44 魔法の槍

 スコップ!と防具代を払ったけどこないだの宝箱の金貨があったからまだ余裕。でもなんで毎回金貨が入ってるんだろう。みんな不思議じゃないのかな。


「シャリはダンジョンから金貨が出てくるのって不思議だと思わない?」

「じゃあおにいちゃん、金ってダンジョンじゃなかったらどこから出てくるの?」

「えっと、金鉱山かな」

「それって何?」

「山に穴掘ってたまに金が見つかるんだよ」

シャリはなんか考え込んでいる。

「ダンジョンと一緒じゃない?」

えっと、そうかな。考えてもしょうがないか。


・・


 カフェの名前は「癒し屋」というベタな名前になった。店の前の路上にも椅子を並べて営業している。宿屋の部屋にいてもしょうがない冒険者たちがだべっている光景がよく見られるようになってきた。


 冒険者もちょっと増えてきたかな。レイラさんのパーティも時々お茶を飲みに来るし母さんのヒールの需要もちょくちょくある。

 前は店らしい店が数店しかなかった村の中も、うちのカフェ以外にも今は服や食べ物などいくつかの店ができている。



 今日は雨なので誰も出歩いてない。この世界には傘がないのだ。装備を待っている間に作ってみようかな。


 木工細工師のところに来た。桶とか作ってる人だね。

「こういう形で、ここのに布を張って、こんな感じで開閉して」

「開閉部分は木じゃ無理かな」

和傘の骨は竹だもんな。ここ竹ないし。


 結局、骨の部分は鍛冶屋にパーツとして発注することにした。布はうちのフェルトを使う。脱脂してないから水を弾くし。


 そして数日。傘の試作品が完成した。ちゃんと開閉する。雨止んじゃったけど。


 そんなことしている間に、注文してあった部分鎧のほうも完成した。鎧と言っても革製。シャリはワンピースの上から胸当てをつけているのでファンタジーキャラっぽい。僕も格闘用に小手と脛当てを着けている。なんか雰囲気出てきたぞ。見た目から入るのも大事かも。


 さて、装備更新してテンション上がったところでダンジョンへ!



 ダンジョンではあかりがマッピングの恩恵を試している。壁の向こうがわかるわけではないが、ダンジョンが地図のように見えて行ったところは全部わかるらしい。


 地下一階の両開きの扉の前。いわゆるボス部屋前。他の冒険者達が立っている。


「どうしたんですか?」

一応聞いてみる。

「もうじきボスがリポップするから待ってるんだよ」

なるほど。


「二階に行くから通っていいですか?」

「ちょっとボスだけ確認させて」冒険者が二重扉をゆっくりあける。

「まだ出てないみたい。急いで行って」

「お先でーす」僕らは走ってボス部屋奥に行くと二階への扉を開け下に降りる。


「これもっと混んできたらどうなるんだろう」

「即売会みたいに最後尾の札を最後の人が持つんじゃない?」

あかりはそういうの詳しいな。


・・


 二階はバグベア。今日はついにボスに挑戦だ。ボスは確かバグベアロードだか少佐だか将軍だかそういうの。


「ボス部屋よ!」

あかりが胸を張って宣言。今日のチュニックは脇が大きく開いてて横からちょっと見える。あんまりガン見するとシャリに突っつかれるけど割と好み。


 それでボス部屋だ。僕とシャリに攻撃力付与。二人で扉を蹴り開ける。

「お邪魔しまーす!」


ᛁ ᛍᚮᛘᛘᛆᚿᛑ ᛑᛂᛋᛐᚱᚮᛦ ᛘᛦ ᛂᚿᛂᛘᛁᛂᛋ ᚥᛁᛐᚼ ᚵᚱᛂᛆᛐ ᛔᚮᚥᛂᚱ ᛒᛂᛐᚥᛂᛂᚿ ᛚᛁᚵᚼᛐ ᛆᚿᛑ ᛑᛆᚱᚴᚿᛂᛋᛋ.・・

あかりが呪文の詠唱を始める。


 バグベアたちは部屋の奥から投げ槍を飛ばしてくる。思った通り、盾、じゃなくてスコップ!の出番だ。


 なぜか盾だと思うといきなり重く感じられる。

『これはあくまでスコップ!』

恩恵に言い聞かせて飛んでくる槍を弾き返す。人間が使う投げ槍より一回り大きいのが飛んでくるのでかなり怖い。


 あかりの広範囲呪文マジックストームが炸裂した。


 光の刃が飛び交い、雑魚バグベアたちは魔法のミキサーに切り刻まれていく。秒数を数えて魔法が終わりそうなところを見計らい、盾じゃなくてスコップ!を水平に持ち、構える!


『縮地!』


 バグベアの親玉の胴体にスコップ!が突き刺さった。首を飛ばすにはバグベアはちょっと大きすぎるんだよね。ボスの持っていた槍が衝撃で跳ね飛んだのはラッキーだけど。スコップ!を捨て手斧を抜く。ボスが吠える。


 シャリが走り込んでくるのを横目でとらえた。ボスの後ろに回り込んで注意を引きつける。3,2,1。


『シャリ行け!』


 ボスの背後からシャリが殴り掛かる。


 シャリがメイスでボスの踵をぶん殴った。バランスを崩したボスを二人で攻撃。ボスが振り返ってシャリの方を向いたところに手斧を投げてけん制。手斧を投げると手斧の恩恵と投擲と攻撃力付与が全部加算されてお得だ。ということは槍も投げた方がお得なのかな。シャリはひたすらボスの足回りを攻撃する。足の小指を叩き潰した。うわ痛そう。


 突然、バグベアボスの動きが止まった。シャリのメイスの特殊機能「一定確率で麻痺」が発動したのだ。そのままシャリがボコボコにぶん殴る。


 バグベアボスは黒い霧になってダンジョンに吸い込まれた。


「ナイスシャリ!」

「ありがとうおにいちゃん」


 ほぼダメージはなかったし楽勝だったけど、縮地後の僕の攻撃が微妙だったな。かといってスコップ!と槍を両方持てないし。

『投げ槍だと恩恵が多重についてお得』

とも思ったけど投げ槍を何本か持ったら重くて動けなくなりそう。ゲームと違い現実世界はいろいろ悩ましい。


 そういえばバグベア達が投げてきた槍は残ったままなんだよね。ボスの槍も残っている。本体は消えても投げたものは消えないんだな。


 さて、バグベアボスの宝だけど、基本は金貨。そして鑑定すると、さっき跳ね飛ばしたボスの槍がどうやら魔法のアイテムらしい。ドロップアイテムかな。ただしバグベア用なのでやっぱりでかい。騎士のランスぐらいの大きさなんだけど。


 持ってみる。やっぱりでかいし重い。これでは持ち帰れない。

『小さくならないかな』


 すっと小さくなった。


「え!」

どうも持ち主が念じるとサイズが変わるみたいだ。一番小さいと30cmぐらい。大きくなるとランスサイズ。


「すごいねおにいちゃん」

初めてのマジックアイテムだ。なんか無茶苦茶うれしいんですけど。


「僕らも充分強くなってきたしもう三階も余裕なんじゃないかな」

「お兄ちゃんそれフラグだから」

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