第29話 ボス
「シャリの想いがおにいちゃんに通じたのね!」
シャリと手を繋いでダンジョンを歩く。
「どうして私達ダンジョンにいるのかしら」
「それなんだが」
「だから、ダンジョンの定義ってなんなの?」
あかりに尋ねる。
「自分で言ってたじゃない」
「えっと……モンスターがリポップしてボスが居る?」
「そんな感じ」
歩きながらあかりが説明する。
「ダンジョンの特徴は不自然な生態系ね」
「トロールは自然なの?」
「あれは妖精だから」
微妙に納得できない。
「ところで」ふと冷静になる。
「なんで僕たちダンジョンにいるんだろう?」
「それなんだが」
「着いたわ!」
通路の行き止まり、目の前にいかにもな感じの大きな両開きの扉がある。扉を背にしてあかりがこっちを振り返る。今日のチュニックは胸元が大きく開いてる。両手を腰に当てて胸を張る。ちょっと揺れる。
「ボス部屋よ!」
◇
「盛り上がってきたわね!」
なんか嬉しそうなあかり。
「ところで聞くけど、ここってシャリの夢の中なんだよね?」
「そうよ」
「なんでウェンさんがいるの?」
「それなんだが」
あかりが騎士を見つめる。
「んっと、ストーカー?」
なんと!
「ロリコンのストーカーとかどうなの?」
騎士をキリッと睨んで問い詰めるあかり。美人ってこういう顔もきれいなんだな。
ていうか、ウェンさん、てっきりあかり狙いかと思ってたよ
「違います!カトリーヌ様!」
「シャリはこのおじさんが好きなの?」
「シャリはおにいちゃんが好き」
「じゃあなんでこの人がいるのよ」
「カトリーヌ様!」
「なによロリコン」
「ここはわたくしの夢の中です」
◇
どうも、ウェンさんはこのところ毎夜、二十年前に遭難したダンジョンの夢にうなされているらしく、なぜかその夢にシャリが入り込んでしまったらしい。理由は分からないが夢に論理性を求めてもだし。
「当時、我々のパーティーはさっきの広間でオーガに出会い、半数をおいて逃げ出した」
彼は当時の話をする。
「なんとか逃げ出せたのは三人。残りの三人は生きてはおらんだろう」
ハードな話だ。
「恋人がその中にいたんだ。茶色い髪で白い肌、緑の瞳、やさしい子で、いつも微笑んでくれれて……」
騎士は目を瞑って俯く。
「なのに、もう、顔を思い出せない……」
柔らかな光が広がる。シャリが騎士に触れている。癒しの恩恵だ。騎士は顔を上げる。シャリはさらにプロテクションを騎士にかける。
「シャリが、守ってあげるから」
『なんか、寝取られ感ある!』
◇
シャリが僕らの傷を癒やす。僕とあかりにはさっきプロテクションをかけてある。最後に、僕とシャリとウェンさんに攻撃力付与をかける。そして。
僕と騎士とで、両開きのドアを、蹴破る!
攻撃力付与された二人に蹴られたドアは、そのまま奥に吹き飛んでいった。
ドアの向こうは広間だ。五十メートル四方以上あるだろう。奥の方にオーガが六体並んで立っている。そして、その奥に大きな岩の玉座、そこには一層大きなオーガが錫杖を持っている。ボスかな。
あかりが呪文の詠唱を始める。マジックミサイルより遥かに長い、力の言葉。
前衛は僕とシャリが並んで左から、そして右からは騎士が出る。
オーガ達は動かない。妙だな。
『気配察知!』
左の奥、玉座からちょっと離れたところに気配。一体のオーガが物陰にいた。少々小柄で、装飾があり、木の杖を持っている。呪文の詠唱らしきものをしている。オーガの魔法使いか。
槍を構える。
『縮地!』
数十メートルを瞬時に移動し、僕はオーガ魔法使いの胸に槍で大穴を開けた。
・・
オーガ達のところにあかりの魔法が発動した。広範囲魔法であるマジックストームだ。魔法の刃が飛び交い、オーガに切りつけていく。
魔法が消えてもオーガ達はまだ立っていた。僕はベルトポーチからごろごろと小鉄球を取り出す。槍を作るときに頼んで作ってもらったものだ。
投擲を開始する。
六体のオーガは二体ずつに分かれた。二体はそのまま護衛なのか残っている。二体は僕の方へ、二体はシャリ達の方へ。
投擲を続け、二体が目の前に来たとき、シャリの方へと縮地を発動する。シャリの前のオーガに後ろから槍を突き立てた。オーガはそのまま前に倒れ、シャリが頭を粉砕する。そしてもう一体はウェンさんが倒したところだ。
あかりのマジックストームが再び炸裂した。ボスオーガの周りに魔法の刃が荒れ狂っている。うっかり近寄れない。
さっき投擲で引き回した二体のオーガがやってくる。一体はウェンさんが接敵した。もう一体の脚に槍を突き刺して、引き抜く。振り回してくるこん棒をぎりぎりで回避し、今度は顔を狙って突きを入れる。オーガは棍棒で槍を撥ね飛ばそうとする。シャリが足元に走りこみ、オーガの向こう脛をメイスでフルスイングする。
『これいつも痛そうなんだよな……』
オーガが膝をついた。首を狙って突く。オーガが空いた手で槍をつかもうとする。シャリがオーガの足首を砕いた。オーガは転倒する。もう一度首を刺す。
体の中から力が湧き上がる。レベル3だ!
二回目のマジックストームが終わっていた。ボスのところにはもう一体しかいない。魔法強すぎでは。
ボスオーガが錫杖を振りかざした。なにかの特殊攻撃か?距離はまだ数十メートルあるが……僕は槍を構える。さっきレベル3になったばかりだ。
『縮地!』
ボスオーガのところに瞬間的に移動し、その胸に槍を突き立てる。
槍はその衝撃に耐え、ボスオーガを貫いた。ボスオーガが左手で自分に刺さった槍を掴んで抜こうとする。僕の後ろから五本の光の矢が飛んできて眼の前のボスオーガに突き刺さる。咆哮を上げボスオーガが錫杖を振り回す。そこにさらなるマジックミサイルの群れが着弾する。
ボスオーガはそのままひっくり返って倒れた。黒い煙になって消える。僕の槍が地面にカランと倒れる。
そして、なんだろうこれ。
『ボスの錫杖?』いや、サイズは明らかにさっきのより小さい。
手にとってみる。金属の棒の先にギザギザの金属の塊。錫杖というよりメイスかな?
あかりが駆け寄ってきた。とりあえずハイタッチする。
シャリがゆっくり歩いてきた。その後ろをウェンさんがついてくる。
「おにいちゃんは助けてくれると信じてた」
「シャリ!」
僕はシャリを抱きよせる。なんてかわいいんだろう僕の妹は。誰にも渡さないから。
ウェンさんの顔をちょっと睨んでおいた。
◇
「ダンジョンといえば宝箱よね!」
「そういうもの?」
「いらないの?」
「いる」
金貨だ。百枚以上ある。こないだとちょっと模様が違うかな。
「これ、持って帰れるのかな?」
「持って帰ってから考えようよ」
「どうやって帰るの?」
「うーん、これかなあ」
あかりは鍵を取り出した。
「ウェン殿」
「はい、カトリーヌ様」
「ここにちょっと座って」床に座らせる。
「これでよろしいですか?」
「はい。じゃあちょっと目をつぶって」
あかりは鍵をウェンの後頭部に差し込んだ。そして回す。
世界がぐるぐるっとぼやける。ちゃんと帰れるんだろうね。
◇
金貨は持って帰れた。みんなで山分けする。
ボスのドロップアイテムはメイスだった。あかりの鑑定では結構良いものらしいのでシャリに使わせてみる。
なお、ボスはオーガロードという名前だったらしいがこの際どうでもいいや。
例の声だがチョーカーの宝石だった。強い想いを相手に伝える魔法の石だそうで、嘘ではない本当の気持ちしか伝わらないとのこと。シャリが時々練習していて頭の中に「おにいちゃん大好き」という声が聞こえてびっくりする。
◇
『どうしたもんかな』
目の前にある数十枚の金貨を前にしてウェンはため息をつく。分け前として配分されたものだ。
宝箱の金貨はすべてローヌ帝国のコインだった。
――
フィン:レベル3(up)(人間:転生者)
・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート(new)
シャリ:レベル4(人間)
・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド
あかり:レベル5(エルフ:転生者)
・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒
――
次回より新章。ついに最終ダンジョンに突入!
ぜひ★★★評価をお願いします!
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https://kakuyomu.jp/works/16817139559030247252#reviews
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