132 竜の谷
ワイバーンだけど、まず尻尾は毒があるので切っておく。皮は塩漬けにして後でなめすとのこと。肉はシャリが料理している。
ちなみに、ワイバーンは前足が翼になっているので構造的には鳥やコウモリに近い。ドラゴンは四つ足プラス翼みたいだけど肩関節とかどうなってるんだろう。そういえば天使もそういう構造だったな。意外な共通点。
「そういえばレベルアップパーティしてなかったわね」
「メイちゃんととおにいちゃん?」
「僕はレベル上がって下がったけど」
「メイの恩恵は
「僕は土にした。これで地水火風コンプ」
「コンプボーナスあるの?」
という事で、ワイバーン料理でレベルアップパーティとなった。もちろん無礼講らしいけどそうじゃなかったことない気がする。
ワイバーンは肉に脂肪が少なくて焼くとパサつきがちなので、スパイスを利かせて揚げてしまったほうがおいしいから唐揚げパーティだ。フライに使う油はこの世界では高級品なんだけど材料さえあればメイが作れるので、僕たちは最近、揚げ物比率が高くなってきた。それはともかく。
「山の中に竜の谷という場所があるんですよ」
指についた油を舐めながら王女が説明する。行儀とか気にしないタイプなんだな。
「そこに竜がいるの?」
だったら簡単なんだけど。
「これならいるんだけどね」
王女が手に持った唐揚げを振る。ワイバーンか。
「谷の奥の方までは行った人がいないのよ」
「でもそこが一番怪しいよね。1000年前のローヌ帝国の滅亡と関係あるとかなんとか」
「伝説だけどね」
王女の話を聞いて、あかりのほうをちらっと見る。
「行けばあかりが分かるんじゃないの?」
「今回はわかりたいものが不明瞭すぎるのよ」
「でっかい竜?」
「神話だとでっかいのは全部竜っていうのよね」
「もう全部倒すしかないか」
「探してみるしかないわね。問題は見つけた後どうやって倒すか」
「目覚め、って言うんだから寝ているんならやりようは考えてます」
メイが妙にやる気を見せている。
そしてシャリはと言うと、このところ塞ぎ込んでいる。
「大丈夫だよ、シャリ」
「……うん」
僕が声をかけるとシャリは弱々しく微笑んだ。あかりがにっこりと言う。
「お兄ちゃんが何とかしてくれるわよ」
・・
来た時のようにシャリが変身したグリフォンに僕が乗って山に行く。あかりとメイはバックパックの中。
一応、王女の言っていた”竜の谷”までは来たと思うんだけど……切り立った谷を進む。
グェ―
なにかの鳴き声が山肌にこだまする。鳥ではなくて、もっと大きいものの響き。
グェーーー!
上だ!見上げたところにワイバーンが襲い掛かってきた。槍を向け、シャリの背中に立つ。
『縮地!』
槍の穂先はワイバーンの頭を一撃で貫いた。落下しながらマントを展開して地面に降りる。
「おにいちゃん、出してよ!」
背中からあかりの声がする。バックパックを降ろしてあかりとメイを元のサイズに戻す。
「来たわ!」
元のサイズに戻ったあかりがいきなりマジックボルトを発射。こっちに向かって急降下していたワイバーンを迎撃した。射線上にいた他のワイバーンが慌てたように飛び退る。
シャリも着陸すると元の姿に戻り僕の横に立った。上空では何体ものワイバーンがくるくると飛んでいる。こっちの様子を見ているようだ。
「ワイバーンが鳩みたいにいっぱいですね」
迫撃砲をアイテムボックスから出しながらメイが言う。
「キリがないから放っといて。来たやつだけ倒そう」
・・
近寄るワイバーンを倒しながら谷を進むと、上空にひときわワイバーンが群れている場所があった。
「あそこだけワイバーン密度濃くない?」
「なんかあるのかしら」
「竜の巣かもですね」
近寄ってみると、そこには地面に巨大な穴があった。直径で2kmぐらいある。穴の側面は急で下りてはいけなさそう。底のほうは霧でよく見えない。
「見覚えがある」
シャリがつぶやいた。
「夢で見た場所に似てる」
「じゃあ、ここが目的地か」
そうは言っても、どうやって降りよう。
「飛んでいくって手もあるけど、空中でワイバーンに襲われそうだな」
「底が見えないから空間転移ってわけにもいかないわね」
「あの霧の中って入って大丈夫なんですかね」
「あかり調べてみてよ」
「しょうがないわね」
あかりは手をかざして目を閉じる。
「アカシック・アクセス!」
「分かったわ」
あかりが一言。
「あの穴はダンジョンだわ」
随分でかいダンジョンだな。
・・
穴を降りていく方法はあっさり解決した。シャリがワイバーンに変身出来たのだ。どうやら見たことさえあれば変身できるらしい。
ワイバーンが群れている辺りにメイが迫撃砲で爆弾を打ち上げた。そこにあかりがマジックボムを撃ち込む。閃光と共に広がる白いエネルギーの光に砲弾が吸い込まれると、さらに大きな爆発が発生。直径数十メートルの火球が広がり、衝撃波が辺りを揺さぶる。ワイバーンだった破片が飛び散り、爆発に巻き込まれなかったワイバーンが逃げ惑う。
(・・ 行くよ、おにいちゃん ・・)
シャリがワイバーンに変身したところに首にロープを掛けて三人を縮小してぶら下がる。
「( OK。シャリ )」
どさくさに紛れて穴の中へ。
挿絵はあかりちゃん@竜の谷
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330654051233800
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