第二部第一章 ようやくですがダンジョンを攻略します!

40 二人の妹

 納屋の中、干し草にまみれて僕は妹に押し倒されている。妹のシャリは僕の上で薄く目を開いて口元は半開き。小学生の歳なのに最近色気が出てきたな。いや本当は僕と同い年だから中学生の歳か。


 シャリの唇が探るように動いている。僕はシャリの下からそっと唇を合わせる。僕の持つ恩恵であるレベル譲渡トランスファーは相手と口を合わせると、つまりキスで発動するのだけど、このぐらいでは何も起きない。いろいろ条件があるみたいで例えばレベル差がありすぎると駄目みたいなのは分かっている。でも1つ差までは大丈夫なはず。ちょっと舌を伸ばしてその唇を舐める。


 僕もシャリも日本だと子供の歳だけど、この世界では”恩恵”を持つ人つまりレベルのある人は大人の扱いだ。そしてレベルが上がらない子供は大人になれず死んでしまう。僕が転生したこの世界のルールだ。大人の扱いと言っても身長135cmの妹シャリは子供みたいで、150cmちょいの僕から見てもずいぶんと小さいし細い。


 近すぎてピントが合わないシャリの目が僕を見ている。右手を細い金髪のおかっぱ頭に添える。左手でシャリを抱えたまま干し草の中で転がる。僕の下でシャリが干し草の中に埋まりそう。ここで躊躇しないで、せーの。


レベル接続コンタクト!』

シャリが僕を受け入れる。シャリと僕との間にレベル回路が形成される。ここまでは順調。そして。


レベル譲渡トランスファー……うーん』

惜しい気はするんだけど。


「シャリにはまだレベル6は早いんじゃないかな?」


 納屋の開口部からエルフのスレンダーなシルエットが入ってきた。でも胸は大きい。もう一人の妹あかりだ。

「おねえちゃんだって昨日は駄目だったでしょ」

シャリが後ろから抱きついてきた。ちょっと拗ねてるのがかわいい。


 あかりは身長は僕より10cmぐらい高く、茶色の髪で深い緑の目。そしてやたらに美人。妹と言っても女子高生ぐらいに見える。エルフなのでもっと年上かもだけど。

 なぜエルフが妹なのかというと中の人が日本から転生してきた僕の妹らしいのだ。本人はそう言っている。僕は転生前は日本の18歳だったはずなんだけど、日本の記憶がないのでよく分からない。


「そもそもレベルアップというのは努力の積み重ねの成果なわけで抱きしめてチューなお子様とは年季が」

「人間レベルじゃないって言ってたよね」

あかりに突っ込む。


 僕の”恩恵”はキスすることで自分のレベルを相手に移す能力だ。相手のレベルは上がって僕のレベルは下がる。今は僕のレベルは4で、シャリとあかりはともに5。


「お兄ちゃんも、相手が妹だからってテレがあるんじゃない?」

「お前だって妹だろ」


・・


 納屋から出ると外はまだ明るい。というか昼前だ。毎日朝から何やってるんだろう僕たち。

 家の向こうからトントンという建築中の音が聞こえてくる。家の前に行くと父さんが小屋を立てている。そしてその向こう、道の反対側の方でも大きな建物が建築中。


 先月に領内でダンジョンが見つかって以来、来るであろう冒険者相手に、村の中でいろいろと準備が進んでいる。向こうの大きな建物は領主が建てている宿屋。この村にはもともと決まった行商人程度しか来なかったので宿屋がなかったのだ。


 うちの前で父さんが建てているのは、形態としてはカフェなのかな。もともとは母さんの持つ癒しの恩恵で冒険者向けにヒールをするお店の予定なんだけど。

 この地方、木だけはいっぱいあるので掘建小屋なら簡単に建つ。基礎工事には僕も参加した。先日のゴブリンキング戦で獲得したスコップの恩恵は凄くてちょっとしたユンボぐらいの性能があるから落とし穴もすぐ掘れる。いまさらだけど。


「なんかカフェやるってテンション上がらない?メニューとか考えないと」

あかりが工事現場を見ながら言う。美少女姉妹のいる隠れ家カフェってなんかアニメみたいだな。

「おねえちゃんカフェってなに?」

シャリが首をかしげる。そういえばこの世界にコーヒーはなかった。茶店?



 村には領主の騎士団が数名来ていた。顔なじみのウェンさんを見つけて声をかける。

「こんにちは。ウェンさん」

「よう、フィン」

最近この辺に出た魔物の情報を聞く。


「そうだな。ゴブリンは減った。バグベアを見たという話はある。そんなところだ」


 バグベアか。普通の人じゃまず勝てないな。一人で相手するならレベル3は欲しいところ。


・・


「バグベアが出たらしいよ」

ということで兄妹三人で森に行ってみた。僕らにとってはバグベア退治なら散歩みたいなものだ、と言っても探すといないんだけどね。


 仕方ないから鹿狩りでも、と思ったら気配察知の恩恵に反応。人より大きいが、魔物ではないな。動物だ、となると。

「熊だ!」

叫んで槍を構える。バグベアじゃなくてベアだけど。今日の獲物はこれで。


「マジックミサイル!」

まだ距離があるのに、あかりがいきなり魔法を使った。白い光の矢が手から放たれる。


『縮地!』

負けずと超高速移動の恩恵を発動して突っ込む。槍が貫通し運動エネルギーで熊が吹き飛ぶ。そこにマジックミサイルが突き刺さった。しかも5本。


「熊ぐらいじゃ手ごたえないわね」

ぼろぼろの熊。マジックミサイルで毛皮が穴だらけ。

「これじゃ売り物にならないよ」

「森の恵みなんだからおいしく食べなさいよ」


 最近の森は平和すぎてみんな退屈している。そんなところに、ついにダンジョンに入れるという知らせが飛び込んできた。


――

第二部開始時ステータス


フィン:レベル4(人間:転生者)

・恩恵:レベル判定、レベル移譲、気配察知、槍使い、投擲、格闘、縮地、精神耐性、スタミナ向上、ロケート、手斧使い、スコップ


シャリ:レベル5(人間)

・恩恵:癒し(フィンに効果2倍)、プロテクション(フィンに効果時間2倍)、攻撃力付与、メイス使い、リワインド、状態異常耐性

・マジックアイテム:真実の宝石、麻痺のメイス


あかり:レベル5(エルフ:転生者)

・恩恵:鑑定、初級攻撃魔法、中級攻撃魔法、隠密、耐寒

・マジックアイテム:夢の鍵、よく切れる短剣、ワンドオブワンダー


――――

狩の挿絵はこちら

https://kakuyomu.jp/users/yamamoriyamori/news/16817330652472693557

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