130 月

 この間の山で採掘していたのはウランの鉱石だったようだ。そういえば紫外線で光るガラスってウランガラスだ。


「あかりちゃんに手伝ってもらってウランはもうトン単位で確保できました」

「まじで」

「これ作る材料とかどうしたの?」

「人類のためにって言ったら王女が手配してくれました。お金はどうにでもなるので」

「そうなの?」

「金(キン)なら作ればいいですから。むしろ大量の鉄のほうが大変でしたけど、鉄鉱石はあったから還元すればいいですから」

「金って作れるんだ」

長そうなので話に割り込んだ。


「元の世界だって効率は悪いけど金は作れるんですよ。この世界の錬金術を使えばその効率を飛躍的に上げられるんです。原子炉も錬金術を使っていろいろ端折ってますけど要はお湯が沸けばいいので」

「なんか、すごいね」

「このぐらい無問題です」



「これで肥料プラントの試作一号が完成ですよ」

メイの本拠地に設置されたパイプだらけの設備に電力と水が供給されると、設備は微かに唸り始める。


「しばらくするとこっちから肥料がゴロゴロ出てきます」

「すごいね」

「これはまだテストプラントで、量産プラントも作らないとなんですけど」

メイは上目遣いに僕の目を見る。


「フィン、お願いしてもいい?」

「僕ができることならなんでも」


・・


『〇△◇☆%#』

右手に感じる王女の胸の感触。そして僕の下に感じるメイの圧倒的な弾力。絡み合った舌を伝って唾液がメイの口に流れていく。


レベル接続コンタクト!』

メイとの間にレベル回路が形成される。


レベル譲渡トランスファー


 僕が起き上がってもメイは惚けたように王女のベッドに横たわっている。転送ゲートで連れてきてくれたあかりが様子を見ている。

「やっぱりお子様には刺激が強いんじゃない?」

「どっちかというと僕に刺激が強いんだけど」

「好〜〜」

メイがようやく意識を取り戻して起き上がってきた。


「で、恩恵はどうだった?」

「もちろん無問題です」

「いまさらだけど無問題って広東語じゃない?」

「没問題」



 肥料のテストプラントからは硝酸アンモニウムの粒がゴロゴロと溢れ出ていた。


「うまくいってます!」

メイは嬉しそう。


「それじゃ、これを」

メイはプラントの横に鉄やらガラスやらを積み上げる。そしてメイが新しい恩恵を発動。


物体複写デュプリケイト!」


 積み上げた素材がなくなり、プラントがもう一個現れた。


「あとは量産ですね」


・・


 メイの土地に木造の急拵えの倉庫が立ち並び、王家の紋章の付いた馬車が次々と肥料を運び出していく。馬車と言っても荷台に木製のコンテナを乗せた構造。巻き上げクレーンでコンテナごと載せ替える。


「あの馬車は軸受けをベアリングにしてあるんです」

「すごいじゃない」

「まあそうですけど」

メイはちょっと不満そう。


「この世界の技術じゃ同じものは作れないんですよ。まず金属の質が低いし、プレス加工もできない。焼き入れの管理も適当だしそもそも計測器がない。さらに言うと単位系が整備されてないんですよ」

「なるほどですね」

「と言ってもメートル法ができたのも18世紀末だから、この世界じゃしょうがないですけど」

「なるほどですね」

「元の世界でもボールベアリングを作れる国なんて多くないからまあいいです。キーパーツだけは私が作るけど、基本的には単位系や計測技術を整備して、物流も標準化すれば文明を数百年はスキップできます」

「なるほどですね」


「あとは王女におまかせです」

「頑張ってほしいね」


・・


 メイの秘密基地を出るともう夕方だった。


「天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも」


 メイの声を聞いて暮れなずむ空を見上げる。この世界の三つの月が同時に夕方見えるのは珍しい。三つの月が重なる日までは計算したところあと一カ月余りだそうだ。


「三笠の山には月は三つ出てないと思うよ」

メイは僕の方を見てクスッと笑う。


「この歌は遣唐使として大陸に渡ったまま日本に帰れなかった人が詠んだんですよ」

メイの黒髪が沈んでいく夕日を受けて輝いてる。しかし、メイは日本の古典をよく知ってるな。


「メイという子はどんな子だったんですか」

「どんなって言われても……」

「私は直接会ったことがないんですよ」

メイは言葉を続ける。


「あの両親が助けたかったメイは本当に助かったんですかね」

僕はメイの顔をじっと見つめる。


「私のオリジナルは元の世界にいて、私は単なるコピーなんですよね」

「名前なんていうのはただの記号だよ。一人の女の子が助かったんだ。それでいいじゃない」

「私は誰なんでしょう」

「君はメイだよ。姉さん」


――


フィン:レベル4(down)(人間:転生者)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎、クリーン、テイム(妖精)、言語理解、耐熱、隠ぺい、盾術、力持ち、覚醒、突撃、予知、解錠、反射、恩恵奪取、メッセージ、ライト、騎乗、スイッチ、疾走、跳躍、水、氷、毒無効、毒消し、巨大化、縮小化、風、土


シャリ:レベル9(人間)

・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術、盾術、完全回復、変身、力場障壁、ビジョン


あかり:レベル9(エルフ:転生者)

・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング、詠唱破棄、空間転移、アカシック・アクセス、エレベーター、転送ゲート


メイ:レベル9(up)(人間:転生者)

・恩恵:衣装製作、アイテム化、投げナイフ/ダーツ使い、エンチャント、形状加工、紙の神、上級錬金術、アイテム合成、物体複写(new)


シャルロット:レベル7(人間)

・恩恵:レベルブースト、[?]、[?]、[?]、レベル預かり、[?]、[?]


――

挿絵はメイちゃん

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330653960897677

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