第二部第二章 ダンジョンの罠

45 三階の話

 カフェ癒し屋の前の路上。要するにうちの前。カフェというのは正しくないな。茶店。

 木でできた椅子と机がばらばらと置いてあり、冒険者風の三人組の男たちがお茶を飲んでいる。近所の子供がお茶菓子を売りに来ている。なんか経済が回ってる感あるな。なんだっけ、トリクルダウン?


 見慣れた気配を察知。ウェンさんがやって来た。

「やあ、フィン」

「どうも。ウェンさん」

「あの二人はいないのかい」

「どうやら姉妹会議みたいですよ」

「ふーん」

「なんか用ですか?」

一応聞いてみる。

「いやお茶でもと」

「じゃあ持ってきます」


 茶店からお湯とお茶を持ってくる。ついでに自分の分も入れる。ウェンさんが銅貨を机に置くので受け取っておく。

「ところでダンジョンはどうだい」

本題かな。


「二階のボスは倒しましたよ」

「そうみたいだな」

一応、ダンジョンを出るときに毎回どこまで行ったかは報告している。


「全般的に前の時ほど強くはないですね」

「あの時はなんというか、溜まってたんだろうな」

なんか詰まった下水みたいだな。


 騎士は辺りを見渡す。

「おかげでこの村の景気も良くなったよ」

「そうですね」

以前はそもそも現金が流通すること自体が少なかったぐらいだ。税は物納だしね。


「三階はもう見たか?」

「いや、まだですけど。何がいるんですか」

「君たちがフロントランナーだから」

「でも僕らの後に一応行ったんでしょ」

僕らがダンジョンに行ったのは先週だ。


「下見だけな」

「で、何がいました?」

騎士は肩をすくめる。

「トロールがいるから注意した方がいい」

僕はうっとなった。トロールにはあまりいい思い出がない。というか記憶はないが悪い思い出があったらしい。


「トロールだけですか?」

「うーん、それとな」

騎士は僕の顔を見る。


「知らない犬頭のやつがいたんだが、何か知らんか?」

「そういうのはあか……じゃなくて姉のほうが」

「そうか見てないか」

「強いんですか?そいつ」

「わからん」

騎士は答える。


「ただ、トロールを連れていたのはそいつらだ」

「よくわかんないけど僕たち結構強いから大丈夫ですよ」

ちょっとフラグっぽい発言かな。


「タピオカティーちょうだい」

レイラさんの声がした。見るとさっきの三人組と合流している。どうやらパーティメンバーみたいだ。

「今行きまーす」

騎士に話の礼をしてから席を立つ。仕事しないとね。大人だし。



 夜。例によって寝室に五人で並んで寝る。僕は左右をシャリとあかりに挟まれて、左を向いて横向きに寝ている。

 目の前にはシャリがいて僕に抱きついている。どうもあかりのレベルが先に上がったから寝る時はシャリが優先という合意があるらしい。相変わらずそこに僕の意志はないんだけど。


 目の前のシャリの寝顔は安らかで本当に天使のようだ。僕はそっとキスをする。


(・・ そのままです。おにいちゃん ・・)

シャリのチョーカーから僕の頭に直接声が聞こえる。僕はシャリの唇に唇を合わせたままで動きを止める。僕の右手はシャリを軽く抱きしめていてちょうどその小さなお尻の上にある。


(・・ はいなら一回、いいえなら二回ですよ ・・)

尻を一回揉む。

(・・ あんなにおねえちゃんとキスしてたんだからシャリにも同じぐらいしてもらいますよ ・・)

いや、ここで妹とあんなにやったら事案じゃないですか?隣で両親寝てるんですけど。

(・・ おにいちゃん、返事がないよ ・・)

もみ。


「寝ちゃった?」

後ろから声がする。いやいや、どう見ても寝てなくないこの状況?


 ムニュムニュ。


 この背中の感触はあかりの胸が当たっている時のそれ。そしてあかりの手が右脇から侵入し、僕がシャリと抱き合っている間に入ってくる。手のひらでゆっくりと右胸を撫でられる。


「寝てるかな」

いや、寝てるわけなくない?わざとやってません?


 しかし僕の口はシャリの唇で塞がれていて喋ることができない。


「レベル6にしてくれてありがとう」

耳元であかりが囁く。

「やっぱりお兄ちゃんは私を選んでくれたのね」

(・・ おにいちゃんはあかりおねえちゃんを選んだの? ・・)

とりあえず二回揉む。ていうか僕が選んだんじゃないよね。


「やっぱり私が頑張ってるの見ててくれたのね」

(・・ やっぱりシャリがよその子だから? ・・)

えっと、二回揉む。


「でも本当はお兄ちゃんシャリの方が好きなんでしょう?」

(・・ それじゃおにいちゃんはシャリを妹としてしか見てくれないの? ・・)

だんだん混乱してきた。僕が返答に困っていると、シャリが舌で僕の唇を舐めてきた。薄い舌が僕の舌先に触れる。

 えっと否定しとけばいいのかな。二回?


 また耳元で囁かれる。

「本当は日本には帰りたくないんでしょ」

(・・ お兄ちゃん本当は帰りたいんでしょ ・・)

えっと、どっちだ。

モミモミ?


 耳たぶをぺろっと舐められた。反応しないように耐える。耳元でクスクスっと笑う。


「嘘つきさんなんだから」

(・・ シャリを置いて行くとかないよね ・・)

えっと。

モミ?


「私はどっちでもいいのよ。お兄ちゃんと一緒なら」

(・・ シャリもずっと一緒にいるよ ・・)

モミ。


「寝ちゃった?」

モミ。



「犬頭?」

あかりが聞き返す。昨日の夜忙しくて言うの忘れてた。

「トロールを連れてたんだって」

「ふーん」

あかりは考え込む。


「犬っていえばコボルド?」

聞いてみる。

「この世界はコボルドはゴブリンより弱いよ」

「そうなん」

コボルドってラノベだとゴブリンの次ぐらいのイメージだった。どっちにしろトロールを連れてるような感じしないな。


「それじゃあ、犬人間?」

思いついた単語を言ってみる。

「この世界で獣人って見たことないんだよね」

「え?」

ラノベ感ないね。さらばモフモフ。


「あえて言うとライカンスロープ?」

何それと思って聞いてみたら、要するに狼男らしい。だとすると強そうだな……

「だけどトロールと狼男じゃ系統が違いすぎよね」

そう言ってあかりは考え込む。

「せめてトロール対策ぐらい考えよっか」

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