74 オーク
「あかり、それでなんだけどアンデッドって何?」
あかりは変な顔をする。
「死者よ。ゾンビとか幽霊とか」
「ああ、そういうのね」
「意外と常識ないわね」
常識なのそれ。
「一般的には、スケルトンやゾンビみたいな動く死体か、グールみたいな餓鬼、あとは幽霊とかミイラとか吸血鬼とか」
「レベルを吸われるのってどれ?」
「あのダンジョンにいたのは幽霊よ」
「幽霊って倒せるの?」
「魔法か、魔法の武器なら」
「うーん。やっかいだな。でも」
考え込んでいた僕は顔を上げた。
「謎は全部解けた」
「何の謎?」
「教会の司教が恩恵をいっぱい持っている件」
「それって」
「そう。レベルを吸わせてるんだと思う」
「わざわざレベル下げるとかそんな気持ち悪いことするの?」
「微妙に僕がディスられてない?」
「お兄ちゃんは人助けでしょ。でもそうだとするとすごいわね」
「どの辺がすごいんですか?」
メイがあかりに聞く。
「だってレベル4から下がったら戻すだけで大変よ。そうなると高くてもレベル3、下手するとレベル2からレベル吸わせてるかも」
「すると?」
「うっかりレベル0になると死んじゃうし、自分も幽霊になっちゃうのよ」
「えー」
「常識よ」
そうなんだ。
◇
そんなこんなで、僕らは今王都ダンジョンにいる。とりあえず僕のレベリングをすることになったのだ。ごめんね僕だけレベル2で。
隠ぺいの数が足りないので入口でお金払ってるうちに後ろで掛け直したりちょっとバタバタしたが全員レベル1という事にしておいた。その方が安いからね。
「もう、うざったいわねえ」
地下一階。さっきから大ネズミやら巨大コウモリやらが出てくる。弱いんだけどいちいち絡んでくるので鬱陶しい。あとスライム。べちょっとくっついてはがすのに一苦労。ただ僕のクリーンの恩恵が使えるのでまだマシだったけど。
そして現れる両開きの大きい扉。
「ボス部屋よ」
胸を張るあかり。それは毎回やるんだね。
今日のあかりはいつものチュニック、と思ったら微妙に刺繍が入ってるし縁もレースで手が込んでいる。
「今日のチュニックはかわいいね」
いまさらだけどとりあえず褒める。
「いまさらね」
といいながらまんざらでもなさそう。
「じゃあ行こうか!」
と振り返ると、シャリとメイがジト目で見ている。なんか言いたそう。
「みんなかわいいよ」
ジト目のままだ。
「シャリもメイもかわいいよ」
なんかめんどくさいな。
ちなみにメイはぴたっとしたニットのミニワンピースだ。さすがに地元では水着で歩き回らないんだなと思ったけど、露出はないもののやたらに体の線が出て正直ビキニアーマーより目の毒かも。太腿にはガーターリングを巻いてダーツを装備している。シャリはワンピースだが白なのでラノベっぽい。
ところでもうボス行っていい?一階なので雑に開けるよ。
ボス部屋にいたのは犬頭の魔物だった。地元のダンジョンにいたやつじゃないな。トロールよりでかいがひょろっとした感じではない。
「コボルドロードよ」
あ、それ有名なラノベで見た。そして取り巻きもコボルド。多分センチネルとかそういうのだな。
『いくぞー!』と思ったら、あかりが皆を手で制する。そしてその手を前にして一言。
「マジックボム!」
ボスを中心に白い光の塊が発生した。純粋なエネルギーの塊が膨れ上がりコボルド達を飲み込む。
ドガーン!
爆風が吹き抜ける。残ったのはボスのみ。いま詠唱なかったよね?
シャリが走っていく。僕も縮地で突っ込もうかと思ったけどレベル2なので自重して走る。メイが僕の後ろから投げるダーツが僕を追い抜き曲線軌道でボスに吸い込まれていく。
シャリがメイスでボスの足元を攻撃する。ボスの刀がシャリを追うがシャリは素早くかわすと後ろに回り込みさらに一撃。
ボスの気が後ろに回ったところで走りこみながら槍を伸ばす。思いっきり背中に突き立てる。
「グウォー!」
ボスが上を向いて吠えた。その隙に槍をグサグサと連続でヒットさせる。ボスが振り返り刀をこっちに振りかざす。
「スコップ!」
スコップを実体化して刀を受け、耐えたところでそのまま顔めがけて投擲。スコップが命中してのけぞった喉めがけて槍をぶん投げた。槍使いの恩恵に投擲も重なって大きなダメージを与える。そこに後ろからシャリがぼこぼこにぶん殴る。
コボルドロードはそのまま倒れた。煙になって消える。
そして宝箱があった。罠はない。金貨と、あと金属の塊。ずっしりと重たい。10kg以上ある。
「なにこれ?」
あかりが鑑定する。
「硬くて強い金属ね。いわゆるアダマンタイトかな」
「へー」
「コボルドは鉱山の妖精なのよ」
今回はレベルは上がらなかった。とどめを刺したのはシャリだったみたい。最近は縮地に頼ってばかりだったけど一撃で倒せないと危ないんだよねあれ。
・・
物足りなかったので二階も行くことになった。出来れば僕のレベルを上げたいんだけど。
二階はオークの階だ。いわゆる豚顔の人型。ラノベによくいるやつ。鎧を着て剣や槍を持っている。
「オークって妖精?」
「違うわ」
あかりは即答だけどその辺の違いってどこにあるんだろう。
ちなみにオークは食べられないらしい。というか人型だし食べる気にならないんだけど。なんぜラノベだとオークって食用なんだろうね。
そしてオークはゴブリンよりは強いがバグベアほどではない。倒してもあまりレベルが上がる様子がない。
歩きながらあかりに教会ダンジョンの話を聞く。あかりが行ったときは一階二階ともボスがいなかったのでつい三階まで行ってしまったとのこと。ちょうど誰かが倒した後だったらしい。様子を聞くと、ダンジョンの構造も壁の感じも出る魔物もこことほぼ同じだったそうだ。
「ボス部屋よ」
あかりが胸を張って宣言。今日はこれが最後ということでプロテクションも攻撃力付与もてんこ盛りで突入。
扉の中にいたのは、二体のオーガ。そしてオークの弓兵。その向こうに多分ボスのオークの王か何かがいるんだろう。わりと豪華編成だな。
あかりが手を伸ばして構える。
「マジックストーム!」
詠唱無しの魔法攻撃。魔法の刃が空間を飛び交い白い光がオークやオーガに切りつける。そしてそれが終わるや否や。
「マジックボム!」
あかりが連続で攻撃魔法。部屋の奥に純粋なエネルギーの光の塊が発生する。白い光が魔物たちを包み込みその姿は影となって消える。そして衝撃波。
ドガーン。
ボス部屋にはオークの死体が散乱し、二体いたオーガも部屋の両側に転がっている。オークの王みたいなのはまだいるが他は全滅だ。
例によってシャリが突っ込んで行き、その上をメイのダーツが曲線を描いて飛んでいく。オークボスはなにか丸い輪のようなものを持っている。
僕はスコップ!を実体化して構える。シャリがたどり着く寸前を狙う。
『3、2、1、縮地!』
ボスの直前に瞬間移動するとスコップ!をめり込ませた。ボスが投げようとした輪が転がる。
のけぞったボスにシャリが殴り掛かった。僕は槍を伸ばしてついでに炎をまとわせるとボスの胸に思いっきり突き刺し捻る。心臓のあたりをえぐるように。そして僕の体の奥から湧き上がるレベルアップの感触。
オークボスは煙となって消えた。
「レベルアップー!」
「おにいちゃん、ナイス!」
「宝箱ね」
あかりは冷静だな。
宝箱にはトラップがかかっている。酸が飛び散るみたいだ。慎重に解除する。こういうメカニカルなトラップはわかるけど魔法の仕掛けだったら判らないよな。
中身は金貨だけだったけど、ボスが持っていた丸い輪もドロップアイテムになったので持って帰る。今回のダンジョンはレベルも上がったし実入りが多かったな。
――
フィン:レベル3(up)(人間:転生者)
・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎、クリーン、テイム(妖精)、言語理解、耐熱、隠ぺい、盾術(new)
シャリ:レベル5(人間)
・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術
あかり:レベル5(エルフ:転生者)
・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング、詠唱破棄
メイ:レベル5(人間:転生者)
・恩恵:衣装製作、アイテム化、投げナイフ/ダーツ使い、エンチャント、形状加工
――
次回より新章「夢を編むもの」
――
挿絵はメイちゃんニットのワンピでダンジョンへ
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652824036413
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