第22話 条件
夜。家族五人が横になって眠る。寒いのでみんなくっついている。具体的に言うと父さんと母さん、そしてシャリと僕とあかり。左から順。
僕は日によってシャリのほうを向いて寝たりあかりのほうを向いて寝たりしているのだが、今日はなんか微妙な感じなので上を向いて寝ることにした。
シャリは例のグレーのワンピースを着ている。あかりが無理矢理着て伸ばしちゃったので寝巻になってしまったのだ。
「おにいちゃん」
左で寝ているシャリが頭を寄せてきた。僕は首だけ左を向く。
「眠れないの」
そのままシャリは体を回転させてうつ伏せ状態から僕の左半身にかぶさってくる。僕の左胸に左の耳を当てる。
「おにいちゃんの心臓の音がする」
僕は右手でシャリの髪をなでようとしたが、肘を上げたところを右から掴まれた。そのままパタンと引っ張られ、僕の右腕はあかりの抱き枕にされてしまった。ムニュっとした感触が当たる。さっきのワンピースを着た時のパツパツの胸を思い出した。ちょっとあれはすごかったね。
あかりはそのまま動かない。僕の右腕を抱きしめて眠ってしまったようだ。まあ右腕ぐらいならくれてやるから。僕も目を閉じる。
「おにいちゃん」
うとうとしていたらシャリの声がした。僕は目を開ける。シャリが体を半ば起こしていて、目の前30cmにシャリの顔がある。
シャリの着ているワンピースは、あかりが伸ばしてしまったので胸元がズルズルに開いている。シャリが下を向いているので胸元がぶら下がって広がり、そこにはぽっかりとした空間ができている。ちょうど僕の顔の前だ。空間の中にシャリの白い肌が見えている。というか、服の中身が胸からお腹まで全部見える。いや、正確に言うと暗くて服の中はぼんやりしか見えないからセーフ。
『セーフ』
「起きてる?」
「起きてるよ」
隣のあかりを起こさないように静かに声を出す。
「恩恵の話なんだけど」
「あ、うん」
「さっきはよくわからないって言ったんだけどね」
「うん」
「おにいちゃんに関係あることなの」
「mjd!」
声を出しそうになって慌てて抑える。
「おにいちゃんが死にそうになったら」
「なったら?」
「シャリが身代わりになる恩恵」
「mjd!」
っていうか、そんなピンポイントな恩恵あるの?
「言ったでしょ……」
シャリは再び僕の胸に左耳を当て、右手の指先でゆっくりと僕の胸から脇を撫でる。
「おにいちゃんは、シャリが守るの」
『いやいやいやいやちょっと待ってくださいよ!』
眠気が吹き飛んでしまった。
どうしたらいいんだろう。とりあえず死なないようにするとか?
「あと思ったんだけどね」
「まだあるの?」
「おにいちゃんの恩恵なんだけどね」
なんだその話か。それならいいよ。
「おにいちゃんがレベル2のときにシャリはレベル0,1、2、3からはレベル上がれたんだよね」
「そうだね」
「おにいちゃんがレベル2のときおかあさんはレベル1から2になれたんだよね」
「うん」
「おにいちゃんがレベル2のとき、レベル4の人は誰もレベル5になれなかったんだよね」
「そう」
「それでおにいちゃんがレベル3になったらシャリはレベル4から5になれたんだよね」
「あ……」
「となると、おにいちゃんは自分のレベルより一個上のレベルの人までしかレベル上げられないんじゃないかな」
「それだー!!」
あかりがさけんだ。起きてたよね。
◇
翌朝。
「お兄ちゃん、レベリングしてさっさとレベル3にするわよ」
あかりが起こしにきた。
「レベルっていうのは努力して上がるから意味があるんで、抱きしめてチューで上がるなんて認めないんじゃなかったの?」
「お兄ちゃん、小さい」
寝よう。
「おはようおにいちゃん」
まだ寝床にいた僕のところにシャリが寄ってきた。四つん這いになって顔を近づけてくる。グレーのワンピースの首元がたるんで下がり、隙間というよりは胸元がぽっかりと口を開けている。もう明るいのでそこから白い肌が奥の方まで……
『妹だからセーフ!』
なんかちょっとみえた?
「おはようシャリ。お願いだからその服着て目の前で前かがみにならないで」
シャリはそのまま僕に抱きついてくる。
「おにいちゃん♡」
シャリはかわいいなあ。
「二人ともじゃれてないで、ご飯食べたらレベル上げいくわよ!」
◇
一人で村の広場に行く。あ、居た。
「ウェンさん、おはようございます!」
「おはよう。フィン君。姉君は御壮健かい?」
「えっと、姉……は元気ですよ」
「それはよかった!」
ウェンさんはなんか眠そう。目の下に隈がある。
「それで私になんか用かい?」
「えっと、ゴブリンとか魔物がいないか教えてもらえないかなと」
「ふむ」
騎士はフィンを見る。この子は魔物退治に行こうというのか。こんな子供が危なくないか?いや自分たちは先日この子達に助けられたのだ。特にこの子の姉、カトリーヌ様の強さは目に焼き付いていた。鎧も着ていないのに大きなバグベアを相手にして一歩も引かない立ち回り。しかも手に持つのは短剣のみ。その華麗な姿はまさに女神だった。
「ゴブリンは出ていないが……もしかして君たちが魔物退治するのか?」
「うん。あか……姉が僕に聞いてこいって」
「カトリーヌ様が行くのか!」
騎士は食い気味に話す。
「私も護衛として行かねばなるまい」
◇
「なんで連れてきちゃうのよ!場所だけ聞いてきてよ」
「付いて来ちゃったんだよ」
「私、おじさんとか苦手なのよ」
「でも一緒に戦ってくれるって」
「一人当たりの取り分が減るでしょ!」
「パーティー登録しなければいいんじゃない?」
「そんなことできるの?」
「わかんないけど。そもそもパーティ登録があるのかもわかんないし」
「うーん」
あかりは騎士のほうを振り返る。
「ウェン殿、見守っていただくのはありがたいですが、これは私の試練ゆえ手出しは無用ですよ」
「わかりました。カトリーヌ様」
騎士は姿勢を正す。チェーンメールに剣が当たり金属音がする。
「お父さん、お母さん、ちょっと騎士の人を森に案内してくるから」
「夕食までには帰るんだよ」
「はーい」
◇
「最近はゴブリンがおらんのだ」
「それっていいことなのでは?」
最前列を案内するウェンさんはちょっと困り顔で一瞬だけ僕を見る。
「まあ、そうではあるんだが……」
「ウェン殿、我々はどこに向かっているのですか?」
これから海に行くような格好のあかりが聞く。
今日もあかりはノースリーブのチュニックだけど、胸元は首まであるのに脇というか側面が腰紐の位置までばっくりと開いたハリウッドセレブ的な感じだ。下着を着けないので横からだと白くて柔らかい側面が見えて、目のやり場に困るっていうかまあ僕は横から横目で見てるんだけど、特に丸みの下側とチュニックとの間の隙間がですね。歩くとですね。
「おにいちゃん?」後ろからメイスで突っつかれた。
「この先二時間ほど行ったところの谷にある洞窟です。カトリーヌ様」
騎士は振り向かずにあかりに答える。
「ダンジョン?」
「いや、ダンジョンではないですね」
ダンジョンかどうかって定義があるの?
「ダンジョンでないなら……」
カトリーヌは微笑む。
「さっさとやっちゃいましょう!」
・・
「なにがいるんですか?」
僕は騎士に質問する。
「トロールだ」
トロール?僕の頭の中に北欧のカバみたいな灰色の生き物が浮かんでくる。
「トロールも妖精よ」
あかりが説明してくれる。なるほど、わからない。
「っていうか、妖精しかいなくない?」
「冬だからね」
有無を言わさない説得力がある。
「トロールって強いんじゃないの?」
ラノベに出てくるトロールはだいたい中級モンスターだ。多くの場合再生能力があり攻撃しても回復してしまう。
「D&Dベースであれば結構強敵よね。ラノベに出てくるトロールとそんな違わないかな」
「大丈夫かな」
このパーティはレベル5、レベル4、レベル4、そして僕だけレベル2だ。足を引っ張らないといいんだけど。
「おにいちゃんは、シャリが守ります!」
いや、それが一番心配なんだよ。
・・
二時間後、僕たちは谷に到着した。
「ちょっと休憩しようよ」
レベル4の皆さんについて行くのは大変なのだ。エルフのあかりは当然としてもシャリですら息を切らしてもいない。そういえばレベル5だったよ。
「なるほどね」谷の景色を眺めていたあかりがつぶやく。
「なにが?」
「トロールと言ったら橋でしょ」
「そうなの?」
谷にはつり橋がかかっている。
――
こちらシャリちゃんの挿絵です
https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652584713134
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