140 天使バーニヤ
核爆弾と一緒にベヒモス胃袋の中に落ちそうになり、慌てて喉にグングニールの槍を突き立ててて踏みとどまる。ベヒモスが大きく姿勢を変えたのだ。
転がったはずみで向きが分からなくなった。僕たちはどこから入ってきた?
「あかり、転移で出られる?」
「方向が分からない!」
あかりが焦っている。ベヒモスは巨大だ。転移で出られるか分からない。
その時、頭上で大きな雷鳴が轟いた。見上げると遥か頭上に雷光が見える。
(・・ おにいちゃん、上! ・・)
シャリの声が頭の中で聞こえた。あの雷光はシャリのトールハンマーだ!あそこから出られる!あかりを掴んで。
『縮地!』
上に向かって縮地で移動。遠くに見える開口部が今にも閉じていく。巨大化したままグングニールの槍を投擲!オーディンが使う槍もまた雷撃となってベヒモスの口内に突き刺さった。ベヒモスの口が一瞬開く。今だ!
『タイムストップ!』
ヨルムンガルドを倒したときに取得した恩恵を使い、僕とあかりは一旦時間流の外に出る。と言っても効果時間は数秒間。
大きいままだと引っかかりそうだ。元のサイズに戻る。あかりと抱き合って。これが最後の。
『縮地!』
口の隙間をすり抜けて外に出た。すぐ下にベヒモスの巨大な口がある。タイムストップが切れる。マントの揚力は二人の重さを支えきれずまた落下が始まる。
ズウォォォォ
上から下に突風が吹いた。ベヒモスが息を吸い込んだのだ。いま出てきたばかりの巨大な口の中に引きずり込まれそうになる。もう縮地はない。
「お兄ちゃん、行くよ!」
あかりが短い呪文を唱える。
「転移!」
ベヒモスから1km離れた地点に転移した。巨大なベヒモスはまだ目の前に見える。
「転移!」
クールタイムぎりぎりで、あかりが再び呪文を唱える。
「転移!」
あかりがふらふらしながら魔力を振り絞る。
・・
九回目の転移であかりが倒れた。連続で力を使いすぎたか。作戦本部の丘まではあと1kmぐらいだ。力持ちの恩恵であかりを担ぐと、疾走を使って走る。さらにシャリから借りた加速の指輪を発動。走る速度は時速100㎞を超えるまで加速するが、それでも間に合わないか……
「おにいちゃん!」
前からシャリの声が聞こえた。前方でシャリとメイが大きく手を振って立っている。
「ジャンプ!」
シャリ達の立っているところに転がり込んだ。
「伏せて!」
「
転がったまま振り返るとベヒモスが巨大な身を起こして起き上がろうとしていた。短かった棘が長く伸びて体を支えている。あたかも幼虫が蛹になろうとしているかのよう。そして次の瞬間。
閃光
熱線であたりの草木が燃え上がり、草原が火の海となる。
数瞬後、シャリの
そして地響きが伝わってきた。
核爆発の火球がベヒモスを包み込み、ゆっくりと空に上がっていくのが見える。
その時、体の中から力が湧き上がってきた。すごく大きい!今までにないレベルアップだ!ひょっとして3レベル?。恩恵の一個は決めていたけれど他はどうしよう、とっておきたいんだけど、えっと保留!
・・
地平線に立つベヒモスの巨大な姿がゆっくりと薄れていく。黒い煙となって空へと登っていくのが見える。
「消えるってことは、リポップするってこと?」
「実際、以前もローヌ帝国を滅ぼしたんでしょ」
「じゃあ千年後とかかな。ならいいか」
「それよりお兄ちゃん、やることがあるでしょ」
「これ以上なに?」
あかりの口元がちょっと上がる。
「もちろん宝箱探しよ!」
「あるんだ!」
「あるんじゃない?」
・・
鑑定で見てもらったところ、放射能のほとんどはベヒモスと一緒にどこかに行ってしまったようだ。次に出てくる千年後には大丈夫だろう。多分。
宝箱は普通にあった。角を金具で補強した木箱。ちょっと大きいけどそれでも一メートル角ぐらい。さすがにトラップはなかった。
「これでトラップあったら何が何だかだよね」
「早く開けようよ」
「解錠!」
宝箱が開く。覗き込んでみると……
「肉?」
「肉だね」
大量のベヒモス肉。
『これ、どうやって供物に捧げるんだろう?』
まあ、さっき取得したばかりの恩恵を使えばいいかな。
◇
ジュー
「やっぱり焼肉だよね」
ベヒモス肉、大量にあるのでちょっと食べてみることにした。 王都には醤油があるので、酢とごま油で割ると焼肉のタレも作れる。
今回の焼き肉会場は転送ゲートで戻って来たメイの秘密基地の地上なんだけど、近くに原子炉や大量の爆発物があると思うと微妙な緊張感。
「レベルアップパーティーも久しぶりね」
「ワイバーン以来ですよねー」
「おにいちゃんとあかりおねえちゃん、レベルアップおめでとう!」
「まさかみんなにレベル追いつけるとは」
ずっとレベル1だったのに。しみじみ。
「それにしてもベヒモスって美味しいわね。この油が」
「ほんと、体にしみわたるって感じです」
「シャルロットも来れればよかったのに」
そして、宴もたけなわ。
「じゃあそろそろ主賓を呼ぼうか」
「誰を?」
「もちろん」
恩恵を発動する。
「召喚!天使バーニヤ」
頭上の空中に何もない穴が開く。そして人間の2倍ほどもある灰色の姿が現れる。背中には羽、手には剣。
「ベヒモスの肉を供物として神に捧げます!」
・・
肉の1割ほどは食べてしまったが、残りをバーニヤに供物として渡す。
「転生の神様に聞きたいことがあるんだ」
「何を聞きたい」
「今の僕がシャリと一緒にいられる方法」
「今のお前とはなんだ」
「え?」
「それなら聞くが、明日になればお前は今のお前ではない。今のお前で居続けることなどできない」
「そういう屁理屈じゃなくて、この世界で育った僕の記憶だけを残したい」
「お前の人格には既に元の世界の知識や記憶が入り込んでいる。それを含めての全てがお前だ」
そうなんだけどー、いやそうなんだけどそうじゃなくて……
「おにいちゃんはいいから、ここはシャリに任せてください」
シャリがバーニヤの前に出る。
「おにいちゃんが元の世界に戻るときにシャリも一緒に行きたいんです」
「なるほど」
バーニヤが答える。
バーニヤがベヒモス肉の塊を捧げ持つと、肉は一瞬光って消えた。
「願いは受け入れられた」
バーニヤが宣言する。
「やったー!」
「しかし条件がある」
「なんでもする!」
「世界の壁を超えることは普通の人間にはできない。レベルを極限まで上げる必要がある」
「いくつまで上げればいいですか?」
バーニヤは答える。
「三つの月が重なるとき、レベルを100まで上げていれば世界の壁を越えられる」
バーニヤは消えた。
「あと10日ちょっとで100?」
「シャリはいまレベル9だからあと91だよおにいちゃん!」
・・
「焼肉終わっちゃった?」
いまさら王女が登場した。
「シャルロットいらっしゃい!」
「お肉漬けたのがちょっと残ってるから焼くね」
「私、飲み物取ってきます」
「どうしてみんなそんなに普通なの?」
「だって、おにいちゃんが何とかしてくれるでしょ」
ジュー
「一日9レベルってどうやって?」
「お兄ちゃんが考えてよ」
ジュー
「このタレ美味しいね」
「転生前のレシピなのよ」
「ヴィーガンって焼き肉食べていいんですか」
「天使は動物じゃないから」
ジュー
「私の恩恵をおにいさんにあげられればいいんだけどね」
もぐもぐと焼きベヒモスを食べながら王女が言う。
ジュー
王女の持つ恩恵、レベル
「シャルロット!」
「何?」
「本当に貰っていいですか?」
「何を?」
「恩恵です」
シャルロッテは小首を傾げて微笑んだ。
「いいわよ」
僕はシャルロットの前に進み出ると膝まずく。手を取り、その甲にキスをする。恩恵を発動。
『
そして、”保留”の枠を解除する。
レベル
――
フィン:レベル9(3 up)(人間:転生者)
・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎、クリーン、テイム(妖精)、言語理解、耐熱、隠ぺい、盾術、力持ち、覚醒、突撃、予知、解錠、反射、恩恵奪取、メッセージ、ライト、騎乗、スイッチ、疾走、跳躍、水、氷、毒無効、毒消し、巨大化、縮小化、風、土、クリティカルヒット、環境耐性、タイムストップ、召喚(new)、保留(new)、レベル預かり(new)
シャリ:レベル9(人間)
・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術、盾術、完全回復、変身、力場障壁、ビジョン
あかり:レベル10(エルフ:転生者)
・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング、詠唱破棄、空間転移、アカシック・アクセス、エレベーター、転送ゲート、上級攻撃魔法
メイ:レベル9(人間:転生者)
・恩恵:衣装製作、アイテム化、投げナイフ/ダーツ使い、エンチャント、形状加工、紙の神、上級錬金術、アイテム合成、物体複写
シャルロット:レベル7(人間)
・恩恵:レベルブースト、[?]、[?]、[?]、―、[?]、[?]
――
挿絵はメイちゃん
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330654401852295
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