこの薬草は日陰に生えるらしい。木の陰を探す。フィンとしての知識によると前にも見つけたことがあるので、生えてそうな場所はなんとなくわかる。1時間ぐらい探すとたぶんそれだろうという草があった。ナイフで枝ごと切り取り丸めて小袋にいれる。
「さて、帰ろう」
顔をあげたところで、僕の前に緑の小鬼がいた。
「うわーーーーーーぁ」
びっくりして大声を出す僕。そして目の前で大声を出されてびっくりしている緑の小鬼。
体高は1mもない人型の生き物。手に木の枝?こん棒?を持っている。僕のファンタジー知識によるとゴブリンだ。さっき薬草のおばあちゃんも言ってたな。そうか、本当にいるんだ。
このゴブリンは大型犬ぐらいある。大型犬とか、実際目の前にするとまじ怖いから。それが武器持って迫ってくるわけでそんなの無理だ。
僕はくるっと振り返ると猛ダッシュして逃げる。やばい。こんなの逃げるしかないだろ。とにかく森から出ないと。焦って走る。足がもつれそうになる。僕は木の根に足を取られて転倒した。手から飛んでいったナイフに這い寄って拾い上げる。周りを見渡す。
ゴブリンはいなかった。
走って森を出て村に戻る。薬草のおばあちゃんのところに行く。小袋を開ける。
「これ(ハアハア)言ってた薬草だよね(ハアハア)」
「おおそうじゃな。ところでどうした泥だらけで擦りむいて。ゴブリンでも出たか?」
「それ!ゴブリン!もう死ぬかと!」
「何匹出た?」
「一匹」
「そうか。そりゃびっくりしたな。一匹なら落ち着けば人より弱いから大丈夫じゃて。臆病だから脅かせば逃げていくじゃて」
「そういえば大声を出したらいなくなってた」
「じゃが気を付けるんじゃぞ。何匹もいたらやられちまうこともある。仲間を呼ぶこともあるじゃてな」
「わかったからおばあちゃん、今日はもう帰る」
「ふむ、これお駄賃じゃ。あとこれも妹に持っていきな」
僕はその後パンとリンゴを買って家に帰った。シャリはおいしそうに食べてくれたが、あちこち擦りむいた僕の様子を見て心配そうではあった。
「おにいちゃん、シャリが恩恵を授かったらこんな傷はすぐ治しちゃうからね」
「うん。ありがとう、シャリ」
僕はお湯を沸かし、もらった強壮剤の薬草茶を入れる。
「体にいいお茶だから飲みな」
コクコクとお茶を飲むシャリ。僕はその金色の髪をゆっくりとなでる。
「シャリはおにいちゃんと冒険がしたいの。おにいちゃんが魔物をやっつけて、シャリは魔法で傷を治したりしておにいちゃんを助けるの。それからね……」
ちょっと調子が良くなったシャリはよくしゃべる。僕はシャリの頭を抱き寄せ、頭の上に見える短いバーを見ないように目をつぶる。
「おにいちゃんはね、シャリが守るんだよ……」妹は楽しそうに話している。
――
こちら挿絵です「おにいちゃん、おはよう」
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652376554644
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