94 天使

 周りの景色が元に戻った。さっきまでの大司教の部屋。

 あちこち焦げた大司教がこっちを睨みつけている。


「お前たちはなぜこんなことをするんだ!」

いやー、先に手を出したのはそっちだよね?多分。


「まあよい。ちょっと静かにしていてもらおう」

大司教は胸から下げたアミュレットを握った。集中線の入った星形のアミュレット。


「人と恩恵の神よ。そのお力を忠実なるしもべに貸し与えたまえ!」


 ズーンと響く重低音。

 そして天井から光。


 天井近くの空間に、何もない穴が開いた。何もない空間から灰色の姿が現れる。人の形をしているが大きさは人の二倍ほどもある。背中に羽。そして手には剣。


「我が恩恵、天使バーニヤ召喚」

「どう見てもチートじゃん!」


「ふふふ。天使バーニヤ、そいつらを痛めつけろ」

天使は無造作に剣を振った。その先にはシャリがいる。


『庇う!』


反射的に恩恵が発動。シャリを抱きかかえて転がる。剣が僕らが今までいた空間を通過した。上半身は避けたが足が残った。


 バシュ。


 鈍い音。遅れて両足に激痛。見ると、僕の脚がない。さっきまで居たところに脚だけが転がっている。

「さあ、大人しくお前の持っている恩恵を渡してもらおうか」

大司教が言い放つ。


「おにいちゃん!」

シャリが僕を抱きかかえて青い顔。

「ヒール!」「ヒール!」

立て続けに癒しを掛けている。出血は止まったようだが痛みは止まらない。なんで脚がないのに痛いんだろう。

 そんなことを考えると、シャリが僕の顔を見つめている。僕は朦朧とした意識でシャリに言う。


「シャリ、逃げろ」

「言ったでしょ。おにいちゃんがいなかったらシャリも死ぬって」


 僕はシャリに抱きかかえられたまま口づけをされた。痛くて考えられないが、シャリの腕の中だとちょっとほっとする。

 シャリの舌が僕の口の中に入ってきた。僕の舌とシャリの舌が出会う。シャリの口から僕の口に唾液と共に癒しの恩恵が流れ込んでくるのを感じる。体が温かくなってきた。シャリは僕をしっかり抱き抱えると、自分から仰向けに倒れこんだ。


 ふわっとした意識の中、小さな口が僕の舌に吸い付いて来たのを感じる。薄くて小さな舌が僕の舌を迎える。両手が僕の頭を支え、唾液がシャリの口の中に流れていく。シャリの両手のひらが僕の耳を塞ぎ、ピチャピチャという音が頭に響く。僕も朦朧とした意識で手のひらをシャリの耳に当てて位置を合わせる。


(・・ おにいちゃん、酸っぱいものを考えて ・・)

なんだろう、梅干し?レモン?


 唾液が湧き出すそばからシャリの口に吸われていく。そして臨界に達する。


レベル接続コンタクト!』


 シャリが僕を受け入れ、僕との間にレベル回路が形成される。


レベル譲渡トランスファー!』


完全回復!パーフェクトヒール


 シャリが新しい恩恵を発動。生命のエネルギーが流れ込んできた。脚の痛みが消えていく。見ると、僕の脚は元通りに生えていた。ズボンは半ズボンになったままだけど。


 戦況はどうなった?


・・


 天使はメイの式神と交戦中。大きな鬼の形をした式神はあちこち破れている。

 

 辺りを見回し、大司教を探す。見当たらないが天使の向こう側に気配を検知。僕は槍を構える。

『縮地突撃!』


 槍は空中を泳いだ。確かに大司教をとらえたと思ったのに。


「なるほど、君は多彩な恩恵を持っているようだ。しかし我の回避の恩恵の前にはそういう攻撃は無駄なのだよ」

僕の後ろから声がする。気配察知に何かの反応。声の方向にノールックで縮めた槍を投擲する。


 瞬間的に気配が移動した。

「無駄だと言っているだろう」

大司教の声がする。


「それでは、君の恩恵をもらうとするか」

気配が近づいてきた。僕の頭に手が伸びる。そして大司教の声。


恩恵奪取!スキルスチール


反射!リフレクト


 さっき獲得したばかりの恩恵が発動。そしてさらに新しい恩恵を覚えた。レベルが上がると使えるのかな。


「何だお前の恩恵は。ますます欲しくなってきたぞ。お前の恩恵をすべてもらってやる」

「貴様なんかには負けないこのチート野郎」

「ならばまた足から切り刻んでやろう。天使バーニヤは最も恩恵を多く持つ我の言うことしか聞かぬのだよ」


 そうか。いいことを聞いた。


「天使バーニヤ、大司教を殺せ」

天使が剣を振る。大司教が真っ二つになった。


 僕の体の中から力が沸き上がる。えっと、人を倒してもレベルアップするんだね。


――


フィン:レベル4(人間:転生者)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ、庇う、耐久力向上、罠スキル、炎、クリーン、テイム(妖精)、言語理解、耐熱、隠ぺい、盾術、力持ち、覚醒、突撃、予知、解錠、反射、恩恵奪取(new)


シャリ:レベル6(up)(人間)

・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性、催眠術、盾術、完全回復(new)


あかり:レベル6(エルフ:転生者)

・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒、マッピング、詠唱破棄、空間転移


メイ:レベル7(人間:転生者)

・恩恵:衣装製作、アイテム化、投げナイフ/ダーツ使い、エンチャント、形状加工、紙の神、上級錬金術

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る