142 日本への道

 西の果ての町、宿屋の部屋の魔法陣はまだ残っていた。宿代を半年分払ってあったのだ。


「この街も久しぶりね」

王女が町を歩きながら言った。実際はそれほど久しぶりでもないんだけど、色々あったからな。


「私はね、この世界を私たちの手で動かしていきたいの。正直、神とかいう存在にはうんざり」

「そうだね、シャルロットなら出来るんじゃないかな」


「フィン!ただいま!」

宿の前で市場での買い物から帰ってきたメイに出会った。といってもアイテム化が使えるので荷物はほとんど持っていない。


「メイ、シャリとあかりは?」

「もう二人とも部屋に行きましたよ」

「そうか」


「ただいま!」

「おかえり、おにいちゃん!」

「おかえりなさい、お兄ちゃん!」

二人の妹が出迎えてくれた。


・・


「レベルアップパーティーだよ!」


「無礼講よ!」

「それでは、みんなで」


「シャリ、レベルアップおめでとう!」


 ぱちぱちぱちぱち。


「まあ、お兄ちゃんはレベル1だけどね」

「人間、レベルじゃないから」


・・


「結局、行くのは三人だけなの?」

王女の問いかけに僕らはうなずいた。僕、シャリ、そしてあかり。


「私は残ります」

メイが王女に言う。

「メイがいてくれれば心強いわ」

メイに抱きつく王女。なんか尊い。


「ところで、メイに僕からプレゼントがあるんだ」

「なんですか?」

「それじゃこっち来て」


 メイを近くに寄せる。


「目をつぶって」

「はい」


 メイの頭の後ろにそっと右手を添える。黒髪に映える白い顔がほんのりと赤く染まるとちょっとだけ上を向く。唇が軽く開く。


 僕はメイに顔を寄せると、そっと唇を合わせた。


恩恵接続スキルコンタクト!』


 メイとの間に恩恵回路が形成される。


恩恵譲渡スキルトランスファー


 メイはびっくりしたように目を開けるが、右手に力を入れて頭を動かさせない。僕の中から一つの恩恵がメイに流れ込む。メイの体から力が抜けていくのを左手で支える。


「はあ」


 口を放したけど、メイは荒い息をしながら僕の顔を見ている。そして、また僕に抱きついてきた。

「フィン、また会えるよね」

「会えるよ」


「おにいちゃんとメイちゃん、雰囲気出し過ぎじゃない?」


――


メイ:レベル9(人間:転生者)

・恩恵:衣装製作、アイテム化、投げナイフ/ダーツ使い、エンチャント、形状加工、紙の神、上級錬金術、アイテム合成、物体複写、保留[保留中×82](new)


◇◇◇


 空に三つの月が重なる時が来た。


「行ってきます!」


 メイと王女と別れる。レベル1ではあんまりだと、出る時に二人がデポジットしてくれた。左右からキスされてちょっとにやついて・・・・・いたらシャリがジト目で見てるけどこれはそういう恩恵だからしょうがないんだよ。


 虫のダンジョンに入るとあかりがエレベーターを使う。


「お前たち、戻って来たか」


 いきなり狐の前。


「僕たちは日本に戻ることにしました」

「シャリも一緒」

「私も一緒よ」


「なるほどそうか……それではこっちに来給え」

きつねの後をついて祠の前に来た。


「ここを通れれば日本だが、この先には武器も魔法も効かない壁がある。この世界の者と行くのであればそこを通らなければならん」


 不穏なことを言ってるけど、いままでも何とかなったんだから何とかなるだろう。


「わかった。狐さん、ありがとう!」

僕は両手でシャリとあかりの手を繋いだまま祠の中に入っていく。



 祠の扉をくぐり、通路を歩く。周りは暗く、ライトを使っても見えない。ただ通路だけが灰色に見える。


 歩きながらあかりが話しかけてくる。

「壁ってどういうものかしらね」

「定番だとお前自身だってやつだよね」

「それはさすがに何番煎じ?みたいな?」

「だったらスフィンクスみたいなやつとかかな」

「ねえ、おにいちゃん」

シャリが僕の手を握りしめてきた。


「なんだいシャリ」

「おにいちゃん達って、日本だと毎日何しているの?」

えっと、そういえば行った後の話ってしてなかったな。


「おにいちゃんもあかりも、学校というところに行ってるんだよ」

「じゃあ、シャリも日本に行ったらその学校というところに行くのかな」

「うん、そうだよ」

「日本でも毎日一緒だね」

シャリは嬉しそう。正確に言うと中学校な気もするけど、まあ行った後考えればいいだろう。


・・


 歩くこと数十分だか数時間。時間の感覚がはっきりしない。前に壁が見える。


「壁だよ」


 まさかの本当の壁が通路をふさいでいた。石のような物でできたような壁。試しにシャリが手に持ったメイスミョルニルで叩いてみるがびくともしない。


「やっぱり武器も魔法も効かなそうだな」

「どうするお兄ちゃん」

「武器も魔法も効かないなら……」

シャリが盾を構える。


「シールドバッシュ!」


 とんち?


 シャリがレベル100になってから初めて見るけど、シャリがシールドバッシュをするとその衝撃で地面まで揺れる。


 ドカーン、ドカーン

 壁にひびが入ってきた。まじか。


「さすがレベル100ね」

あかりが感心している。それはいいんだけど、壁のひびは入っても見る間に直ってしまう。僕にできることは何かないか……


「そうか、武器じゃなきゃいいんだ」

「どうするの?」

「これ!」


 スコップを取り出す。ヨルムンガルドの宝箱で出てきたやつ。アイテムのレア度でいえばミョルニルやグングニール並みのはず。シャリが壁に開けたひびに突き当てるとちょっと噛んだ感触。行けるかも。


「おにいちゃん、行くよ!」

「OK。シャリ!」


「攻撃力付与!」

「覚醒!」


 そして。

「タイムストップ!」


 シャリが壁にシールドバッシュをする。

「スイッチで縮地で突撃!」

スコップを壁のひびに突き立てた。


「もう一回!」

くりかえす。タイムストップの効果時間は数秒しかない。


「もう一回!」


 三回目のスコップが壁のひびに突き当たった時、タイムストップが解けた。三回分の衝撃が一瞬に集中し、壁のひびが壁全体に広がる。


 壁のひびから光が漏れてきた。壁全体が砕ける。僕たちは光に包まれる。なにも見えない。


「シャリ!あかり!」

僕は妹の手を掴もうと、とっさに手を伸ばして……


――

次回より最終章です


――

挿絵はシャリちゃん

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330654484973403

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