第八章 ゴブリンの王
第30話 エルフ
「おにいちゃん、レベルアップおめでとー!」
「お兄ちゃん、今日は無礼講よ」
「これ毎回やるの?」
「シャリはお祝いだからいいと思うな」
「同じ相手と三回結婚したカップルの披露宴ぽくない?」
「ご祝儀は出さないわよ」
「どうせすぐ四回目だしね」
「えっ!」
あかりがびっくりした顔でこっちを見ている。
「お兄ちゃん、せっかくのレベル3なんだからもっと大事にした方がいいよ!」
「そうかな」
「お兄ちゃんは私たちのことを気にし過ぎだよ」
あかりは殊勝なことを言う。
「もっと自分を大事にして、お兄ちゃん」
どうしたの?
「お兄ちゃんはそろそろレベル上げに専念した方がいいんじゃないかな?」
えっと。
「そういえば、おにいちゃん、恩恵は?」
「えっと、探す的な感じ」
「なにそれ」
「自分がよく知ってる物の場所がわかる」
「テレビのリモコン探すとき便利そうね」
「テレビもリモコンもないけどね」
◇
ウェンさんがやって来た。シャリにはあっち行っててもらう。あかりは森に行ってる。
「ところで僕たちに頼みってなんだったんですか」
「うーん、実はな……」
「お前、前に鍛冶屋に剣を持ち込んだろ」
「ええまあ」
「あれ、本当にゴブリンのか?」
「えっと、ゴブリンと言えなくはないのかな」
「人間サイズのロングソードだ。普通のゴブリンは扱えない」
「普通でないゴブリンだったんですよ」
「まあ、なんでもいいんだ」
「とにかく冬のうちに、ゴブリンでもなんでも、魔物の巣穴を見つけなきゃいけないんだ」
「なんでですか?」
「あの剣、ああいうのが他にもあるかもしれない」
「剣ですか?」
「金貨とか」
「あるかもしれませんけど、騎士団がそれを当てにするんですか?」
「だよな」
「当てにしているわけでもないんだが……」
騎士はちょっと考えて、また話し出す。
「ここは昔、古代ローヌ帝国の支配地域だった」
「話が変わりましたね」
「それが今は魔物が跋扈する辺境だ」
「まあそうですね」
「人間の生息域はどんどんと狭まっているんだ……」
えーっと、話が大きくなってきたぞ。
「とにかく、人が住んでいくにはここにいる魔物を倒さないといけない。金が要る。こんな僻地では冒険者も来てくれない」
「冒険者って見たことないけどいるんですか?。」
「俺は昔、冒険者だったんだ」
そういえばそうだった。
「魔物を倒しても金にならなきゃ誰も来ないよ」
ゲームだとモンスター倒すとお金になるし、ラノベだとだいたい魔石とか落としてお金になるんだけど。この世界そういうのないね。お宝を回収すればなくもないけど。
「魔物狩りで一発宝物でも当てた話が出れば来るやつもいる。人が来れば金が動く。このままではじり貧なんだよ」
彼は森のざっくりした地図を取り出す。この世界に精密な地図など存在しない。
「ともかく、この冬の間にこのエリアを捜索する必要があるんだ」
「なるほどですね」
「とはいえ、騎士団というのは森の中をうろうろできるようなものではない」
「そうなんですね」
「そもそも森というのは狩人とか木こりとかそういう人の領分だ」
「ふむふむ」
「あと、エルフとか」
◇
あかりは森をひた走っていた。レベル5のエルフである。森の中で追いつける者はいない。体全体で全能感を感じている。
「やっぱりレベル5って素晴らしい」
冬の森が輝いて見えた。世界があかりを祝福している。
「おめでとう!あかり」
「あかり、すごい!」
風の音がそう聞こえる。思えば長かった。あのお兄ちゃんもちょっとは良いところがある。たまには褒めてあげないとな。
トロールの谷から上流に向かってみる。しばらく走ると、突然森を抜けた。広範囲ながけ崩れでもあったのか、ゴロゴロとした大岩が転がっている。人がいるようにも見えない。森の生き物もいないだろう。木も生えていない。
「ちょうどいいな」
せっかくなので軽く魔法の練習をしてみよう。森で試すには強力すぎる魔法を詠唱する。
ᚠᚱᚮᛘ ᛒᛂᛐᚥᛂᛂᚿ ᛐᚼᛂ ᛚᛁᚵᚼᛐ ᛆᚿᛑ ᛐᚼᛂ ᛑᛆᚱᚴᚿᛂᛋᛋ, ᚠᚱᚮᛘ ᛐᚼᛂ ᚡᚮᛁᛑ ᚮᚠ ᛐᚼᛂ ᚢᚿᛁᚡᛂᚱᛋᛂ, ᛒᛂᛐᚥᛂᛂᚿ ᛐᚼᛂ ᛐᛁᛘᛂ ᛆᚿᛑ ᛐᚼᛂ ᛋᛔᛆᛍᛂ, ᛐᚼᛂ ᚠᛁᚠᛐᚼ ᚵᚱᛂᛆᛐ ᛔᚮᚥᛂᚱ ᛋᛔᚱᛁᚿᚵ ᚢᛔ ᛐᚮ ᛐᚼᛂ ᛔᛚᛆᛍᛂ ᚥᚼᛂᚱᛂ ᛁ ᛍᚮᛘᛘᛆᚿᛑ.・・
中級攻撃呪文マジックボムを発動した。岩場の真ん中に純粋なエネルギーの塊が発生する。エネルギーは光となり衝撃波を伴い広がる。広がる光の中で岩が砕け、飛び散り、岩陰にいたいくつもの姿も巻き添えになり粉々に吹き飛ぶ。爆風で死体の破片が飛んできてその辺にベチャっと落ちる。
「やっちゃった?」
◇
「ウェンさんがあかりに話があるって」
「えー」
あかりはウェンさんのことが苦手なようだ。
「あの人、シャリのほうが好きみたいよ。ロリコンっぽいし」
「シャリは渡さないから」
「私はいいの?」
「いや、そういうことじゃなくて」
「話をまとめると、もっと冒険者に来て欲しいんだって」
「村おこしみたいね」
みたいじゃなくてそのものだけど。
「あかりは王都にも行ったことがあるんだよね」
「うん」
「やっぱり冒険者ギルドとかあるの?」
「ないよ」
「ラノベだとだいたいあるよね?」
「ギルドっていうのは既得権益側が新規参入を阻止するための組織よ。冒険者みたいな自由業になるのを阻止できるわけないでしょ」
「まあ、ラノベの冒険者ギルドってたいていやってること役所だよな」
「魔石の流通を独占するみたいなことでもないと冒険者ギルドなんてただのファンタジーよ」
「エルフがファンタジーとか言うなよ」
あ、エルフで思い出した。
「それで、ウェンさんなんだけど」
「えー」
◇
「そういえば、なんかいたわよ」
「ゴブリン?」
「そうかも」
「話を聞かせてくれ!カトリーヌ様」
「どこからでてきたのよ!」
「えーと、トロールの谷から上流のガレ場?」
僕が確認する。
「石をひっくり返したらわらわらって」
あかりが雑な表現をする。
「虫みたいな言い方だな」
「さっそく行くことにする。情報を感謝する」
「あ、待って」
カトリーヌは微笑む。
「私たちも行くから」
――
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森を走るあかりちゃんの挿絵を置いておきます
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652168514522
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