41 秘宝ダンジョン

 前のゴブリンキングとの戦いで、僕のレベルが4、シャリとあかりが5になった後、どっちの妹のレベルを上げるか大論争となった。結局はじゃんけんでシャリからとなったものの今度はレベル譲渡トランスファーが発動しない。その後あかりも試したがうまくいかず今に至る。


「お兄ちゃん、ダンジョン行くわよ!」


 今日は朝からあかりが張り切っている。ゴブリンキングがいたダンジョンがようやく一般に解放されたのだ。


「なんて名前になったんだっけ?」

「秘宝ダンジョンだって」

なんか田舎っぽい。

「それ何も出なかったら詐欺だな」


・・


 ダンジョンの入り口に小屋が立っている。雑な感じで「秘宝ダンジョン」と書いてあって地方感が漂ってる。

「年パスで三人です」

「はい。気をつけて」


 ダンジョンの中は灯りはいらないぐらいには天井がぼんやり光っている。壁や床は石でできているが継ぎ目は見えない。と言っても自然の洞窟ではなく平面で構成されているし時々扉もある。まさにダンジョンって感じ。


 そしてさっきからゴブリンがウロウロしているが、僕らを見ると逃げて行く。どうもレベル差がありすぎて怖がられているようだ。いまさらゴブリン倒してもカケラもレベル上がらないので問題ないけど。


 僕らのパーティは人数は少ないものの攻撃力は半端ない。問題は殴られ弱いところだな。防具着てないし。そもそもが斥候兼魔法使い、メイスぶん殴りヒーラー、槍持ち突撃器用貧乏という組み合わせなのでいわゆるタンクがいないのだ。攻撃力過多なので蹂躙している分にはいいんだけどね。


「ボス部屋よ!」

大きな扉の前であかりが手を腰に胸を張って宣言。久々のボス戦で気合が入る。ちなみに今日のあかりのチュニックは胸元が大きく開いたデザインのもの。ちょっと懐かしい。


 シャリが攻撃力付与を三人に掛ける。プロテクションはすでに掛けてあるし、もういいかな。一階だから大丈夫だろう。


「お邪魔しまーす!」

僕らは両開きの扉を蹴破って中に入る。


「やっぱりゴブリンか」

「みたいね。しばらくお願い」

ᚠᚱᚮᛘ ᛒᛂᛐᚥᛂᛂᚿ ᛐᚼᛂ ᛚᛁᚵᚼᛐ ᛆᚿᛑ ᛐᚼᛂ ᛑᛆᚱᚴᚿᛂᛋᛋ, ᚠᚱᚮᛘ ᛐᚼᛂ ᚡᚮᛁᛑ ᚮᚠ ᛐᚼᛂ ᚢᚿᛁᚡᛂᚱᛋᛂ, ᛒᛂᛐᚥᛂᛂᚿ ᛐᚼᛂ ᛐᛁᛘᛂ ᛆᚿᛑ ᛐᚼᛂ ᛋᛔᛆᛍᛂ, ᛐᚼᛂ ᚠᛁᚠᛐᚼ ᚵᚱᛂᛆᛐ ᛔᚮᚥᛂᚱ ᛋᛔᚱᛁᚿᚵ ᚢᛔ ᛐᚮ ᛐᚼᛂ ᛔᛚᛆᛍᛂ ᚥᚼᛂᚱᛂ ᛁ ᛍᚮᛘᛘᛆᚿᛑ・・


 あかりが呪文の詠唱を開始した。僕はその前に立ち警戒する。シャリがメイスを握って更に僕の前に立つ。


 前のゴブリンキングの時よりボス部屋は狭い。ひょっとして毎回変わるのかも。狭いと言っても50m角ぐらいはある。短剣を持ったゴブリンが部屋の中央から手前にワラワラと10体ぐらいかな。

 奥の方には弓を構えたゴブリンと剣を持ったのがやっぱり合わせて10体ぐらい。真ん中に玉座があって、あれはゴブリンキング?だろうか。


 部屋の中央にいたゴブリン達がやって来た。シャリがエンゲージしてメイスで叩きのめす。そこに部屋の奥から矢が飛んできた。どうも仲間に当たるのも気にしてないようだ。あかりをガードしながら槍を振って矢を叩き落とすが一部は受けてしまう。僕はレベル4なのでこのぐらいはかすり傷程度だけど痛いものは痛い。


『やっぱり盾がないと辛いな』

本当はタンク役が欲しいんだけどいないものはしょうがない。大きな盾か障害物みたいなものが欲しいところ。


 シャリがメイスを振り回し、寄って来たゴブリンをほぼ叩きのめした。全部一撃。どう見ても攻撃力過多だな。

 ベルトポーチから鉄球をゴロゴロと取り出すと、さっきからうざい弓持ちゴブリンに投げる。僕の持つ投擲の恩恵が発動し、人間が投げているとは思えない速度で飛ぶ鉄球がゴブリンに命中。さらにシャリの攻撃力付与の恩恵が発動しゴブリンを吹き飛ばす。なんか微妙なインチキ感。


 そうこうしていると後ろから聞こえるあかりの呪文詠唱がひときわ高くなる。

「マジックボム!」

部屋の一番奥、ゴブリンキングの辺りに呪文が炸裂した。純粋なエネルギーが解放される。白い光が広がり、ゴブリン達の姿が影となって光に飲まれて消える。遅れて爆風が来る。ゴブリンの手足が散乱。


 光が薄れていくと残っているのはゴブリンキングだけか。そこをマジックミサイルが大挙して襲う。こうなると僕は見ているだけ。


 ゴブリンは全滅した。


「魔法だけで?」ちょっと拍子抜け。

「一階なんだからこんなもんよ」

「前のゴブリンキングは強かったよね」

「あれはキャンペーンのレイドボスみたいなもんだから。今回は普通のリポップ」


「おにいちゃん、宝箱あったよ」

部屋を探索していたシャリの声がする。玉座の裏に宝箱があった。あかりの魔法で黒焦げになり一部溶けている。手斧で鍵を壊して開ける。

「金貨だけか」


 玉座の奥の壁に両開きのドア。押してみるとゆっくりと開く。下に行く階段。

「なるほど!」

一階ボスをクリアしたら二階に行ける。これがダンジョンか。


 今回は最初なので二階をちょっとだけ見て帰ることにした。



 二階といっても感じは一階と同じ感じ岩壁。ただし通路はちょっと広い。前から魔物が二体歩いてくる。人よりも背が高く、がっしりした体格。毛むくじゃらで、直立した熊という感じ。でもメイスだか棍棒だかを持っている。


「バグベアだ。久しぶり」

バグベアシャーマンより大きいのでバグベア戦士とか?そういえば僕はこのタイプと直接戦ったことがなかった。


「行き掛けの駄賃だな」

槍を両手に持ち、構える。


『縮地!』

超高速移動の恩恵を発動させる。次の瞬間、バグベアの胸を僕の槍が貫通した。串刺しになったバグベアが後ろに倒れる。


 すかさず腰から手斧を抜いてもう一体に向き直ったところに、大きなこん棒が襲い掛かってきた。手斧で弾きながら躱す。そのまま攻撃するが手斧だと一撃が小さい。ちょっと攻めあぐねたら、いきなり目の前のバグベアに光の矢が5本突き刺さった。バグベアが倒れ、黒い煙となって消える。あかりは強引だ。


「おにいちゃん一人で突っ込んだら危ないでしょ」

シャリが心配するけどこのぐらいは僕だけで大丈夫。レベル4なんだし。


 そして帰り道。階段を上って扉を開けて出たら一階のボス部屋の前だった。あれ?ボス部屋の奥じゃないんだ。どういうこと。


「ここからまた二階に行けるの?」

「出る方は一方通行なのよ。ボス部屋は裏から入れないの。ダンジョンはどこもそう」

あかりの返答。そうなんだとしかいいようがない。


 ちなみに今日の冒険で上がったレベルはほぼゼロ。敵の強さに比べて僕のレベルが高すぎるのだ。いつもレベル低かったのでこういう経験は初めて。あかりがレベル上がらなくて悩んでいた気持ちがちょっと分かる。


――

ひさびさのダンジョンで気合が入るあかりちゃんの挿絵

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652781460002

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