139 迎撃

 大学一年生の夏、ネットで見かけた記事が気になってとある神社に行ってみることにした。ちょっとした距離はあるが日帰り可能な圏内だ。明日は朝から妹が遊びに来るからちゃんと帰らないと……


 夜中に目が覚めた。シャリが僕に抱き着いて寝ている。そっと顔を触ってみた。幼い寝顔。ゆっくり抱きしめる。


『……前世の記憶が戻りつつある』



 迎撃ラインにある丘の上に作戦本部を設置した。といっても待避壕を掘ってテントを一個立てただけなんだけど。

 台の上に長さ3m弱の細長い物体が置かれている。唐草模様の風呂敷が場違いな雰囲気だが、その中身には都市を一つ消し去るだけの爆発力がある。TNT火薬に換算して500キロトン、この間の肥料千トンの爆発力の1000倍のガンバレル型ウラン235核爆弾だ。ガンバレル型は構造は原始的だが爆発するということについては爆縮型よりも信頼性は高いうえ、中性子を反射する錬金術結界とトリチウムを付加したリチウムをコアにすることで爆発力は数十倍にブーストされている、そうだ。


「ベヒモスが作戦位置に入りました」

ベヒモスの位置を測量していたメイが報告する。


「それじゃ、始めよう」


「おにいちゃん……」

シャリをぎゅっと抱きしめる。

「シャリ、待ってろよ」

「うん」


・・


 基本的な作戦はシンプル。巨大化して爆弾をひっつかんでベヒモスに近寄り、口の中に放り込んで逃げる。


 王女にレベルブーストしてもらったうえ、目一杯バフをかけてある。さらにはシャリが普段つけている加速の指輪も装備したところで巨大化。


 マントをはばたかせると体が浮き上がる。


「質量比とかおかしくない?」

「魔法だからそういうものよ」

独り言をあかりに拾われたけど、10倍サイズになったら翼面積は100倍だけど質量は1000倍なんだよね。なぜ飛べるのかはちょっと謎。あかりは元のサイズのまま耳元にしがみついている。僕とのサイズ比でいうと妖精みたいだ。


 ベヒモスまでの距離は10㎞ほど。目標の移動速度は時速一キロもない。止まってるようなものだ。時速40kmぐらいで飛行しながら近寄っていく。


 ベヒモスは幅にして500mほどある。高さもそのぐらい。体長は数kmとか軽くありそう。見た目で言うと角と刺の生えた山だ。角が張り出したこちら側がたぶん前なのだろう。ベヒモスは神話では動物の王のはずだが、その姿は動物の形状ではない。もっともこのサイズで動物の形状であれば自重を支えることができないはずなので、これはむしろ現実感がある。少なくともこの世の物体なら爆弾が効くかもしれない。


・・


 ベヒモスの棘が唸りを上げて掠めて行った。


 もう20本は避けたはず。棘というものは正面から飛んでくるのを避けるのは難しい。それが数十秒に一回の頻度で飛んでくる。もちろん棘といってもその大きさは10倍に巨大化した僕の身長をも上回る。真っ直ぐ突っ込むと危ないので軌道を複雑に変えながら接近している。縮地も何度か使ってしまった。


「口ってどこにあるか分かる?」

回避軌道を取りながらベヒモスの直前を横切る。てっきり動物みたいな顔があると思っていたのだがどちらかというと全長数キロのナマコ型のウニ、あるいは巨大な毛虫だ。


「わからない。ちょっと攻撃してみる」

あかりが詠唱破棄で攻撃魔法を撃ち込む。普段ならダンジョンを揺るがすようなマジックボムがベヒモスの表面で花火のように弾ける。


「全然ダメ!」


「ていうか、こいつ口あるの?」

「動物ならあるんじゃない?」

「わかんない。こうなったら」

ベヒモスに突っ込む。棘を避けながらその巨体に右手のグングニールを向けて。


「突撃!」


 むにゅ。


「駄目だ、こいつダメージが通らない!」

ベヒモスの上に着陸してしまった。太い棘が無数に生えた下で柔らかい体表が波のように揺れている。下手すると振り落とされそう。


「手詰まりだな」

攻撃が効かないというパターンは考えてなかった。しかし爆弾は一発しかない。どうするか。


「お兄ちゃん、私も巨大化して!」

突然、あかりが耳元で叫んだ。


「なんで?」

「早く!」

よくわからないけど巨大化。10倍サイズになったあかりが僕の横に現れる。


「で、どうするの?」

「こうするのよ!」


 あかりがいきなり僕にキスしてきた。こんなところで!?


 あかりの舌が僕の口の中に入ってきた。僕はといえば右手にグングニール、左手に核爆弾を持った状態。揺れるベヒモスの上でディープキス。あかりは右手を僕の頭の後ろに添え、左手で僕を抱きしめている。


 僕を抱えてキスをしたまま、あかりは仰向けに寝ころんだ。両手の使えない僕はあかりの上に倒れ込む。あかりの右手は僕の頭を掴んで離さない。そうか!


 唇を合わせたまま今度は僕から舌を挿し入れた。そのままあかりと舌を絡めあう。10倍サイズなので体積にして1000倍の唾液があかりの口の中に流れ込む。


レベル接続コンタクト!』


 あかりとの間にレベル回路が形成される。


レベル譲渡トランスファー


 唇を離してあかりの顔を見つめる。あかりはにっこりと微笑む。


「ついに来たわよ!」


・・


ᛟ ᚷᚱᛖᚨᛏ ᚢᚾᛁᚢᛖᚱᛋᛖ ᚨᚾᛞ ᛋᛏᚨᚱᛋ. ᛁ ᚹᚨᚾᛏ ᚣᛟᚢ ᛏᛟ ᛚᛖᚾᛞ ᛗᛖ ᛏᚺᚨᛏ ᚷᚱᛖᚨᛏ ᛈᛟᚹᛖᚱ. ᚾᛟᚹ ᛁᛋ ᛏᚺᛖ ᛏᛁᛗᛖ ᛏᛟ ᛒᚢᚱᚾ ᛞᛟᚹᚾ ᛏᚺᛟᛋᛖ ᚹᚺᛟ ᛏᚱᚣ ᛏᛟ ᛞᛖᛋᛏᚱᛟᚣ ᛗᛖ ᚹᛁᛏᚺ ᛏᚺᚨᛏ ᛒᛚᚨᛉᛁᚾᚷ ᚠᛁᚱᛖ ᚨᚾᛞ ᛏᚢᚱᚾ ᛏᚺᛖᛗ ᛁᚾᛏᛟ ᛋᛏᚨᚱᛞᚢᛋᛏ・・・・・・


 ベヒモスの上であかりが呪文を詠唱する。いつもの呪文に比べても長い。


「サモン・メテオ!」


 あかりを元のサイズにすると肩に載せて飛び立った。ベヒモスから一度離れる……


 空に流れ星が現れ、こちらに向かって伸びてくる。それも一つではなく流星雨だ。惑星間の軌道上から召喚された隕石は、天空から切れることのない尾を引いてベヒモスの背面に激突、大爆発を起こす。それが10連撃。何度も衝撃波が発生し空中にいた僕らをもみくちゃにする。


 グウァオーォォォォォーーーーー


 背中に隕石雨の直撃を浴びたベヒモスが吠える!口があった!


『縮地!』


 ベヒモスの口めがけて突っ込む。


 そこは体育館ほどもある巨大な空間だった。


『ライト!』


 恩恵を使い、その空間を照明弾の様に明々と照らす。奥にトンネルの入口のような穴があった。体内へと通じているのだろう。


『縮地!』


 ベヒモスの喉まで到達。ここで時間停止風呂敷から核爆弾を取り出すと喉から食道の奥に向かって放り込んだ。あとは自動。起爆までは1分。逃げるぞ。


 この時、いきなり世界の向きが変わった。僕らはベヒモスの喉の奥に投げ出された。


――


フィン:レベル6(down)(人間:転生者)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎、クリーン、テイム(妖精)、言語理解、耐熱、隠ぺい、盾術、力持ち、覚醒、突撃、予知、解錠、反射、恩恵奪取、メッセージ、ライト、騎乗、スイッチ、疾走、跳躍、水、氷、毒無効、毒消し、巨大化、縮小化、風、土、クリティカルヒット、環境耐性、タイムストップ


シャリ:レベル9(人間)

・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術、盾術、完全回復、変身、力場障壁、ビジョン


あかり:レベル10(up)(エルフ:転生者)

・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング、詠唱破棄、空間転移、アカシック・アクセス、エレベーター、転送ゲート、上級攻撃魔法(new)


メイ:レベル9(人間:転生者)

・恩恵:衣装製作、アイテム化、投げナイフ/ダーツ使い、エンチャント、形状加工、紙の神、上級錬金術、アイテム合成、物体複写


シャルロット:レベル7(人間)

・恩恵:レベルブースト、[?]、[?]、[?]、レベル預かり、[?]、[?]


――

挿絵はあかりちゃん上級攻撃魔法

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330654353874220

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