第19話 カトリーヌ

(あかり)


 地下室には残念ながら捕らわれの貴族も美女もいなかった。二人で地下室の倉庫を漁る。


「お兄ちゃん、本当は日本に帰りたくないんでしょ」

あかりはガラクタをひっくり返しながら聞く。

「どうして?」

「だって、いまは幸せそうだもん」

「前世では幸せそうじゃなかった?」

「どうなんだろ」

お兄ちゃんが言う。

「自分の幸せは自分で決めればいいんだよ」

「じゃあお兄ちゃんはあかりといると幸せ?」

「幸せだよ」

ちょっと微笑む。

「あかりはどうなの?」

私は……


「あった!」

あかりが何かを拾い上げた。鍵のようだ。

「なにそれ?」

「えっと、フラグ?」

「え?」

「じゃあお兄ちゃんの幸せを回収しに行きますか」


◇(シャリ)


「お食事の準備が出来ました」

びっくりした!


 振り返ると扉から執事っぽい人がダイニングに入ってきた。そして召使っぽい人たちがぞろぞろと。正確に言うと人ではない。その身は華奢であり美しく、耳が長い。エルフだ!

 そして召使の後、チュニックを着た若い女性。ほっそりと華奢で、胸が大きい。色は白く、髪は茶色で瞳は深い緑色。そして美しい顔。


「カトリーヌです」

エルフは軽やかに挨拶する。


「あかりおねえちゃん?」


・・


 カトリーヌが着席し、召使がフィンとシャリに椅子を用意し着席を促す。

「実は私はエルフの姫だったのです」

えー。

「私はエルフの森に帰ることになったのです』

まあ。

「今日は宴を用意しました。存分に食べてください』

えっと。

「シャリ、私は帰るけど、お兄ちゃんをよろしくね」

それはもう。

「それでは、食事でもしながらお話ししましょう」


 机の上に大きな肉と色とりどりの野菜、みずみずしい果物が並ぶ。

「どうぞ食べてください」

 こんがりと焼けた鳥の足。何の鳥だろう。ハーブの匂いがそそる。おにいちゃんはさっそく手づかみでかぶりついている。

「うまい!」

シャリも食べてみよう。手を伸ばして…


「ちょっと待ったー」

扉がバタンと開く。


 何とおにいちゃんとあかりおねえちゃんが入ってきた!


「謎は全て解けた!」

「ちょっと違うけどそんな感じ」


 おにいちゃんが二人。おねえちゃんが二人。


「ここは夢の中なの!」

入ってきた方のおねえちゃんが言う。


「騙されないで。私たちが本物よ!」

「怪しいやつ。正体を現せ!」

「本物はこっちだ」

「どっちが本物か、勝負だ!」


 おにいちゃんとおにいちゃん、おねえちゃんとおねえちゃんが武器を持って戦いだした。

完全に互角だ。勝負がつかない。この感じ、夢の中っぽい。


「シャリ、援護をしてくれ!」

そう言われても乱戦でどっちが本物かわからない。


 シャリは戦ってるあかり達の方を向く。

「今までどこにいたの?」

「「シャリを探してたのよ!」」

二人のあかりが同時に答える。


「どうせおにいちゃんとイチャイチャしてたんでしょこのエロエルフ!」

一人がちょっと動揺した!追い打ちをする。


「おにいちゃんはシャリのだからね。ハニトラエルフは森に帰りなさいよ!」

「なによ!ぽっと出のロリ妹!」

「ぽっと出じゃないもーん。シャリのほうがずっと前から妹だもーん」

「私は前世から妹なのよ!」

 攻撃力付与をかけて、さっきから黙ってる方を思いっきりぶん殴る。

「グヴォァ」

床に血だらけのバグベアが転がった。そのままメイスで粉砕する。


 なるほど。


 シャリはあかりと並んで、戦っているおにいちゃん達の方を向く。

二人で声を合わせて、思いっきり叫ぶ。せーの!


「「おにいちゃんキモイ!」」


 動揺しなかった方にあかりがマジックミサイルを打ち込む。そこをシャリが思いっきりメイスで殴打する。惨殺されたバグベアの死体が転がる。


 兄妹三人は、執事と召使達のほうに向き直る。武器を構える。シャリが攻撃力付与を二人にかける。あかりの声が石造りの部屋に響く。


「二人とも、レベル上げするわよ!」



「あの食事を食べたらどうなったんだろう」

「千尋の両親みたいな感じじゃない?」


 バグベアが全滅した時、辺りは半ば森となった廃城へと変わった。足元に転がるバグベアの死体が黒い煙となって消えていく。テーブルの上の食事は泥と葉っぱだった。狸かな。

「これは、バグベアシャーマンね」

「こないだのより小さいな」

「本来のバグベアはゴブリンの一種で妖精だからむしろこっちのほうが正統で、こないだみたいな大きいバグベアはD&D的な世界観から派生した系統の」

「カトリーヌは頑張ってるな」

「えへ」


「おにいちゃんはあかりおねえちゃんと一緒だったの?」

「うん、まあ」

「おにいちゃんが本物だってわかってたの?」

「私、鑑定あるから」

さすが転生者ご用達のチートスキルだ。


「そういえば、どうやってシャリの夢の中に入ってきたの?」

シャリが尋ねる。

「あ、それはね」

あかりは鍵を取り出す。

「これは他の人の夢の中に入れる鍵なのよ」

あ、例のフラグ。

「ここにあるって妖精に聞いてたのよ」

「こないだの30cm?」

「ううん、別の人」

あかりはわりとコミュ力が高いらしい。

「あかりって友達多いね」

「表面的だけどね」

あ、なんか暗くなった。まずかったかな?話題を変える。

「えーっと、妖精って色々いるんだね」

「そうね、バグベアもゴブリンも妖精だしね」

「っていうか、妖精以外見てなくない?」


 まあいいや。帰ろう。家に帰るまでが冒険だよ。


「ちょっとまって!お兄ちゃん、レベル上がってるじゃない!」

「おめでとう!おにいちゃん」

「うらやましくなんかないから!」



――

フィン:レベル3(up)(人間:転生者)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性(new)


シャリ:レベル4(人間)

・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い


あかり:レベル4(エルフ:転生者)

・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、隠密、耐寒


――

次回より新章トロール編です。


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