80 カミノカミ

「紙?」

メイの新しい恩恵には紙が必要とのこと。

「紙って売ってないの?」

「羊皮紙しかないですね」

なるほど。中世ヨーロッパっぽいな。


 まず木の皮を集める。和紙だとコウゾやミツマタだったっけ。この世界にあるか分からないので皮の繊維が丈夫そうな雑木を探して大量に枝を刈ってきた。理論上は叩いて水にさらして繊維にして漉けばいいんだよな。試作してみよう。


 まずシャリにバンバン叩いてもらう。メイスの恩恵でたちどころに粉砕。ぐちゃぐちゃになった枝を水槽に入れてかき混ぜると茶色っぽいドロドロになる。

 繊維っぽい部分に着目してそれ以外は『クリーン』すると白い繊維になった。ここでメイの出番。

「形状加工!」

一発で紙になった。インチキっぽいがこれで完成?


 メイが今作った紙を切ったり折ったり字を書いたりしておふだのようなものを作る。

「一応完成です。試してみましょう」

メイがお札を投げて何か唱えた。


「ワンワン!」


 お札が犬になったよ。

「まさかの陰陽師!」


 メイの家の裏で紙を量産した。ちょっとした密造工場だ。こういうラノベあったよね。



「パウル司教様がお見えになるそうです」

メイが部屋に入ってくるなり言った。部屋には僕とシャリだけであかりはさっき出掛けたところ。森でも走ってるのかな。


「こないだの司教だよね」

「そうですけど」

目を付けられたかな。とりあえず前と同じに隠ぺいを僕たち三人に掛ける。メイはバタバタと着替え中。


「メイ様、お客様がお見えになりました」

使用人が呼びに来た。おしゃれ着に着替えたメイが出て行った。


「おにいちゃん、今のメイちゃんの着替え見てたでしょ」

「姉だからセーフだよ」」

っていうか、下着も水着も似たようなもんじゃない?


・・


「フィン様、シャリ様、お客様がお会いしたいとのことです」

「今行きます」

やっぱりそうなるよね。そう思って僕らもこの間の服に着替えておいた。


「フィン君と、シャリさんだね。元気そうだ」

「こんにちは。パウル司教」

司教はメイの両親のほうを向く。

「すいませんが、この子たちだけと話をさせていただけませんか」


・・


「この間のレベルの話を覚えているかね」

「ええまあ」いきなり核心から来たよ。

「人はレベルを上げる事で神の御意志に沿う。神は恩恵を持って答えてくれる」

「そう聞きました」

司教は手元にあった小箱を開けた。集中線の入った星形の彫刻。

「これは恩恵を示してくれるものなのだが、ちょっと触ってみてはくれないか」


 僕とシャリとメイが一回ずつ触る。ふわふわと光が浮かぶ。

「なるほど。レベル3、レベル2、レベル2というわけだ」

「そうですね」

「ところでフィン君」

司教は僕の顔を見つめる。


「君たちは最近二回も王都ダンジョンに行ってるよね」

「えっと、そうですかね」

「その日の記録にはレベル3の入場者はいなかったようなんだが」

「記録漏れじゃないですか」

「そういえば君たちと一緒にエルフの女性がいたな」

「えっと、いま留守にしてます」

「さっき出ていくところを見させてもらったよ。レベル5だったな」

「エルフのことなんでちょっとそこまでは」


「そういえば、メイさん君は転生者だったね」

「よくわかりましぇん」メイの声が緊張で裏返っている。


「別に取って食おうというわけじゃない」

司教はソファーに深く座りなおした。

「君らが警戒しているのはわかる。いくつか説明させてくれ」


「神は二つの力を人に与えてくれた。一つは君たちに説明したように恩恵だ。そしてもう一つは転生者だ」

『えぇ』いやちょっと何その話。


「恩恵がなければ人はもう滅んでいたかもしれない」

「まあそうかもしれませんね」

「そして転生者がいなければこの世界は衰退する」

「そうなんですか?」

「この世界は人にとって厳しい。文明の進歩を待っていては滅んでしまうかもしれない」

司教は口をつぐむ。


「それではそろそろ失礼しないと」

この話そこで止めるの?えっとえっと。


「そうだ司教様」

「何だいフィン君」

「ダンジョンって何ですか?」


 司教は僕の顔をじっと見る。

「ダンジョンは神の使徒だという者もおるし、中にはダンジョンを神としてあがめる者もいる。しかし私に言わせればダンジョンというのは」

「ダンジョンというのは」

「神のゲップのようなものじゃないかな」

なにそれ。

「それでは本当に失礼するよ」



「思わせぶりだったな」

「シャリは悪い人だとは思わないな」

「何が言いたかったのでしょう?」

「多分、僕らに敵意がないことを示しに来たんだと思う。そしてわざわざ来たってことは教会には敵がいるのかもしれない」

「めんどくさいですね」

「こういうのはあかりに任せよう」


・・


「おじさんとか勘弁してほしいんだけど」

「あかりって実はおじさんキラーだよね」

「誉め言葉でもなんでもないしそれ」


「一応僕のほうで分かったことはね、まず僕たちは見張られてる。それから転生についての責任者の情報がある」

「責任者って誰?」

「神」

「えーうーん」

あかりが考えこむ。

「会ったら文句言わないと」

神に?


――

挿絵はメイちゃんと犬です

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652987159509

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