第31話 ゴブリン
結局、明日の朝集合ということになった。
「あかりはゴブリンにはもう興味ないんじゃなかったの?」
「まあね、レベル5ともなるとゴブリンどころかバグベアも誤差だけどね」
「じゃあなんで」
「お兄ちゃんをレベル4にするのよ」
「えっと」
「ひょっとして、シャリのレベル上げちゃ駄目って言ってる?」
「私はそんなに狭量じゃないわよ」
あかりは顔をしかめて言う。それでも美人なのはすごい。
「駄目って言ってるんじゃないの。よく考えてって言ってるの」
「自粛の要請的な?」
「よく考えてよ……」
あかりが目の前に来る。整った顔が僕の顔の前20cmに迫る。
「レベル6という人類の偉業を見届けたくないの?」
「人類じゃなくてエルフじゃない?」
「差別はよくないわ」
◇
夜。今日はシャリの寝顔を見ながら左向きに横になる。
『やっぱりかわいいなー。天使だな』
あかりとは違ったタイプの美少女だ。あかりは美人だがシャリは純粋に可愛い。いや、でももうちょっとしたら美人になるかも。目立たないように隠しとかないと。僕のだから。
シャリがこっちに寝返りを打って抱きついてきた。僕と抱き合う形になる。目の前にシャリのかわいい寝顔がある。つるっとしてぷにっとした子供の肌。そしてさらさらと流れる金髪。目を閉じている。
「本当に寝てるのかな?」
シャリの体に回した僕の右腕は小さいお尻の位置にある。そのままお尻を撫でてみる。
お尻であっても皮下脂肪をほとんど感じない。プルンとしている。右腕で背中からおしりにかけてをゆっくりと撫でる。
『なんかネコみたいな感触だな』
「起きてる?」
後ろからあかりが耳元で囁きかけてきた。
シャリの尻を撫でていた手をピタッと止めて寝たふりをする。
あかりが僕の背中に寄ってきた。ぐにゅっと胸が当たって潰れる感触が薄手の寝巻を通して伝わってくる。あかりはいつも下着をつけていない。
「寝ちゃったかな……」
あかりは僕の背中に引っ付くと、その右腕を僕の右脇の下に差し込んできた。そのまま腕を回してくる。細い指先がさわさわと僕の左胸を這いまわる。
寝てるから!
あかりの右手は僕の左脇に到達すると、定位置を見つけたように侵攻を止める。手のひらをゆっくりと開いたり閉じたりしながら指先だけで僕の肋骨の位置をまさぐる。
「ねえ」耳元で囁かれる。
突然あかりは僕の耳たぶを舐めてきた。
柔らかく濡れた舌が僕の耳の形をゆっくりとなぞる。
やばいかもしれない。
あかりの舌が耳の穴に入ってきた!
状況を整理しよう。
左側のシャリは僕と軽く抱き合ってすやすやと寝顔を見せている。そして僕の右手はシャリのお尻を軽く掴んだまま。右側にいたあかりは僕に後ろから抱きついてその胸を背中に押し付けてくる。あかりの右手の指が僕の左の肋骨で遊んでいる。そして僕は耳の穴に舌を突っ込まれたところ。
反応を出さないように耐える。
「寝てるかな」
耐え切った!
「耳、触らないでいいの?」
そう言えばそういうのありましたね。寝たふりを続ける。
「お兄ちゃん、会いたかったんだよ……」
そうだったね。
「あかりは何年も何年もお兄ちゃんを探したんだよ……」
すごいな。
「ずっと寂しかったんだよ……」
よく頑張ったな。
「どうしてお兄ちゃん私には冷たいの?」
えっと、そんなことなくない?
「その子がそんなにかわいい?」
いや、かわいいでしょ。それに……
『あかりもかわいいよ』と言おうと思ったけど、他の女の子の尻を撫でながらいうセリフでもないかな。
とりあえず寝たふり。
あかりも寝たみたいだ。
明日も早いしもう寝るかな。
(・・おにいちゃん・・)シャリの声がする。
目の前のシャリは寝たままだ。口も閉じたまま。
(・・いまおにいちゃんの心の中に直接語り掛けています・・)
あ、チョーカーの宝石か。
(・・私の質問に『はい』なら一回、『いいえ』なら二回で答えて・・)
僕はシャリのお尻を一回揉む。
(・・結局、おにいちゃんはあかりおねえちゃんを選んだの?・・)
お尻を二回揉む。
(・・シャリを選ぶの?・・)
お尻を一回揉んで、すぐ二回揉む。
(・・そうやってすぐ誤魔化す・・)
お尻をつまんでみる。
(・・まあおにいちゃんぽいけど・・)
一回揉む。
(・・寂しい思いをさせてごめんって言ったよね・・)
一回揉む。
(・・さびしいんだけど・・)
一回揉む。
(・・シャリ、おにいちゃんがいないと死んじゃうって知ってるよね・・)
もみ
(・・どうしておねえちゃんといつもべたべたしてるの・・)
もみもみ
(・・二人は兄妹なんでしょ・・)
手が止まる。
(・・シャリはおにいちゃんの妹なの?・・)
……
シャリの顔がそっと近づく。
唇を合わせてくる。
そっとキスをする。
(・・おやすみ・・)
もみ
おやすみ。
あかりの指が僕の左わき腹をつねった。
◇
ウェンさんと従卒二人が迎えに来た。
僕はいつもの装備に加え、腰に手斧、背中のバックパックにはスコップを括り付けてある。最近、槍の間合いに入り込まれることが多いので斧術の練習をしているのだ。スコップは以前の教訓だ。どちらも鍛冶屋のおじさんに作ってもらった。お金ってホント素晴らしい。
トロールの橋の所から川に沿って上流に向かう。前回はスタミナ切れだった僕もスタミナの恩恵とレベルアップの効果で全く疲労感がない。むしろ前回よりレベルが下がったシャリを心配するが、さすがにレベル4だけあって大丈夫みたいだ。
あかりが言ってたガレ場に来た。中央にクレーター。直径10mぐらいあるのでは
「これあかりがやったの?」
「えっと、ちょっと調子よかったから」
それじゃあこの辺で
『気配察知!』
いないなあ。でもこの恩恵は土の下には効かないから下にいるのかもしれない。
「どうします?」
僕はウェンさんに聞いてみる。彼が責任者だからね今回。
「そうだな」
騎士は軽い感じで答える。
「餌でも撒いてみるか」
「餌ってそれなんですか!?」
ウェンさんがクレーターに金貨をばらまいた。
「妖精はキラキラしたものが好きだからな」
「こないだの焼肉は?」
「あれは上司の発案だから」
僕らは隠れて森から見ることにした。本当にゴブリンが出てくるのか。
・・
『まじかよ』
地面にぽこぽこっと穴が開いて1mぐらいの姿が幾つも出てきた。金貨を見ると興奮したように集まってくる。
「高い餌ね」
「回収すればよいですからカトリーヌ様」
騎士はそう答えると従卒に指示を出す。
「掛かれ!」
ゴブリンを倒して金貨を回収すると、地面に空いた穴を観察する。直径は50cmぐらい。奥は深い。
「これ、どうするんですか?」
「もちろん、掘る」
騎士は荷物からスコップを取り出す。従者たちもスコップを取り出した。
・・
僕たち兄妹はその辺をうろうろしながら穴掘りの様子を見学する。大人の男たちだけあってざくざくと掘れてはいるのだが……
「深いし、曲がっている」
うんざりした感じでウェンさんが言う。
「土の加護使いを連れてきた方がよかったな」
「これ、本当に下まで掘るんですか?」下ってどこかは知らないけど
「ゴブリンは土の妖精ではないからそこまで深い穴は掘らないはず。下に洞窟でもあるんではないかと思うんだが」
ウェンさんはなかなか妖精に詳しいようだ。この辺妖精しか出ないからな。
「他にも穴があるかもしれないから君たちも気を付けて」
「はい。あれ?」
踏み出した足元がすかっとした。見ると地面に穴が開いた。慌てて避けようとした時、周りの地面ごと崩れてきた。
「うわ!」
地面が崩落する。
「手を繋げ!」
僕は左手を伸ばす。妹が僕の手を掴む。そしてそのまま。
僕たちは深い穴の中に転落した。
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