SS 「その後」

 眠りから覚めた時、体の左半分に重さを感じた。ゆっくりと目を開けると、見慣れたアパートの一室。左半身に茶髪の女子高生が抱きついて眠っている。


「起きろよ、あかり」

「あ、おにいちゃん起きた?おはよう」


 寝ている間にあかりが部屋に入り込んできて横で寝ていたようだ。いつものことだけど。


「ところでおにいちゃん、いま、あかりって呼んだよね」

「だって、ずっとあかりって呼んでたじゃん」

「私はシャリだって言ったじゃない!」


 妹の名前はあかりだったんだけど。


「ていうか、いつからシャリだったの」

「ずっと前からだよ。おにいちゃん全然わからなかったの?」

「前からあかりって呼んでたよね」

「おにいちゃんが気が付くのを待ってたんだよ。それなのにおにいちゃんはいっつもあかりあかりって……」


 妹がぶつぶつ言っている。


「そもそもあかりって名前、あんまり好きじゃなかったんだよ」

「なんで」

「おねえちゃんのおさがりっぽくない?」

「そういうもん?」


 まあ、好き嫌いは本人の自由だからね。


「とにかく、今日から夏休みだからしばらくおにいちゃんのところにいるから」

「お前友達いないだろ」

「いいの。おにいちゃんがいれば」


・・


「ところでおにいちゃん、なんで嘘ついたの?」

妹が唐突に聞いてきた。


「嘘なんてついてなくない?」

「ずっと一緒にいるって言ったよね」

「一緒にいるじゃん」

「一緒に学校に行くって言ったじゃない!」

「そうだっけ?」


 考えてみる。


「正確には、シャリもあかりも学校に通うと言っただけで同じ学校とは言ってないような」

「おにいちゃん屁理屈多くない?」

「えー」


「そういえば、あかりはどこにいるんだろうな?」

話題を変えてみる。


「そう、それ考えてたんだけどね」


 こっちの世界に来たことに気が付いてから、向こうで妹だったあかりを探しているんだけどまだ見つかっていない。探すといっても近所をきょろきょろしたぐらいだけど。あと戸棚の中とか。


「まさかエルフのままじゃないだろうし、どんな姿をしているのか」

「妹だったんでしょ」

「そうだけど、それを言ったら……」


 今目の前にいる妹があかりじゃないとしたら、どこにいるのか見当もつかない。


「ネットで検索してみようよ」


 妹がツイッターで「あかり」を検索する。


「無限に出てくるよ」

「向こうから探してもらえばいいんじゃない?」

「おにいちゃん頭いい!」


 妹がツイッターに書き込みをする。


「前世で一緒だったあかりおねえちゃんへ。こちらも転生して覚醒しました。おにいちゃんも一緒です。連絡ください。シャリ」


・・


「ところでおにいちゃん、冷蔵庫空っぽなんだけど」

「買い物行ってなかったから。一緒に行こうか」

「うん!」


 アパートの部屋を出て、廊下を歩きながら妹と話をする。


「やっぱり、あかりって名前はダサいと思うんだけど」

妹が話題をぶり返してきた。


「人の名前にケチつけちゃだめだよ」

「ありきたりな感じしない?」

「そうかなー、日本的でいい名前じゃない?」

「平凡でしょ」


 シャリがまたぶつぶつ言っている。


「じゃあ、平凡じゃなきゃいいの?」

「例えば?おにいちゃん」

「カトリーヌ、とかどう?」

「ないでしょ」

一刀両断。


「えー」


 後ろから声がした。振り返ると隣の部屋のあかりさんが立っていた。


「カトリーヌって、駄目かな?」


――

おしまい


――

挿絵は妹

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330654612037688

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る