77 蜘蛛

 二人で洞窟を進む。どこかに出口があるかもしれない。


 歩きながらケイトさんと話す。

「私ね、ここで待っていればいつか彼が来てくれるんじゃないかと思ってたの」

「難しい判断ですが、ある程度待っても来ないなら自分で脱出した方がいいと思いますけど」

「でも私はここから出られないのよ」

「なんでですか?」


(・・おにいちゃん・・)

シャリだ!


 シャリのチョーカーの宝石をロケートする。この先のほうだ!

「僕の妹たちが見つかりました!」

ケイトさんに言うと驚いた表情。

「この先です!」


・・


「シャリ!」

洞窟の先に妹たちがいた。大声で呼んでから駆け寄る。

「おにいちゃん!」

シャリがこっちを見て叫ぶと駆け寄ってくる。


「それでなんだけど、おにいちゃん」

僕に抱きついたままシャリが聞いてくる。

「なんだいシャリ」

「その女の人は誰なの?」


「この人はケイトさんと言って、パーティにはぐれて迷子になってたところを知り合ったんだ」

「ふーん」

とあかり。

「なんかリアクション薄くない?」

「だって」

あかりが僕を見つめる。やっぱりケイトさんに似てるな。


「ここはお兄ちゃんの夢の中なのよ」


「え?」


 あかりが説明する。

「お兄ちゃんは私の魔法で頭を打って気を失ってしまったのよ」

「そうなの?」

「全然起きてこないし、うなされてるから鍵を使って夢の中に入って来たのよ」

あ、例のフラグのカギね。


「それでだけど、なんでお兄ちゃんの夢の中にこの女の人がいるの?」

「おにいちゃん、何か隠してるでしょ?」

あかりとシャリが詰め寄ってくる。メイもジト目で見ている。


「ちょっと待って!」


 ケイトさんに聞いても、パーティからはぐれて、さまよっていたら僕が落ちていたという話だった。ケイトさんが僕の夢に入ってきてしまった?なんだろう。


「まあいいわ。とりあえずはダンジョンから出ましょう」

あかりはそう言い放つと両手を腰に胸を張る。後ろの壁には両開きの大きな扉。


「ボス部屋よ!」


・・


 鎧は装備しているものの、プロテクションは全員に重ねて掛ける。攻撃力付与は僕とシャリとメイ。

 僕とシャリが並んで扉を蹴り開けた。


「お邪魔しまーす!」


 薄暗い大広間と言うか洞窟。魔物っぽい姿はない。距離感が掴みにくいが30mほどの大きさもあるだろうか。


「いないよ」

「リポップ待ち?」

部屋に入り込むが特に何もない。となると出口は奥かな。


『!』

気配察知に反応があった。ぞわぞわっとする。


「上だ!」


 見上げると高い位置に大きな蜘蛛が見える。そして見えにくいが巨大な蜘蛛の巣が天井付近に張られているようだ。尻から糸を伸ばしながら何匹もの子蜘蛛が降りてくる。


ᛁ ᛍᚮᛘᛘᛆᚿᛑ ᛑᛂᛋᛐᚱᚮᛦ ᛘᛦ ᛂᚿᛂᛘᛁᛂᛋ ᚥᛁᛐᚼ ᚵᚱᛂᛆᛐ ᛔᚮᚥᛂᚱ ᛒᛂᛐᚥᛂᛂᚿ ᛚᛁᚵᚼᛐ ᛆᚿᛑ ᛑᛆᚱᚴᚿᛂᛋᛋ.・・

あかりが呪文の詠唱を始めた。僕はあかりのカバーに入る。

「ケイトさんは僕の横で一緒にカバー入って!」

「了解!」


 先頭切って降りてきた子蜘蛛を槍で突き刺して地面に落とすと、すかさずシャリがメイスを叩きつける。子蜘蛛の頭が潰れて体液が飛び散る。倒したようだ。脚は動いているけど。


 僕らは近寄る子蜘蛛を処理して回る。大半の子蜘蛛は空中で様子を見ているようだが、一斉に飛び掛かってこられたら事だな。


 ギィ、カチカチカチ。


 天井から何かの音が響く。蜘蛛の鳴き声?


「マジックストーム!」

あかりの呪文が発動する。ほぼ同時に子蜘蛛が降ってきた。


 空中にいくつもの光の刃が展開された。魔法の刃が高速で飛び回り触れるものを切断する。通り過ぎた子蜘蛛の脚がパラパラと音を立てて地面に降ってくる。そしてまき散らされる体液。べちょべちょで虫っぽい匂い。


 あかりは続けて呪文をかける。今度は詠唱破棄。

「マジックボム!」

天井付近に純粋なエネルギーが解放された。それは白い光の塊となって広がり、巨大な蜘蛛を包む。


 ドガーン!


 衝撃波と爆風が上からやってくる。まだ上にいた子蜘蛛の焦げた破片がぽろぽろと落ちてくる。そして。


 巨大な蜘蛛が落ちてきた。全長10mぐらいあるんじゃないか。地面に激突する轟音。


・・


「夢を編むもの、かな」

「なにそれ」

「眠れる魂を集めるという巨大な蜘蛛よ。そういう伝説があるの」

「なんでこんなところに」

「知らないわよ。ここはお兄ちゃんの夢でしょ!」


 巨大蜘蛛が動き出した。


 巨大蜘蛛の攻撃パターンを見極める。まず脚先には長剣ほどの大きさがある鋭い爪。しかも八本足なので全方向に攻撃してくる。尻からは糸攻撃。絡めとられたら動けなくなるだろう。口には大きな牙が。どう見ても毒がありそうだけど。

 とはいうものの、ぶよぶよの腹とかダメージ出そうにない。やっぱり頭か。四つの大きな目を見据えながら槍で攻撃する。


 メイのチャクラムが足を一本切り落とした。巨大蜘蛛は一瞬バランスを崩すと巨体をメイに向ける。そして目からビームが。

「まじ?」

光線が直撃したメイが倒れた。


「マジックミサイル!」

大技を使い果たしたあかりがいつもの攻撃魔法を使う。蜘蛛の顔のあたりにヒット。するとまたもや巨大蜘蛛の目からビームが発射された。あかりに直撃する。あかりが昏倒。


「シャリ、ボスを頼む!」

前衛をシャリに任せてあかりに駆け寄る。ダメージはなさそう。息はしている。麻痺というよりは寝ているような感じだな。


『眠れる魂を集める巨大蜘蛛』

さっきのあかりのセリフを思い出す。睡眠光線なのか。叩いても起きないが。

「寝てるわ!」

メイを見に行ったケイトがこっちに叫ぶ。やはり睡眠光線?


 シャリのメイスが蜘蛛の口に当たり牙が一本飛んだ。蜘蛛は頭を低く構えなおすと目からビームを発射した。ビームが命中するがシャリは倒れない。状態異常耐性が効いてるのか。


『この状況、恩恵で何か解決できないか』

自分の持っている22の恩恵を思い浮かべる。僕だけなら精神耐性で耐えられるかもだが。なにか起こすような恩恵とか。


「ケイトさん!」

「はい」きょとんとこちらを見る。

「あなたに覚醒の恩恵を与えます」

ケイトのところに走り寄り、顔を両手のひらで固定。おもむろにぶちゅっと口づけをする。急いでるので舌を突っ込んで。


レベル接続コンタクト!』


 びっくりしただろうけどケイトさんは僕を受け入れてくれた。ケイトさんと僕との間にレベル回路が形成される。


レベル譲渡トランスファー!』


 僕は唇を放すとケイトさんに叫ぶ。

「皆を起こして!早く!」


 ケイトさんは両手を上げる。

「寝てる人、起きてください!覚醒!」


 その声を聴いた瞬間、軽い高揚感。頭がクリアになってきた感覚。今なら巨大蜘蛛を倒せそうな気がする。


 シャリと戦っている巨大蜘蛛に向けて槍を構えて長さを最大に伸ばす。シャリの攻撃とタイミングを合わせてカウンターを狙う。

『縮地!』

ちょうどシャリに噛みつこうとした巨大蜘蛛の頭部に長大な槍が突き刺さった。


「マジックミサイル!マジックミサイル!」

「えい!えい!えい!えい!」

あかりとメイから魔法と飛び道具が乱れ飛んでいる。


 僕とシャリは肩を並べて攻撃する。僕の横にケイトさんも入ってきた。

「一緒に!」


 巨大蜘蛛の攻撃パターンを読んでカウンターで合わせた。三人の同時攻撃で巨大蜘蛛がノックバックする。そこに手斧を投げ込んで追撃。


 巨体がよろめいてきたところに、槍を両手で構えて走る。騎士のランスの様に槍を突き出し、そのまま最大長に伸ばす。巨大蜘蛛の口から差し込んだ槍を頭部に突き抜けさせる。渾身の力で槍をぐるぐる回して蜘蛛の脳をかき混ぜる。巨大蜘蛛の足から力が抜け、巨体が崩れ落ちた。


 僕の体の奥から湧き上がるレベルアップ感。でかいぞ。2レベルか。

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