第二部第八章 夢を編むもの

75 既視感

「おにいちゃんとあかりおねえちゃんレベルアップおめでとう!」

「おめでとうございます!」

「私はまだレベル戻ってないんだけど」

「めでたい席なんだからそういうこと言わない」


 シャリがケーキを取り分けてくれた。僕には二個。

「おにいちゃんのお祝いは二回分だよね」

「もう何回目のレベル3なんだろう」

「おにいちゃんの今度の恩恵はなんなの?」

「盾だよ」

「いまさら?」

ケーキをくわえたままあかりが聞いてくる。

「近接用の防御を強化しようかと」

ていうか誤魔化して使ってるけどスコップは武器でも防具でもないんだよ。いまさらだけど。



 前回のダンジョンで、オークのボスが落とした輪っか。どうやらチャクラムだ。インドの円形投げナイフ。


「メイが使えるんじゃないかな?」

「こんなの使い方知りませんよ」

と言いながら投げるとちゃんと飛ぶ。恩恵の”投げナイフ”の範疇に入っているみたいだ。しかも。

「戻ってきた!」

だからといって避けないで。危ないから。ちゃんとキャッチして!


 一方、コボルドロードのお宝はアダマンタイトらしい金属。10kg以上ある。やたらに硬い。やすりで削っているとやすりのほうが削れた。どうやって加工するんだ。

 と、普通は思うがメイには形状加工の恩恵がある。薄く伸ばして、左腕に嵌める小さい盾を作ってもらった。いわゆるバックラーだ。


「薄くしても硬いから軽く作れるかも」

とのことなので、シャリの胸当て、メイの腰鎧、僕の小手と脛当てと作った。あかりが「やっぱり鎧もいるかなー」とか言ってる。よっぽどアンデッドが嫌だったんだな。


「だったらビキニアーマーで。あかりちゃんなら似合うと思う」

メイが言ってる。

「私そういうキャラじゃないのよ!」

検討の結果ブレイサーになった。弓使い用の小手だね。エルフっぽくていいんじゃないかな。あかりは弓使わないけどね。



「今回のダンジョンと教会のダンジョン、同じ感じだったって言ってたよね」

「そうね。構造も出る魔物も」

なんか気になるな。


「上の塔も見た感じ同じだし双子のダンジョンなのかな」

「そうだとすると三階は、あれかも」

あかりはよっぽど幽霊が苦手なんだな。


「怖い?」

「うーん。怖いけど……お兄ちゃんがいれば大丈夫かな」

「そんな頼りになる?」

「レベル下がっても上げてくれるし」

そこですかー。

「シャリはおにいちゃん頼りにしてるよ」


 教会と言えば、ちょっと気になったことを思い出した。自分に隠ぺいをかけてあかりに聞いてみる。


「ところで今、僕が転生者であることわかる?」

あかりが鑑定を使うと頭にチリチリとした感触。

「うーん、わからないわね」

そこでメイに確認する。

「メイはこの間の司教には前も会ったことあるんだよね」

「妖精の子の件で父に何度か連れていかれたことがあります」

なるほど。


「なんの話?」

あかりが聞いてくる。

「前に転生者だったのに、今日会ったら転生者じゃなくなってたら変だと思うよね」

会見の様子を思い出してみる。


「でもまあそれを仄めかしてきてるんだから敵対的ではないのかな」

「探りを入れてきた?」

「そうかも」大人は面倒くさいな。



 そしてまたメイの両親には内緒でダンジョンに行く。僕たちは装備をアイテム化してるので出るときは手ぶらなのだ。日帰りだからもともと装備も少ないしね。まさかニットのワンピースでダンジョン行ってるとは思わないだろう。


 この王都ダンジョン、入場料が結構高いので宝箱がないと赤字なのだ。そして一階のボスはなんと空だった。リポップ待ちたくないのでさっさと二階に行く。


 僕がレベル3になったためか装備がよくなったためか、二階のオークはさくさく倒しながら進める。ぜんぜんレベル上がらないけど。

「ボス部屋よ」

攻撃力付与はとりあえず僕にする。シャリとメイが並んで扉を蹴り開ける。


「マジックストーム!」

あかりが扉が開ききる前から呪文をぶち込んだ。部屋の中に光の刃が飛び交う。オークたちが切り刻まれていく。今回はオーガがいない。


 あかりの魔法が終わると、甲冑姿が一体残っている。前回とは違うパターン。オークロードとかそういう感じかな?

「い、き、まーす!」

僕はスコップ!を構える。


『縮地!』


スコップ!が甲冑に激突すると盾を吹き飛ばした。僕はスコップを捨て、槍を2mまで伸ばす。相手の甲冑も剣を抜いた。

「勝負だ!」


 僕とオークロード?の戦いだけど、開始数分後、メイが投げたチャクラムが甲冑の首を飛ばして終了。

「その武器ってクリティカルは即死なのね」

とあかりが興味深げ。この世界はボスにも即死攻撃って効くのか。かなり凶悪だな。


 宝箱だけど、トラップは僕が解除して開ける。やっぱり金貨。ボスからはたき飛ばした盾もドロップになったけど魔法の品ではなかったのが残念。



 そして僕らは三階に足を踏み入れた。壁の様子は二階とあまり変わらないっていうか僕らの行くダンジョンってどこも似た感じだな。今のところラノベみたいな草原とか海とかの階はない。


 緊張してたんだけど、この階最初の遭遇はオークだった。


 メイがオークの群れにチャクラムをぶん投げたところに僕とシャリが突っ込んで殲滅する。楽勝すぎてレベルが上がる気がしない。


「さっさと先に行こうよ」

「なんか見たことあるダンジョンよね」

「教会のダンジョン?」

「うーん、もっと前に」


 通路を抜けて大きな広間に出た。幅は100m以上あるかも。奥行きは見通せない。慎重に奥に向かう。

「シャリも見覚えがある」

そういえば。僕も。

 大きな足音が近づいてくる。取り囲む様にやってくる大きな影。それも四体。


「オーガだ!」


 オーガは今の僕らにとってはそこまで強い相手ではないが、囲まれると面倒だ。

「右に行くぞ」

各個撃破を目指す。まずは一体。囲まれないように。増援が来ると困る。


 さっき拾った盾でオーガの攻撃をかわしながら槍で足を刺す。後ろから来るオーガが気になるが、三人が何とかしてくれるだろう。戦っていると、既に切れていた攻撃力付与が復活した。ありがとうシャリ。槍は片手で扱っているがダメージは出ている。


 僕が一体のオーガを倒した頃、あかりのマジックミサイルとメイのダーツとチャクラムがもう一体を倒した。そして一体はシャリのメイスで麻痺している。一番遠かった一体が遅れてやって来るが、あかりはそのさらに奥を見ている。


「奥に追加が来てるわ」


 あかりが詠唱をスタートする。詠唱破棄だとかなり威力は下がるみたいだから今回はフルバージョンで行くようだ。僕は遅れてきたオーガに接敵する。

「おにいちゃん!」

僕がオーガと戦っているところにシャリが増援に来た。ちょこまか動いては足回りを攻撃してくるシャリに翻弄されるオーガ。その顔めがけてダーツが飛ぶ。隙だらけになったオーガの心臓を思いっきり槍で突く。目の前のオーガは崩れるように倒れる。


 一方、追加としてやって来たのは六体のオーガ。あかりは間に合うか。

 ていうか、なんかこのパターンは見覚えがある……


 ここはウェンさんの夢と同じ場所だ!


 そしてオーガの群れにあかりの呪文が炸裂。

「マジックボム!」

白いエネルギーの光が広がりオーガを包む。まず衝撃波、遅れて爆風がやってくる。


 ドガーン!!


 爆心に近かった二体は倒れて動かない。残りの四体もかなりダメージを受けている様子。


「右のやつ、行きまーす!」

そう叫ぶと盾を捨て槍をランスサイズまで目いっぱい伸ばして両手で構える。

『縮地!』

オーガの直前に瞬間移動。槍が突き刺さりオーガの腹に大穴が開く。


 僕が更にもう一体を倒したころ、三人が残り二体のオーガを倒した。


「ここってウェンさんが昔行ったダンジョンなのかな」

「そんな感じよね」

「ここまで同じ感じだと、この先も同じかな」


――

あかりちゃんマジックボムをぶっ放す挿絵

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652824200878

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