93 使い魔

 ダンジョンの四階を横断し、教会ダンジョンの階段を上がる。またもやタイムアタックのように進む。ダンジョン一階の出口前。

『解錠!』

外でカンヌキが開く音。

「どういう原理なのかしらね」


◇(メイ)


 教会総本山。謁見の間。


「よく来た。メイ。それにミスターハーネス」

「お招きいただきましてありがとうございます。大司教様」

メイの父親があいさつする。大司教はうなずく。


「ミスターハーネスはそこでごゆるりと。メイ、冒険の話を聞かせてくれんか」

大司教はメイを連れて謁見の間から自室に入る。メイを豪奢な応接セットに座らせ、自分はその向かい側に座った。


「では、話を聞かせてもらおうかね」

大司教はメイの目を見つめる。メイは大司教の目を見た。青いようなグレーのような目。その目を見ると、何かに捕らわれたように意識が薄まってきた。


「どうやって恩恵を授かったのかね」


「ダンジョンで冒険したんです」

「ダンジョンでは危ないことはなかったのかね」

「フィンが守ってくれたんです」

「フィンとは誰かな」

メイはにこっと微笑む。


「婚約者です」


◇(フィン)


『メイの持ってるアイテムがわかればロケート出来るんだけど』

あの宝箱とか思い浮かべるがロケートが効かない。アイテム化を掛けてあると別物扱いされるようだ。

「メイって今日、どんな服着てたっけ?」

「おニューの黒地に白レースのワンピースだったわよ」

「えー」覚えてない。ていうか今時おニューって言わなくない?


「女の子が新しい服着てたら褒めないとダメでしょ」

「今日の朝ってそれどころじゃなかったよね」

メイの装備をいろいろ思い出すが反応がない。全部アイテム化されてるみたいだ。えーとえーと。


『!』

反応があった。ビキニアーマーだ。服の下に着ているのか。


「あっちだ!」


◇(メイ)


 大司教はメイに訊ねる。目を逸らさない。

「つまりそのフィンと一緒にダンジョンに行くと恩恵を授かるわけだな」

「冒険じゃなくても授かります」

「たとえばどこでかな?」

「納屋とか」

「どうやってかね?」


◇(フィン)


 教会の中は入り組んでいて真っすぐ進めない。ロケートの恩恵は方向しかわからないので距離がつかめない。それでも三角測量の要領で位置を変えながら何度も計測する。


「僕の計算だとこっちの方向にあと40m」

「壁が邪魔ね」

あかりが壁を叩く。


「さすがに壊すと目立つよ」

「それじゃあ」

あかりは思案している。口がとがっている。


「お兄ちゃんとシャリ、私につかまって」

そして、あかりが短い呪文を唱える。


 周りの様子がいきなり変わった。薄暗い通路から豪華な部屋。本がいっぱい。そして豪奢な応接セットに座っているのはメイと大司教。

「成功だわ!」


「メイ!」

「あ、フィン!どうしたの?」

「なんだね君たちは。どこから来たのかね」

「いやちょっと大司教様にお目通り願おうかと」

「お前はこの間メイと一緒にいた子供だな。そうかお前がフィンか」


「だったら?」

僕は大司教をにらみつけた。


「それならばちょうどよかった」

大司教も僕をにらみつける。

「我の目を見るのだ」


「これは、シャリと同じ催眠術……」

意識が飛びかける。精神耐性を働かせ必死で耐えるが、こいつはレベルが高い。


「おにいちゃん!」

左手を握られて意識が戻ってきた。シャリだ。

「お兄ちゃん!」

右手を握る手。あかりだ。意識が回復する。恩恵を発動。

「覚醒!」


 完全に回復した。こんなもの、夜の特訓に比べればどうということはない。


「お前の催眠術など効かない!」


 僕はそう叫ぶと、腰から槍の柄を引き抜き、2mまで伸ばす。隣でシャリがメイスを握る。ところで大司教って殴り殺しちゃっていいのかな?


 大司教は手に持った錫杖を掲げた。シャリンと鈴の音。大司教がなにかを唱える。

周りの風景がぼやける。辺りを黒い闇が覆う。


・・


「部屋が少々手狭だったものでな。こっちに来てもらった」


 僕らはなぜかダンジョンの大広間にいた。直径は30mほど。薄暗く、天井は高い。大司教は天井の近くに浮いている。その横には10mもあろうかという巨大な蜘蛛。見覚えがある。


「これは我の使い魔でな。君たちには少々おとなしくしてもらおう」


 巨大蜘蛛夢を編むものは天井に貼りついたまま尻をこちらに向け、その先から太い白い糸を放出した。太い糸がメイの体に巻きついた。そのままメイを天井近くに吊り上げていく。


「メイ、今行く!」

僕はそう叫ぶと、アイテム化してあったマントを実体化した。マントが翻ると僕の体がふわっと浮き上がる。


「大丈夫です!」

メイが僕に向かってそう叫ぶと、蜘蛛の糸に絡まっていたメイの服が消える。ビキニアーマーを着た半裸のメイが落ちてきた。空中でメイを受け止め、最大限にマントを広げて揚力を上げる。重さは相殺しきれず地面に衝突したもののスピードを減衰できたのでダメージはほぼない。


 天井を見上げると、メイのいたあたりの蜘蛛の巣に樽が貼り付いている。

「置き土産よ。あかりちゃん、攻撃して!」

あかりの口元がニヤッとした。詠唱破棄で魔法を使う。


「マジックボルト!」

あかりの手から白いエネルギーの光線が発生し、太い奔流となって天井の巨大蜘蛛に命中。そしてメイが置いてきた樽が誘爆する。


 ドガーーーン!!


 すさまじい爆音と爆風。部屋の上半分を覆いつくすほどの火球が発生して巨大蜘蛛と大司教を飲み込んだ。


・・


 天井から巨大蜘蛛が落下してきた。あちこち焦げて煙が上がっている。


「おにいちゃん、攻撃力付与!」

蜘蛛に向かって槍を最大まで伸ばし、ついでに炎を纏わせる。

『縮地突撃!』

5mほどに伸ばした炎の槍が巨大な蜘蛛の頭部に突き刺さった!


「おにいちゃん!」

シャリが僕と入れ代わるように飛び込むと猛スピードで攻撃を始めた。巨大蜘蛛に駆け上がって目を潰している。


「メイ、さっきのもう一個ない?」

「あります!」

ビキニアーマーのメイが太腿から一本のダーツを取り出す。


「みんな、離れて!」


 メイはそのダーツを巨大蜘蛛の口の中に投げ入れる。コマンドワードを叫ぶと、ダーツになっていた樽が実体化して巨大蜘蛛の口に吸い込まれていく。そして。


 ズグウォーン!


 くぐもった爆発音。巨大な蜘蛛の口から、そして体のあちこちから、白い煙が噴き出した。巨大な足に力がなくなり、そのまま崩れていく。


 僕の体の奥から力がこみ上げてきた。レベルアップだ!


――


フィン:レベル4(up)(人間:転生者)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎、クリーン、テイム(妖精)、言語理解、耐熱、隠ぺい、盾術、力持ち、覚醒、突撃、予知、解錠、反射(new)


シャリ:レベル5(人間)

・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術、盾術


あかり:レベル6(エルフ:転生者)

・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング、詠唱破棄、空間転移


メイ:レベル7(人間:転生者)

・恩恵:衣装製作、アイテム化、投げナイフ/ダーツ使い、エンチャント、形状加工、紙の神、上級錬金術


――

こちらに挿絵があります

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652354562169

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る