131 ビジョン

 とりあえず肥料はなんとかなるようになった。貢献ポイントも溜まったかもしれない。ここで神様に祈ってみることにした。


・・


「夢を見たの」


 夜中にふと目覚めた時、シャリが僕を見つめていた。

「怖い夢?」

「うん」


「お兄ちゃんはいなくならないよ」

「そうじゃないの」

シャリは目をつぶると、抑揚なく話す。


「大地を覆うほどの竜が世界を終わらそうと目覚めるの」

「なにそれ」

「多分、神様から」


・・


 みんな姉妹にシャリの見た夢の話をした。

「それってやっぱり恩恵で見えたのかな」

シャリはうなずく。


「夢の中で啓示を受けたの」

「前もあったけど啓示ってなんなの?」

「なんて言うか、未来の一つが見える感じ」

これは神様のクエストなのかな。



「大地を覆うほどの大きな竜?」

「そういう伝説とかない?」

パウル司教に相談しに教会の総本山に来た。


「そういうのは邪教関係だからなあ。俺は詳しくない」

「邪教ってなに?」

「人間以外の宗教だな。我々から見ると」

「詳しい人いないの?」

「うーむ、禁書庫にはあるが……」

「見せてよ」

「見てはならないから禁書なんだよ」

「それなら無問題」

どや顔で言う。


「背表紙を触るだけでいいから」


・・


「邪神やら悪魔やら這い寄る者やら異常に詳しくなっちゃったんだけど」

アカシック・アクセスで禁書庫の全ての本にアクセスしたあかりがげっそりした感じで言う。前からそういうのは詳しかった気もするけどな。


「知識を深めるのはいいことじゃない?」

「だったら読んでみる?」


 あかりが一冊の本を手渡してきた。

「知りたがってた事が書いてあるわよ」

「持ってきていいの?」

「バレなきゃいいのよ」


・・


 言語理解の恩恵を使って読み進むと、いわゆる人類以外が書いた聖書だなこれは。ページ数が多くてげっそりするけど大体の位置はあかりが教えてくれていた。書かれていることは天使の話。天使といっても羽の生えた人ではない。人類でないものにとっての天使だ。山中深く眠る大地を覆い尽くすほどの大きさの天使が目覚めた時、世界を浄化して新しい世界が始まる。


「ハルマゲドン?みたいな?」

「そんな感じね」

あかりが答える。


「その天使?もそのまま寝ててくれればいいのに。なんで起きるんだろう」

「ゲームに負けそうになった側がオールインしようとしてるのかも」

「無責任なプレイヤーだな。ゲームキャラの気持ちも考えてほしい」


 そう言ってもしょうがない。


「で、その竜はどこで寝てるかわかる?」



「巨大な竜の伝説、王宮の書庫で見つけたわよ」

シャリと一緒に王女の元を訪ねていたあかりが教えてくれた。シャリは訪問時は変身でメイに成りすましている。あかりは本当はちょくちょく王女のところに行ってるのだけど、書庫に行くとなると人に見られるので転送ゲートでというわけにはいかない。


「実在したんだ」

「古代ローヌ帝国を滅ぼしたのがそれみたい」

「おっと」なんかその名前ひさしぶり。


 ひょっとして、その竜、ものすごく強いのでは?


・・


 王都より北に300kmほどのところにある急峻な山脈。そこに竜の巣があるという。


「意外と近くない?」

「よかったじゃない」

まあ隣の大陸とか言われたら大変だったよね。


 王女に出かけてくると言って行き先を伝えたら、ちょうどそこに王家の別荘があるそうだ。いまは使っていないので誰もいないとのこと。そこを拠点にさせてもらおう。


 ということで王都の外に出てシャリがグリフォンに変身する。僕がそこにまたがり、縮小したあかりを転送ゲート要員としてバックパックに入れる。朝出れば昼頃には着くはず。


 メイと王女に見送られてシャリのグリフォンは猛スピードで飛ぶ。


(・・ おにいちゃん、前方 ・・)


 なにか大きな生き物が飛んでいる。といっても車ぐらいの大きさかな。目を凝らして観察すると。


「ドラゴン?」

にしてはちょっと小さいか。そしてこっちにまっすぐ近づいているようだ。どんどん近くなる。


「( シャリ、あれはやっつけるから )」

(・・ わかった、おにいちゃん ・・)


 槍をランスのサイズに伸ばして構える。それはどんどん近くなる。ドラゴンみたいだけど小さいし前足がないな。ひょっとしてワイバーンか。


『突撃!』


 槍はまったく衝撃を感じずに貫通した。振り払ってそのまますれ違う。草薙剣を混ぜた槍の穂先の刃は、尋常じゃない切れ味になっている。僕らの後ろで翼が切断されたワイバーンが地面に落ちていく。


「拾っていく?」


・・


 お昼には王女の言っていた別荘に到着した。あかりが転送ゲートの魔法陣を書くとさっそく起動して消える。


「おにいちゃん、掃除しないと」

「そうだね」


 クリーンを連発して掃除がだいたい終わったころ、魔法陣が再び輝いて、メイと王女が現れた。

 いらっしゃい、と言うのも変だな。おじゃましてます、かな。


「無事着きましたね」

「お邪魔してます。一応掃除はしときましたけど、あれはどうしたらいい?」

僕が指差した先にはワイバーンの死体が吊り下げられている。


「今日の夕ご飯にしましょう」

ワイバーンって食えるんだ。


――

挿絵は禁書庫を漁るあかりちゃん

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330654005061434

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る